テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
その日から私と由利だけの秘密の交流が始まった。
二人だけの秘密というのもへんにスリルがあって面白い。
秘密の友人である由利を得てから一週間が経ったころだった。
その日、私はバスケ部が休みの千尋と一緒に帰っていた。
「最近の一華は楽しそうだね」
「楽しいっていうか嬉しいの。お母さんがちゃんとしてくれるから。ちゃんと私を見てくれるから」
「そうなんだ。お母さんは一緒にいていいの?今まで一華を男と一緒になって虐待してたんでしょう?いつか一華を裏切るよ。それに一華には私がいるじゃない」
「そうだけど。でもそれは逆らえなかったからだと思ってる。現にお母さんも同じように暴力受けていたし。でも今は違うの。やっぱりあの男がいなくなったから普通に戻ったんだよ。学校では千尋がいてくれる。家ではお母さんがいる。こんな素敵な日常がくるなんて考えてもみなかった。私、言ったんだよ。二人でやり直そうってお母さんに」
その瞬間だった。千尋は私に今まで見せたことのない表情をした。
「そうなんだ。優しいね一華は」
そう言って笑ったときはいつもの千尋だった。
それから数日後だった。お母さんが父親を殺したとネットに書き込みがされたのは。
教えてくれたのは由利だった。
いつものように夕食を作っていると由利から電話が来た。
「た、大変だよ一華!」
「どうしたの由利?」
由利の声からは只事でない切迫したものを感じた。
「一華のお母さんが、一華のお父さんを殺したってネットに書き込まれてる!」
「ええっ……嘘でしょう?」
「本当!名前と住所まで!写真まである!早く警察に届けないと!」
「どうやって!?」
「どうやって…… とにかくサイトを送るから、そこに書かれている被害者だって言えば警察が後は教えてくれると思う」
そう言って電話を切ると、由利はLINEでURLを送ってくれた。
私は目を疑った。父親はたんなる行方不明のはずだ。警察だって疑わなかった。
「なんで?なんでこんなことになっているの!?」
深呼吸しても動揺が消えない。
「どうしよう?どうしよう……?落ち着いて。落ち着いて……これから私は警察に届出を出す」
誰が一体こんなことを?
「家の住所までや写真まであるなんて!お母さんは殺していないのに!」
お母さんは殺そうとした。しかし殺したのは私だ。
私は急いで警察へ行った。
翌日になり私は千尋に事の顛末を話した。
千尋は驚き、そして心配してくれた。
お母さんが帰ってくるまで千尋は私の家にいてくれた。
帰ってきたお母さんは千尋と会うたびにどこか怯えていた。
由利と連絡を取り合うのはいつも千尋が帰った後だった。
由利も私のことを心配してくれた。
私にはこんなに心配してくれる友達が二人もいる。
そのことがこんな状況でも嬉しかったが、お母さんは私のように心配してくれるような友達はいるのだろうか?
日に日に精神的に追い詰められているようなお母さんが心配だった。
お母さんの不安と恐怖は私の中にも入ってきた。
いろんな色がぐちゃぐちゃして混ざり合ったような、黒いタールのような不快で苦痛に満ちていた。
いつの間にかマンションの塀には「人殺し」と、落書きがされ、この辺では見かけたことのない人を何人も見た。
警察は何の根拠もないネットの落書きでお母さんを殺人犯とはしなかった。
警察にとって私たちは誹謗中傷による被害者だった。
そして冬を前にしてお母さんは首を吊って死んだ。
それを見たのは私が学校から帰ってきて玄関を開けたときだった。
千尋が家に遊びに来るといって二人で一緒の帰ってきた日に、私はお母さんのぶら下がった死体を見たのだった。
やっと手に入れたのに……。
お母さんがちゃんと親をやってくれて、友達もできたのに……。
これからなにもかも始まると思っていたのに、死んでしまうなんて。
お母さんが死んでしまうなんて。
その時私はあまりのことに呆然自失となってしまった。
ふらふらとぶら下がっているお母さんの遺体に縋り付こうとした私を止めたのは千尋だった。
千尋は私の名前を呼びながら背中を思い切り叩いた。
我に返った私に、千尋は「絶対に部屋には入っていけない」「警察を呼ぶから自分の側から絶対に離れるな」と、今までにない強い口調で言った。
私は震えながら千尋に抱き着いた。
その後は警察が来ていろいろ聞かれた。
その中でも印象的だったのが、小野寺という刑事だった。
小野寺はお母さんの死が自殺と決まったのにも関わらず、しばらく私に話を聞きに来ていた。
以前の家庭環境のこと、今後の身の振り方など私にことを何かときにかけている風だった。
精神面でのケアも考えて専門の人間にカウセリングを受けてはどうかと勧められた。
千尋にそのことを話すと「それなら私が聞くよ。一華が少しでも楽になるように、前に進めるように私が話し相手になる。だから専門家なんて必要ないよ。ああいう人たちって自分の研究や手柄のために他人の頭をかきまわすんだから」と、言った。
警察にはカウセリングが必要なら自分で探すと言って、警察が進めるカウセリングを断った。
その後、ネットに書き込んだ奴らが逮捕されたと小野寺が報せてくれた。
どいつもこいつもいい大人で、そのくせ働いていないから賠償金も払えないとかいうダニみたいな連中だった。
さらに聞いた話だと、一番最初の書き込みは智花と紅音と茉莉によるものだった。
ただ、個人名や住所は伏せて書いてあったので三人は逮捕されなかった。
書き込みをした理由は、お母さんが智花たちが私をいじめていたことを志望校に報告するといううわさを聞いたからだと言っていた。
小野寺からそのことを聞かされて私は驚いた。
そんなことは、お母さんから聞いたことがないからだ。
そのことを調べたくても私にはもう時間がなかった。
両親がいなくなった以上、もうここに住んでいられない。
施設かお母さんの実家で祖父母と暮らす以外の選択肢はなかった。
私が祖父母の家に引き取られて暮らすことが決まったのは、冬休みが終わって学年最後の学期が始まったころだった。
私はある日の学校帰りに千尋の家に寄っていた。
夕方近くになるころで、庭でトマトに水をやる千尋を見ていた。
「一華。これからどうするか決まったら教えてね」
「うん」
私はまだ千尋に自分の身の処し方を話していなかった。
千尋への別れをいつ言おうか自分の中で踏ん切りがつかなかった。
「お母さんのことは残念だったけど、きっとお母さんは一華との生活に耐えられなかったと思う」
突然千尋が言い出した。
「ど、どういうこと?」
「お母さん、実は私に何回か相談に来ていたの。一華とのことを」
千尋によると、失踪届の件で私から唯一の友達と聞いたお母さんは、千尋に今まで知らなかった私のことを聞いたりしていたらしい。
「私、お母さんから頼まれたんだ。一華のことをよろしくお願いしますって」
初耳だった。お母さんが千尋と会っていたなんて。
「そのとき感じたの。この人は何故か一華を怖がっているって」
「なにか言っていたの?」
「ううん。一華にじゃなくて、自分の犯した罪について怖がっていたんだと思う。今まで一華を虐待していたこと。きっと、一華に償いたくても一緒にいると自分の罪と常に向き合うことになるから怖かったんじゃないかな」
今となっては確かめようがない。
水をやり終わると二人で家の中に入った。
千尋は私に紅茶を出してくれると、自分はトマトの観察ノートをつけ始めた。
「いつもなに書いているの?」
「へへ……記録。前にも言ったじゃない。これが趣味なんだから」
千尋が照れ臭そうに言う。
「見ていい?」
「ダメ!だって人に見せるように書いてないから恥ずかしいんだもん」
千尋は笑いながらノートを閉じると立ち上がった。
「そういえば昨日ケーキ買ってきてたんだ!一華はショートケーキとチョコレートケーキどっち食べたい?」
「じゃあチョコで」
「OK!ついでに紅茶も入れなおしてくるね!」
そう言って半分になったカップを持つと千尋は部屋を出て行った。
部屋の中には私が一人。目の前には千尋の観察ノート。
今迄、このノートがこんな無造作に私の前に置かれることはなかった。
いつも本棚にきちんと片付けられていたのに。
千尋は恥ずかしいと言っていたが、私は好奇心が勝ってしまい、悪いと思いながらもノートを開いてしまった。
事細かに写真と一緒に成長記録が書き込まれている。
でもトマトの横にある人の名前は何だろう?
ページをめくると、ある人物の名前が書いてあった。
高橋智花の名前だ。その横に自己顕示欲と書いてある。
「智花が見下している存在が智花より上だと聞かされたらどうなるか?」と、いう記述のあとに「一華の方が全然可愛い」とあり、これを噂にすると書いてあった。
その下には「いじめはじまる」とあり、「人は他人のことを自殺するまで追い詰められるか?」と書かれていた。
その下に「失敗」「智花は失敗作」と書かれていた。智花の記録はそこで終わっていた。
私は体が固まってしまった。
これはどういうことだろう?以前、由利が言っていた「智花が私をいじめるきっかけになった噂」というのは千尋が流したものだったのか。
しかも最初からこうなることを目的として。
体が震えてきた。なんだこれは?いったい何が書いてあるんだ?トマトの観察記録じゃないのか?
震える指でページをめくると、目に飛び込んできたのは私の名前だった。
「大発見!この子はとても強い共感力がある!」「この子はきっと私のことを理解できる」と、書いてある。
「智花たちから助けて私に依存させる。私が誰にも理解されないでいる一華を育てる」と、育成方針らしきものが書いてあり、その後は私が千尋に話したことがたくさん書かれていた。
家のことも事細かに書いてある。
「一華に必要な栄養→肯定。獲得。理解者。」「一華の育成を阻害する害虫→両親」と、あった。
「自分で害虫を排除させる。成功体験が一華に自信と成長を促す」ともある。
そして父親の失踪を相談した日の日付で「最高傑作か!?」と、記してあった。
ぞっとしたのは、文言はともかく、内容が極めて客観的で感情的なものが微塵も感じられないということだ。
本当に千尋は「観察」した記録をつけているだけなのだ。
体の震えを必死に抑えて耳を澄ます。
物音は聞こえない。ドアの外に気配もない。
次のページをめくるとお母さんの名前が書いてあった。
動悸が早まっていく。
胸が圧迫されるような息苦しさを感じる。
お母さんの名前の横に必要な栄養が書いてあった。
「贖罪と罰」とあり、お母さんが千尋に私のことを話しに来たことが書いてあった。
それから千尋は私の知らないところで。お母さんに私に対する虐待と父親の失踪に対する疑惑を突きつけて何度もなじっていたとある。
お母さんが千尋を見たときに私に見せて怯えはこれが原因だったのか……。
「必ず一華を裏切る」という記述。これはどういうことだろう?千尋が話していてそう感じたということだろうか?
そして智花たちの耳に入るように、お母さんが志望校へいじめを告発するといったうわさも千尋が流したものだと書いてあった。
観察対象は智花とお母さんで、結果的にどうなるかいくつか予想が書かれていて、お母さんが自殺した日に「収穫期・自殺」と、書いてあった。
お母さんを死に追いやったのは、私が憧れて、自分の太陽だと慕う千尋だったのだ。
最後に「一華には私だけ」と、書いてあった。
この恐ろしいノートの中で、この一行だけが千尋の感情を表していた。
千尋は私が千尋以外のものを持つことを許さなかった。
ましてや私を虐げてきた女を私が親として慕うなんて度し難いことだったのだ。
あのときの千尋の表情はこのためだったのだと理解した。
全てを知ってしまった。
どうしよう。震えが止まらない。
自分が混乱しているのがわかった。
そのとき、一階の方から物音がした。階段を上がってくる足音がする。千尋だ。
私は急いでノートを閉じた。
千尋の足音が近付くにつれて、私は震えながら泣き出していた。
「一華!お待たせ!ケーキと紅茶持ってきたよ!」
千尋が満面の笑みでドアを開ける。
「一華……!どうしたの!?」
泣いている私を見て千尋は驚くと、テーブルにケーキと紅茶が乗ったトレイを置いて私の横に来ると肩を抱いた。
「どうしたの!一華!」
千尋はとても優しい声で私に声をかける。
どうしてこんなにも私に優しいの?
「お母さん……お母さん……」
「一華……」
「ごめんなさい千尋。私、今日はちょっと変なんだ……帰るね」
千尋は私を家まで送ると言ったが、私はその申し出を断った。
私は千尋に見送られながら歩いて行った。
千尋は私を独占したがために、お母さんを自殺するように仕向けたのだ。
憎い。私の新しい人生を奪った千尋が憎い。
千尋に対する憎しみは智花たちへのものなど比較にならないものだった。
私の中では千尋に対する憎しみでいっぱいになった。他のものなんて考えられないくらいに。
千尋に対する憎悪が次から次へと湧き出してきて頭蓋骨の中を這いずり回るような感覚。
一晩中気が狂いそうだった。
それでも千尋に対する憧れと執着、愛しさが残っている。
まだ私の中に、憎悪の沼の中心にポツンと蓮の花のように愛しい感情がある。
私は愛しい千尋になろうと決めた。
彼女を理解できるのは私一人だけだ。なら理解して千尋になる。
そしていつか、私が力を持ったときに、私と同じように、千尋の中も私への憎しみだけで満たしてあげる。
あなたが私を独占したいと思ったように、私もあなたを独占する。
そうすれば私とあなたは、お互い以外は世界に存在しない同一の存在になる。
そう決心したころには涙は枯れて、窓からは朝日がさしていた。
私はこの日、生まれ変わった。
千尋を私だけで満たすには、今の私ではできない。
もっと時間と力が必要だ。
私も千尋になるための時間と力。
私は由利以外のクラスメイトには引越しの日を伝えなかった。
千尋にも。
唯一、引っ越し先を教える由利に連絡を取って、学校帰りに久しぶりに由利の家の近くにある公園で会った。
千尋は今日、部活でいない。
「由利。私、明日引っ越すから」
「そっか……なんか不思議だな。一華とはこうして面と向かって話すのは片手の指より少ないのに、会えなくなると思うと寂しい」
「私も。でもLINEや電話でたくさん話したし、それはこれからも変わらないよ」
「今度の件は酷すぎるよ。もうあの子たちと関わりたくない」
由利は吐き捨てるように言った。
「大丈夫?そんなことしたら由利は一人になっちゃう。それにあいつらに標的にされるかも」
「いいの私は。そうなったらそうなったで仕方ないよ。当然の報いってやつ」
うつむき唇をかみしめる由利の頬に髪が垂れる。
そんな由利を見ていて胸が締め付けられるような感じがした。
この感じはなんだろう?
「由利。顔を上げて」
顔を上げた由利の瞳には涙がたまっていて、紅潮していた。
「由利は嫌だろうけど、これからもあいつらと一緒にいて。そしてあいつらのことを私に教えて」
「どうして?どうしてよ一華?」
「お母さんのことはこのままでは終われない。ケリをつけるの。いつか必ず」
由利はうなずいてから私を見つめると、ふいに制服のネクタイをほどいた。
「これ。もらってくれる?餞別。急だから何にも用意してなくて悪いんだけど」
「ありがとう」
ネクタイを差し出す由利の手を握ってから受け取ると、私は自分のネクタイをほどいて由利に差し出した。
「私のももらってくれる?交換しようよ」
「いいの私で?千尋じゃないよ?」
「いいの。由利と交換したいの」
由利はうなずくと私のネクタイを受け取ってから、首に絞めた。
私も同じように自分の首に絞める。
「これでもう、お互いに忘れなくて済むね」
由利はそう言って愛らしく笑った。
「ねえ由利、聞いていいかな?」
「なに?」
「前に千尋の話題になったとき、なんか様子が変わったから気になっていたの。なにかあるのかなって」
由利はきまずそうに私から目をそらす。
「私のことなら気にしなくていいから」
「一華の友達だし、あんま悪く言いたくないんだけど、苦手なんだよね。私、千尋のことが。苦手っていうかちょっと怖い」
「怖い?」
「うん。なに考えているのかわからないっていうか、あの笑顔も貼り付けたみたいに感じるし、気にしすぎなのかもしれないけど……ごめんね」
「いいの。由利の言っていることは当たっているから」
「一華。私が言うのも余計なお世話かもしれないけど、千尋とはもう関わらない方が良いと思う」
「ありがとう。千尋には引っ越し先を言わないから。由利の外には誰にも教えないから。だから由利も知らないことにしておいて」
「わかった」
もし由利が引っ越し先を知っているとわかったら、千尋がなにをするかわからない。
私はそれが怖かった。
それから私たちはベンチに座り、夕日が私たちを赤く照らすまで他愛のないことを語り合った。
「じゃあ行くね」
「一華」
ベンチから立とうとした私の手を由利が握る。
目が合うとどちらともなく体を寄せて自然と唇を重ねた。
由利の唇は柔らかく、首元から漂う甘い香りが私を切なくさせた。
翌日の早朝に私は由利の連絡先だけを控えて、スマホを処分して祖父母の家へ向かうために街をあとにした。
新しい場所に移っても、パリへ留学しても、ずっと由利とは連絡を頻繁に取り合った。
由利の存在は荒涼とした砂漠に湧き出る小さな泉だった。
私は引っ越し先の学校で千尋のように振舞った。自分の記憶にある千尋を細部まで再現して人と接していると、いつの間にかクラスの中心的なポジションにいた。
以前では考えられないことだった。
そして千尋の秘密を知ったときに気が狂いそうになるのを抑えたことから、以前のように他人の感情に共感しても精神が影響されたりすることがなくなった。
共感して考えることもできるが、受け流して他人を学習しながら自分を守ることもできる。
これも千尋のおかげということになるのだろう。
私は千尋と過ごしていて理解したことがある。
千尋は他人と共感するということがない。その代わり、並外れた観察力と頭の回転で人の心を把握する。
相手の悩みやコンプレックスを正確に把握して言葉をかける。周りの反応を見て合わせる。
いつの頃からかそうして周囲に溶け込んできたのだろう。
千尋と接していると、喜びや楽しいという感情は伝わるときがあったが、悲しみや怒り、憎しみという、いわゆる負の感情は全く感じたことがない。
そのせいか千尋は他人の負の感情に強い興味を示していたように見える。
そう。理解できないことからくる興味。
人間は自殺するまで相手を追い込められるのか?死を選択する人間の感情は?自分の環境を変えるために他者を殺せるのか?
それを確認するために他者を動かす。
これら全てが純粋な興味によるものだった。
そして自分の影響で変わることに喜びを見出していた。
種をまきトマトを育てることと、他者に干渉して自分の影響で変わっていくことは同じ行為なのだと、あのノートを見てわかった。
側にいると影響されるが離れてみると本当によくわかる。
私はクラスの空気を操作して、いじめを起こした。
そして、いじめられていた生徒に復讐を促した。
最終的には、いじめグループのリーダーと一緒に駅のホームから電車に飛び込み、二人とも死亡した。
この件で私は千尋のように人を操る術を覚えた。
それはパリに行ってから芸術の才能と比例するようにさらに磨きがかかった。
ルイを得たころの私は作品が評価され、パトロンもつき経済的にかなり裕福になっていた。
機が熟したのだ。
由利から高橋智花達三人の状況を詳細に知っていた私は、日本に家を買ってからルイを何度か日本に行かせて、田島紅音、小田茉莉を順に拉致監禁させて、私が日本へ帰国するたびに殺害し、骨を作品の材料にした。
日本に不慣れなルイのサポートは由利がやってくれた。
そして私の帰国に合わせて同窓会を開き、念願の千尋との再会を果たしたのだ。
千尋のピンチを救い、私の影響力を強くする。そのための薬物混入事件だった。
再会したことで私の中には千尋に対する愛憎が以前にも増して強くなるのを実感した。
日本で本格的に活動をするのと同時に、元担任の福島を拉致して殺害。
ナイフに指紋をつけて高橋智花のお腹に、内臓の代わりに入れておいた。
そうすることで連続失踪事件として騒がれ始めたものを福島のせいにする狙いがあった。
小橋愛や関本果歩を拉致殺害したのは、私をいじめた相手以外の被害者が出れば私を犯人像から外す一因になるのと同時に、千尋から友人を奪うことが目的だった。
私以外のものを持つことは許さない。
だがまだまだ終わらない。
いまはまだ地獄の淵。
地獄の底まで私と一緒に堕ちてもらう。