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「あんのピンク頭……ぜってぇ殺す」

「まろ落ち着いて……アニキもありがとう」

完全にブチギレているまろちゃんを他所に、僕らの命を救ってくれた悠くんに礼を述べたりうちゃん。

片手で天井と上に積まれた家具やらを受け止めた悠くんは、全然ええで、と零して僕らに疑問を当てた。

「大体察しはするんやけど、ここまでやられるか?普通。お前らならすぐ吸ってポイやろ」

「それが…なんか変な力使う人間でな、コンビネーションも凄くて……」

そう放った途端、悠くんの表情が強ばっていく。

「それって…」

状況が読めぬ僕とりうちゃんとは裏腹に、大きな瓦礫の上に座るまろちゃんはため息混じりにこう零す。

「お察しの通り、アイツら聖職者や。それも相当な腕前、特にピンク。3対1のクセに道連れにしようとして来とった。そんで、瞬発力と何かの能力で水色に塞がれた」

「こんなん、俺らにとって有るまじき失態やろ」

「……要するに、大分お怒りなまろちゃんは自分の手でピンク頭を殺したい、と?」

「大正解、お前ら邪魔すんなよ」

はいはい、と承諾すると、頭の隅にとある疑問が浮かぶ。

「あの聖職者…ってやつなら、本部まとめてここ攻めに来るやんな?どうすんの?」

「そりゃやっぱり隠れ家変えるべきや、どうする?かなり離れた場所でもええし」

みなで頭を抱え思考を巡らせていると、りうちゃんがあっと声を漏らす。

「逆に目立つ廃墟とかよりも、一般人として部屋借りて過ごすのとかは?」

「りうちゃん!?リスク高すぎん!?」

「いいや、逆にバレないかもしれん、アリや、それ」

真っ先に一刀両断され、完全に流れがりうちゃんの案に流れていく。

「も〜っ、わかったよ!!バレても知らんからな!!」

「そーこなくっちゃ!さっすがしょうちゃ〜んっ」

そう言って嬉しげに飛びついてくるりうちゃんに苦笑しながら、外へと出向いた。






「目立った外傷はないけれど、肋骨が2本イカれてる。治癒は施したけど1週間は安静にね」

「わかった、ほんとにありがとう…っ」

「それにしても、あのないこさんがなんでこんなに傷を?」

真剣な眼差しで貫いてくる瞳に息を飲み、ひとつ零した。

「実は、吸血鬼と会ったんだ、4人。ないちゃんは1人でその内の3人を相手にしてたの」

「よ、4人もの吸血と…!?」

「そう…それで、ないちゃん最後殺されそうになって、道連れにしようとしてたところを間一髪で助けたの…」

「わかった、上に報告しておくから、ほとけはないこさんの元に付いていて」

白い衣服を揺らしながらヒールを鳴らし病室を出ていく同僚の医療医。彼女には昔からお世話になっていて、よく怪我をしては治癒を受けていた。頼れる女性で、何度も何度も貸しを作り、今回もまた貸しを作ってしまった。

そして、なによりないちゃんにも苦労や貸しを作ってしまった。

戦闘後かつ肋骨が折れてる上に、僕を担いで体重にプラスし風圧を耐え忍んでくれた。

本当に迷惑をかけてしまった。僕のせいでないちゃんが痛い思いをした。でも、ないちゃんが助けてくれた命、捨てたいなんて思わない。逆に、僕は復讐に燃えたぎるよ。

「ん…いむ…?」

「ないちゃん!!!!」

起き上がろうとするないちゃんの肩を優しく抑え、再度寝かしながら報告を続けた。

「青いのは……」

「吸血鬼たちはまだ捕らえられてない、2週間以内に全体的に大規模な捜索が始まるよ」

「でも、ないちゃんは最低1週間は安静にし」

「いや、行ける。明日にでも全回復する」

「はぁ!?そんな……!」

「アイツらのせいで怪我してお利口に休んでたらアイツらの思うつぼだから。一刻も早く見つけ出してあの青いの真っ二つにしてやる」

ないちゃんが言うなら相当恨んでるんだなぁ…なんて思いながら、1度ブレーキが外れたないちゃんは誰にも止められないことは承知の上で、満更でもなく「適度にね」なんて吐いてやった。

「そう来なくっちゃ」と笑うないちゃんに少し笑みが溢れるも、僕もアイツらを狩る準備はしておかなきゃいけない。生半可な気持ちで挑んだら、今度こそ死ぬ戦いなんだ。






「まぁ行けるか!」

「行けないからぁっ!!!」

思いのほか回復しなかった次の日の朝。

限界まで治癒をかけてもらったから戦力にはなるはず。人並みより劣るかもしれないが、火事場の馬鹿力ってやつで乗り切れるだろう。

「今日僕は本部に用事があって同伴もできないから…だから安静にしてて?」

「大丈夫、ちょっと離れた地方の村パトロールするだけだよ」

「〜〜っもう!危なくなったらすぐ帰ってきてね!」

「勿論」

1度決めたら曲げない性格を察してか、諦めたように呆れるいむに左手でハイタッチをして、右手で指を鳴らす。

飛んでくる剣をキャッチし、この場を後にした。






「田舎はいいなぁ…っ」

少し伸びながら深呼吸をする。

人口も少なく、山と隣接しているほどの田舎なんていつぶりだろう。都市部の空気にはウンザリしていたところだ。

ただ、なんだろう、この違和感は。

村の活気が微小にも感じられなければ、全員が小声で誰かに向けて哀れみの言葉を向けている。

その中でも、生気のない顔色で俯く女性を見つけた。そして、村中の視線は、彼女に向けられていることに気がついた。

「こんにちは、すみません、つかぬ事をお聞きしますが…何か…」

「お兄さん…わたし……ッ」

「もう大丈夫ですよ。ゆっくり話してください」

どうみても普通じゃない震え方をする彼女を宥めつつ、安心させるように微笑みかけた。

「息子が…山に入ってから戻ってこないんです…!!」

隣接している山に視線を向け、凝視していると、山の奥から、ただならぬオーラが漂っている事が伺えた。

「夫も…息子を探してっきり帰ってこなくて…!」

「話してくれてありがとうございます、おふたりが山に行った時間帯はご存知でしょうか」

「息子は昨日の丁度この時間帯でした…夫は朝方に……」

「わかりました、必ずふたりとも保護して帰って参ります。安心してまっててください」

思いっきり右足を踏み込み、全速力で駆け抜ける。まるでアニメのように、家の屋根の上を駆けて跳ねて、1度やってみたかったんだよね、なんて呑気に走り続けた。

最後の家を横切ろうとした刹那、その家の住人であろう老人に声をかけられた。

「今すぐ街へ帰りな。鬼が出るぞ」

(あれは確か…村長の…)

「大丈夫ですよ、僕が狩りますので」

老人を背に、山へと足を踏み入れた。




山の奥に入ろうが、虫や動物すら見当たらない。やはり吸血鬼の影響なのだろうか。


乾いた様な、嫌な風が吹く。

静寂の中、葉同士が掠れる音が響いた。


「っ!?」

後ろを振り返ると、5歳ぐらいの少年が俯きながら立っていた。

「大丈…っ」

ちがう。ダメだ。ダメなやつだ。

一瞬で悟ってしまった、悟ってしまったが、時は既に遅かった。

「おに、ォにい、チャん」

頭を四方八方に動かしながら面をあげる少年。目の焦点が合っていなければ、口から血も垂れている。改めて見れば全身傷だらけで、とても人間の子供とは言い難い姿だった。

どうするべきかと相手を伺っていると、突然奇声を上げてこちらに飛びかかってきた。

「ちょっ…!?」

瞬間的に剣を抜く。

(切るべきか!?切るべきなのか!?)

覆い被さるように乗りかかり、逆刃で少年の首を押さえつけた。

(ダメだ、切れない…っ)

「はなシて、はナしテ゛」

「おと゛ウさン゛!!!!!」

少年が叫んだその刹那、背中に鈍い激痛が走った。衝撃により前方に転げ落ちると同時に、助骨に強烈な痛みが襲う。

「ってぇ…ッ」

助骨がイカれた。既存の怪我の復活か、もしくはそれ以上の損傷か。無理矢理にでも立ち上がり、震える足に叩いて喝を入れる。常人なら動けないほどの痛みだろう、だが今はそんな痛みに構ってられない。

息を整えながら彼らに剣を向け、戦闘態勢に入る。

今は保護なんて言ってられる状況じゃない。ふたりも保護できる状態じゃないだろ。

大体おかしいだろ。なんでふたりはこうなってる。助けに来たはずじゃないのか。1日2日でこんな状態になれるわけがない。

思考を巡らせろ、考えながら戦え。

指をパチン、と鳴らす。その拍子に飛んでいく掴んでいた剣。手を四方八方に動かし、遠隔で操作する。

痛くて動くのも辛いなら、俺が動かなければ良いだけの話。

もう片方の手の指で音を鳴らし、隠し持っていた瓦がふたりの頭部目掛けて一直線。鈍い音と共に響く血が飛ぶ音。1部が欠損した額から垂れ続ける血液は見るに堪えないものだった。

もう一度指を鳴らし剣が手の内に戻ると、激昂したような父親らしき吸血鬼が一目散に飛んでくる。

(はや…っ!?)

スピード強化系の異能なのか。こりゃ最初の体当たりも痛いわけだ。

急いで剣を振りかざそうとした刹那、涙ぐんだ女性の姿が浮かんだ。

(躊躇するなよ、切るんだろ!?)

再び自らに喝を入れ、再度剣を強く握った。

「おトぅ゛さン…ォかアさん…」

少年がそう呟いた瞬間、何たる鈍い音が山中に響いた。

大木と身体が激しく衝突した音が耳を包み、全身に言い表せない痛みが伝う。


切れなかった。


少年の声を聞いて、俺の身体は動かなかった。彼も好んで吸血鬼なんかになったわけじゃない。だからといって、保護して帰れるわけが無い。なら、大人しく死を受け入れるのみか。


いいや、違うだろ。

足掻け、思考しろ、止まるな、動け。

何のために聖職者になった。兄ちゃんの仇を討つためだろうが。


とっくに限界を超えた身体を奮い立たせ、震える足で立ち上がる。

「来いよ…みんなまとめて助けてやるから…!!!」


「やめとけよ」

聞き覚えのある声が耳を包む。後ろの雑木林から姿を現したのは…。

「お前……っ!?」

「喋んな。死ぬで」

「お前を殺すのは俺や。やから黙っとれ」

靡く青髪と高い背丈、目つきの悪い面と関西弁。間違いなくあの吸血鬼だ。

「おい、慎め三下。死にてぇか」

そういった途端、吸血鬼が指をパチンと鳴らした。その刹那、親子の吸血鬼たちの首が飛んでいく。

(待て、前まであんな能力持ってなかっただろ…!?)

「…なんて思ってそうやから言うけど、お前らに会って新しく習得したんよ。これは水色対策」

「お前らのこと調べさせてもらったで。水色は空気を硬化し動かす力。お前は…触れたものを動かす力やっけなぁ」

「そこまで調べてると思わんかったろ?それぐらいお前のこと本気で殺す気やねん」

「……ただ、その様と頭じゃ困んねん」

「何だよ急に……っ」

限界で座り込むように倒れた俺の目の前に屈む吸血鬼。

「あの女、ホンマにただの人間やと思ってたん?バカもええ加減にせぇ」

「は…?たしかにあの人は……っ」

「村のヤツらが話してたこと、よく聞いとくべきやったな。みんなアイツが吸血鬼やないかって疑ってたワケ」

「完治もしてないだろうに。その癖乗り込んできてこのザマだと困んねん」

「だから、今回だけ特別に俺が治してやる」

「何言って…」

「動くな、下手すりゃ悪化するぞ」

そう言って吸血鬼は、俺の両頬を力強く包んだ。


え、ちょ、こいつ何して…っ!?


重なり合った唇に伝わる熱。だが、瞬時に汚物を扱うように離された。

「は…?え……?」

「…しゃーないやろ、これしかないねん」

聖職者を目指し、仇を打つことしか眼中に無く、ただひた走ってきたツケだろうか。こんな体験初めてで、宿敵の前で顔を真っ赤にするなんていう醜態を晒してしまう。

「…お前、もしかして童貞?」

「なっ゛!?お前!!!!マジ今殺す!!!」

「図星か?童貞」

憎たらしいツラに剣を突き付ける。このクソ野郎、今ここで葬ってやる。

「まぁええわ、童貞と醜態も拝めたしここでお暇させてもらうわ」

「だから!!童貞じゃっ…!!!」

そう言いかけた刹那、指をパチンと鳴らした吸血鬼が跡形もなく消えてしまった。

今すぐ追いかけて殺してやりたいところだが、今は仕事をこなすところだと自制する。

すぐにあの女性を捕獲し本部に届けなければ。


そう考えたつ前に、既に足は動いていた。

民家の屋根を飛び移りながら走る先には、俺の姿を見てギョっとしながら逃げていく、見覚えのある女性の後ろ姿が。

「みなさんすこし離れて!!」

そう声をはりあげながら、少し手荒に女性を地面に押さえつけるように側面に飛び乗った。

痛々しく短い悲鳴を上げる彼女に、いむの力があれば…なんてすこし罪悪感を抱いてしまう。

「お騒がせしてすみません、今からこの女性を本部基地に連れて行きます」

「緊急です、人が乗れるような不要な板状のものはございませんか!!」

なんて叫ぶと、駆け足で分厚い大木の板を運んできてくれた大工の方。

「兄ちゃん、これ使いな。ありがとな」

「こちらこそ」

板へ飛び乗り、指をパチンと鳴らす。

浮かんだ板は、本部へと我ながら物凄いスピードで飛んで行った。






「ないこ、ただいま戻りました!!」

本部の、お偉いさんも一般職者も多く集まる場所へと飛び込んだ。

「ちょ、ないちゃん!?!?」

そこにはいむもいたようで、たまたま空いていた窓から板ごと突っ込んできたことに驚き焦っている様だった。

「吸血鬼と見られる女性を捕獲、その他3匹の吸血鬼と戦闘、そのうち2匹の撃破に成功しました」

「残りの1匹は先日接触した吸血鬼だと確認できました。彼女のご対応願います!!」

青い吸血鬼に助けられた挙句キスされたなんぞ死んでも報告できないししたくもないため、自分の手柄の如く都合よく報告してやった。

ざわめく広場と、急いでこちらへ駆け寄ってくる専門の方たちといむ。

「空気圧で気絶していますがそのうち目を覚まします、お気をつけて」

「ないちゃん!アイツと会ったの!?」

「…会った……けど…」

「けど…?どうしたの?」

「仕留めきれなかったのと…あの、助けられちゃって」

「まぁとりあえず詳しいことは後!」

「俺行くとこあるから」

「え、どこに?」

「医療室」

「ちょ、また怪我!?って、ねぇぇぇぇっ!!!」

【青桃】狩る者と、狩られる者と

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