テラーノベル
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腕のなかでわずかに力を抜いた元貴の顎に、
そっと手を添えた。
「……ん」
顔を上げさせる。
指先で支えるように、唇を重ねた。
ちゅ……
濡れた音が、静かな寝室にひとつだけ響いた。
「ん…っ」
元貴の声が漏れた時、
若井の動きが、ぴたりと止まる。
その声にハッと我に返る。
そして、少しだけ、これ以上進むのを躊躇った。
それは、ただの臆病ではない。
元貴のことを、大事にしたかった。
腕のなかの元貴は、それ以上は何も言わず、
若井の鎖骨あたりに顔を寄せたまま、
ただじっとしていた。
目を閉じたまま、呼吸だけが
かすかに震えている。
若井は一度離した唇を
もう一度押しあて、
ひとつだけ、浅いキスを落とした。
──
そのやわらかさに、
“愛しい” という痛みにも似た感情が溢れる。
──
ふたりのあいだの、沈黙が揺れる。
──引くか。 それとも、このまま進むか。
けれど次の瞬間、
元貴の唇が、ほんのわずかに動いた。
応えるというほどではない。
ただ、拒んでないように感じた。
その小さな反応が、若井の背中を押した。
俺の全てで愛したいと、思った。
若井は一瞬だけ、息を吸い込んで、
もう一度、唇を重ねた。
今度は、少しだけ角度を変えて。
触れる面積を増やすように。
ゆっくりと、また、舌を差し入れる。
濡れた感触が重なった瞬間
「……っ」
元貴の身体が、小さく揺れた。
ほんの少し、肩がすくむ。
その震えを、若井は逃さなかった。
むしろそれを抱きとめるように、
腕の力をわずかに強める。
キスは、今度はそのまま 深くなっていく。
ぴちゃ……ちゅ……
舌と舌が、控えめに、
でも確かに絡み合っていった。
互いの熱をゆっくりと確かめるように、
呼吸のリズムを探るように、
若井は、押しすぎず、けれど引きもしない。
暫く、お互いを確かめ合う、キスをしていると
元貴の舌が一度だけ、控えめに動いた。
それに驚いたように、若井の眉がわずかに揺れる。
今度は引かない。
少しだけ強引に、絡め返す。
「……っ、ふ……」
唇の端から、かすかに息が漏れる。
その音に、若井はびくりと心を揺らした。
……元貴の気持ちを大切にしたい。
……まだ何も聞けてない。
けれど、もう止まれなかった。
身体が触れ合う場所から、じわじわと熱が広がっていく。
広がる衝動を抑えて、
若井の指先は、ずっと優しかった。
壊さないように。
でも、離さないように。
そのキスは、
たしかに深く、
たしかに長く、
そして何よりも、
二人の間にしかない、愛があった。
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コメント
25件
離れている間に新しいお話が投稿されてたー!!! 愛しい≒痛みの表現は、また色々な意味を持ちますね…若井さんの胸の内のように一つに留まらない意味をこの二つで表現するとは… 大森さんが戻ってくる瞬間を楽しみにしています!
最近色んな作家に嫉妬してます。才能ありすぎだろ。 はぁ。ほんとに病むわ。 作者
連載の説明欄にもありましたが、いざ元貴さんが若井さんからの愛を受け止めているのを見ると新鮮な気持ちになります……🐟🫧 というか説明欄のセリフが……🫣 無理しない程度に頑張ってください!