テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
1,461
3
ララは再び高梨さんが待つブースに戻った。
「待ったよ~! ララちゃん! 10年待った気分だよぉ、僕ちゃん! 僕ちんだけのララちゃん! 誰にも渡さないぞ! 可愛いララちゃんっ。ン~、香水変えてないんだね。甘いムスクの香りだ」
(ヤダ! この人、あたしが少しだけ付けるトワレの匂いまで憶えてる。ォエ~……)
「僕ちゃんね、お船を買ったんだよ、ララちゃん。ララちゃん海は好きかい?」
「……ぁ、はい」
「僕ちゃんのお船にね、乗せてあげたいなー。ララのお姫様を。爽快だよ~! アッハハハ!」
高梨さんはお酒が好きでガンガン飲む。そして酔いが回ってくるとえげつない言葉が増える。
お金持ちなんだろうけど、品のない人だなと感じ、ララは心底高梨さんが嫌いだ。
「ありがとうございました」
やっとこのオヤジをこの場から追い出せる。正直言ってそんな気分だ。
嫌々腕を組み、作り笑いで玄関までお見送りする。その時だ……。
高梨さんが耳元にフ―っと臭い息を吹きかけてきた。
そして「愛しているよ……ララちゃん。もう離さない」と囁いた。
ゾゾゾゾゾ~ッ! 凍り付くララ。
気持ち悪くてめまいがした。
しかし、前の店のように、あからさまな迷惑行為をしない限り、お客様として扱わねばならない。仕事だ。
思いやられる。お先真っ暗だ……。
「フー……」
待機室に戻ると遥ちゃんと十木恵ちゃんと遥ちゃんが居た。残りの二人はまだ接客中かな。
「ララ姐さん、どうしたの? 大丈夫? 顔色よくないよ?」と十木恵ちゃん。
続けて遥ちゃんが、うんうんと頷き「体調悪かったら、早退しちゃったほうがいいんじゃないですか」と心配してくれている。
「ありがとね。大丈夫よ」
上がりまであと15分ぐらいだ。頑張る。
17時になり、早出の女の子がみんなロッカールームへ行く。
ララは吐き気を催し、しばしおトイレにこもった。そして嘔吐してしまった。
(風邪でも引いたかな? 否、高梨さんが嫌なのよ。体にまで出ちゃって……辛いな)
吐き切って、少し気分が落ち着いた。
ロッカールームから遅出の遅刻した女の子が出てきた。
「ララさん、お疲れ~。あれ? なんか元気ない? 大丈夫?」と声を掛けてくれた。
「うん、ちょっと疲れてるみたい。帰ってゆっくり休むよ。ありがとうね」
「うん、お大事に~!」
スタッフ専用出口から出て行くララ。
外へ出ればもう麗三だ。
麗三の中では『麗三』も『ララ』も大差はない。この20年そう。
飾りっけなく接客をしてきた。
(あ~! ほんと今日はサイテーだった! なおちゃんに……聴いてもらってもいいんだろうか)
少し麗三は悩んでしまう。
麗三は自身の仕事柄、なおちゃんの心情を気遣い、普段お店での話はなるべくしないようにしてきた。
が、高梨さんの件は嫌さがハンパない。ストレスで吐いてしまうんだもの。
帰宅すると、手軽にナポリタンを作っていただき、入浴しお肌と髪の毛のお手入れをした。
(なおちゃんにやっぱり話さないほうがいいのかな、辛いけど。ン……なおちゃんに話して甘えても良いのか、こらえるのか。わかんないな~……)
するとスマホが鳴った。なおちゃんだ。
『お疲れさま、麗三……? 麗三、今お話し大丈夫?』
「うん、もちろん大丈夫よ、なおちゃん。なおちゃん、お疲れさまです」
『うん。親父がさ~、ここのとこ酷い』
「あ、お父様の認知症が?」
『うん……近くに住んでくれてるアネキのお陰で助かってるけどさ、お袋がいなくなっちまった事が相当ショックだったんだろうなー、親父……』
なおちゃんのお父様は関東近郊に住まれている。去年お母様がご病気で亡くなってから、認知症が始まってしまったのだ。
『アネキが旦那の実家に行くらしくってさ、今週末はオレがオヤジにつきっきりになりそう。麗三、逢えないと思うけど、ごめんね……許してね。次のデートはドライブに連れて行くよ』
「あたしの事は大丈夫よ、なおちゃん。それよりお父様……」
『うん、ヘルパーさんは24時間ついている訳じゃないしね、みんなで看て行くしかないね』
「そっか~。体壊さないでね、なおちゃん」
『ありがとうね、麗三。麗三……? 麗三なんか、いつもより元気がないよ。何かあったの? 何でも言ってよ』
「ううん、お仕事が忙しかったから少し疲れているだけです。特に何もないよ」
お父様の事で大変ななおちゃんの気を揉ませたくない……。
『麗三……』
「ハイ」
『好きでたまらないよ、麗三』
「あたしもよ、なおちゃんが大好き!」
『うん……。クタクタだろうから、ゆっくりしなよ、ネ、麗三。早めにお布団に入る事』
「ハ~イ」
『じゃぁ明日も電話するよ。おやすみ』
「おやすみなさい、あたしのなおちゃん……」
――――そして、翌朝。
(お仕事までに家事しちゃお~っと。ハー……)
体調は悪くはないが、気分が最悪の麗三。
(今日もくるんだろうなー、高梨さん……ヤダ)
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!