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「おはようございま~す!」
「ああ、ララちゃんおはようございます!」
店長が生花の水を替えていた。普通ならボーイがしそうなところだが『夢と黒猫』店長はお花が大好きなのだ。自宅でもたくさん育てているらしい。
「綺麗ですね、カサブランカ。い~い香り」
「うん、私の趣味ですよ! ああ、ララちゃん、きのうの新規のお客様、高梨さん? 今日も外でお待ちです。ララちゃんを相当お気に入りのようですね。頑張って、ララちゃん」
「はぃ」
やっぱりかー。もう居るんだ~。開店1時間以上前だ。
「おはようさんです! ララ姐さん、ご加減いかがですか?」
安湖ちゃんが今日は早い。
「ありがと、ゆっくり寝たから大丈夫だよ」
「ほんまに~? ララ姐さん、倒れんといて下さいよ」
「任せて。適当にするからさ」
「うんうん、それが一番やわ~。ぼちぼちやで、ララ姐さん!」
「あれ? 今日は里奈ちゃんまだなの?」
すると向こうから店長。
「あ、里菜ちゃんは今日お休みするって。その分ララちゃんも安湖ちゃんも頑張って~」
「ハーイ!」
(ハー……高梨さんが待ってるんだと思うと、はっきり言って衣装を選ぶ気分も萎えちゃうわ……)
今日は支度にもたつく麗三。結局ブルーの露出度低めのワンピースにした。
「おはようございま~す」
「おはようございまーす!」
遥ちゃんと十木恵ちゃんがロッカールームに入ってきた。
「あ! ララ姐さん、お元気になられましたか? きのうよりは顔色よさそうだけど……」
「遥ちゃん、ありがと。あ、里菜ちゃん今日休みらしいよ、忙しくなりそうね! がんばっ」
「ハーイ!」
十木恵ちゃんも微笑み返事をした。
いつものように音楽が流れ始めた。もうすぐオープンだ。
待機室で口紅を塗っているとさっそく佐藤君が顔をのぞかせた。
「ララさん、ご指名です。よろしくお願いします」
「はい」
(高梨さんだな……。なんか鳥肌立ってきた)
ブースへ入る前、佐藤君が「ララさん、ロングでラストまで延長されたいとの事で、色を付けて先にお会計済みです!」
「はい、わかりました」
(さ――――――ぃあくっ! でも、切り替え、切り替え)
やっぱ高梨さんだ。
「ラァラちゃァ――――ン! 僕のララちゃん。きのうから今この瞬間までさみしくてさみしくて、僕ちゃん、ララちゃんが恋しくて泣いていたんだよ!」
「恐れ入ります」
「ン~、そんな他人行儀にしなくて良いよ! 僕達は恋人同士なんだからね? ネ? あらあらあら~! ララちゃん、今日は清楚なプリンセスだねー。ブルーのお召し物が綺麗だよ!」
「ありがとうございます」
「じゃあね、僕ちゃんはおビールを浴びちゃうよ。ボクのお姫様ララちんはオレンジジュースだね!?」
「はい」
――――「じゃ、お人形よりもかわいいララにカンパ――――――イ(ゲプ!)」
(わわわ、くっさい、げっぷした~。[失礼]のひと言もないんだねー。ほんとヤダ)
高梨さんは機嫌よく自作の歌を歌い始めた。
♪ララララララ~♡ぼくちゃ~んのララちゃーんはぼくぅにだけむちゅぅ~! チュウチュウチュチュチュッ~♪
(このままただただ歌い続けていて欲しい、要らない事はしゃべらないで。それならまだ我慢できるわ)
しかし、高梨さんのオンステージははすぐに終わった。
「僕ちゃんのスキな人は誰~?」
「ララ……ですか?」
「ううん、うううううん! ダメダメ。『ですか』は要りません! ハイ! もう一回、愛しのララちゃま行くよ~!?」
「僕の好きな人、だぁれ?!」
「ララです」
「そうだよー! 僕たち相思相愛、アイアイアイアイアイアイアイ愛情いっぱい。ラブリーな恋人同士だね~」
チラッとあちらを見た時……たまたまボーイの多田さんと目が合うと音楽の爆音の中、多田さんがクスクス笑っていた。
笑わないほうがおかしいと思う。でも、笑う気にもなれないんだ、ララは。不愉快極まりない。お客様に本当に申し訳ないが。
「ララちゅわぁーん! ンー好きだよ~。好きだよ! 僕のお姫様ぁ……。僕を好きなんだろう? さぁ、僕を好きだよって言ってごらんよ、恥ずかしがらずにララ姫!」
「すき」
「ンンン~、照れてるところがララちゃんぽくて素敵だよ! イイねイイね、イイね~。ララちゃんは僕ちゃんとお船に乗れそうなの?」
「あの……高梨さん、ご存じだと思うのですが、あたし達はお客様と外で会ってはいけないという決まり事がございます!」
「ああ! 真面目でかわいいなぁ~、ララちゃん。もちろん僕は大金持ちで遊び歩いているからね、知っているよ、そんな事は。『ごっこ』だよ『ごっこ』。デートしましょう~ってね、おしゃべりだけで『ごっこ』するの! ネ! イイ娘だねー、ララちゃまは! じゃ、言うよ? もっかい。ララちゃん、今度のデートはいつにするかい?」
「あ、あさって……かな」
「そうか、ララちゃん。じゃあね、僕ちゃんのお船に乗って一緒に海を観ましょうね!」
「はい」
「ぅぅううう! ンまるッ! 120点満点! これを取っておきなさい」
高梨さんは……お札を3枚出された。3千円。チップはこっそりいただくものだ。でも、高梨さんからは1円たりとも欲しくない。しかし、これまでの経緯(前のお店)を考えるともらわない訳には行かないだろう。
「どうしたの? ララ姫ぇ……?」
「あ、ハイ……。では、ありがとうございます」
バッグへサッとしまう時、お札をよく見るとすべて1万円札だった。
(ゲ! そ、そりゃあ、お金は必要だけど……コワ、あとが怖い、この人)
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