テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
帰り道
森絵都
一
律(りつ)
「さようなら」
学校の門を出ると、ぼくは周(しゅう)と並んで歩き出した。
周はいつものように、道端の石ころを蹴っ飛ばしたり、空を見上げたりしながら、ペラペラと楽しそうに喋っている。
ぼくは、その横で「うん」とか「そうだね」とか、短い相づちを打つのが精いっぱいだった。
ぼくは、昔から口下手だ。頭の中にはたくさんの言葉や思いが浮かんでいるのに、それをうまく口に出すことができない。
一方の周は、思ったことを何でも素直に言葉にできる。明るくて、誰とでもすぐに仲良くなれる周のことが、ぼくは少しうらやましかった。
今日の放課後、ぼくたちは掃除の分担をめぐって、クラスの男子とちょっとした口論になった。
周はぼくをかばおうとして、激しく相手と言い争ってくれた。
でも、ぼくは何も言えなかった。うつむいたまま、立ちつくすことしかできなかったのだ。
(周は、頼りないぼくに呆れたんじゃないだろうか……)
そう思うと、胸の奥がぎゅっと痛んだ。
一段落 終わり
霜月リラ@瑠璃ノ月第4夜
37
naf
25
引退時。くわしくは作品へ
20
コメント
1件
第82話、読み終えました。律くんの「言いたいことがあるのに言えない」もどかしさが、すごく丁寧に描かれていて胸が締め付けられました。周くんがペラペラ楽しそうに喋る横で、短い相槌しか打てない——その対比が、律くんの内側の痛みを一層強く伝えてきますね。「頼りないぼくに呆れたんじゃないか」の一文に、彼の自己肯定感の低さと周への信頼の揺らぎが滲んでいて、続きが気になります。ライオンさん、繊細な心理描写をありがとうございます。