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チューザレ大司教と聖女の一件が片付いたが、アザレアにはやり残していることがあった。


奈落を塞ぐことだ。


それはアザレアにしかできないことだった。


この話題はなるべく避け、結界石がまだ大丈夫なのだから、わざわざ危険を侵して奈落を塞ぐ必要はない。皆そんな空気を漂わせていた。


それでも将来を考えたら塞げる時に塞ぐべきなのだろう。だがそれは当然危険を伴い、命を落とす可能性もある。みんなはきっと反対するに違いなかった。


その話をカルにする決意をし、アザレアは執務室のドアを叩いた。中に入るとカルとフランツが書類と格闘していた。カルは入口に立つアザレアの姿を目にとめると微笑む。


「アズ、どうしたんだ?」


そう言うと、手に持っていた読みかけの書類を机に置く。


「二人とも少し話したいことがありますの。お時間はありますかしら?」


そう言うと、二人ともなんの話だか察しがついたのか、緊張した面持ちになった。


「わかった、話を聞こう。座って」


カルがそう言うと、フランツがアザレアにソファに座るように促した。アザレアはソファに腰掛けると早速本題に入る。


「奈落のことですわ」


カルはやっぱり、という顔をしたのち残念そうな顔をしたが、フランツは憤っているようだった。


「私にできるなら、塞ぐのを試してみたいのです」


カルはフランツに向かって言った。


「フランツ、少し席を外してくれ」


フランツは苦い表情をすると書類を置き、部屋を出ていった。


カルは真剣な眼差しをアザレアに向けると言った。


「命に変えても奈落を塞ぐ、それが君の希望なんだろう?」


そしてつらそうな顔をすると、続けて言った。


「その気持ちを曲げるつもりもない。お妃教育だってなんだって、一度こうと決めたらやり抜く、君はそういう人だ。分かっている」


アザレアがカルを説得しようと口を開けると、カルがそれを制した。


「私は君の意志を尊重したい。それを諦めさせたら君を愛する資格はないと思っている。君を全力で支える。そんな存在でいたい。それに私は君を絶対に守り抜くよ」



そういうと立ち上がり、アザレアの前に跪いた。そして手を取る。


「そのかわり絶対に生きて帰って来てくれるね?」


そう言って瞳の奥をずっと見つめた。


「約束します、絶対にカルを残して死んだりなんかしません」


するとカルは立ち上がり、アザレアの頬を撫でる。


「ありがとう」


そして、アザレアを包み込むように強く強く抱き締めた。アザレアもカルを強く抱き締め返す。アザレアはカルの胸の中で、カルの心臓が早鐘のように鼓動しているのを感じた。しばらくしてカルは口を開いた。


「本当はこのまま腕の中に閉じ込めて、何処へも行けないようにしたいよ」


と、つらそうに言った。


「なぜ君は時空魔法を使えるんだろう。なぜ他でもなく君なんだ。なぜ君が奈落を塞がなければならないんだ」


そして、そっと体を離す。


「だがそれが君なんだ。時空魔法が使えることも、奈落を塞ごうとしていることも、全て含めて君なんだ。だから私はそれを受け入れたい」


アザレアはカルの顔を見上げた。


「我が儘を言ってごめんなさい。我が儘を聞いてくれてありがとう」





その後、みなで奈落を塞ぐための作戦が練られた。


奈落は、ちょうどケルヘール家の領地の結界を出たところにあった。お陰で誰に遠慮することなく研究棟を立てることができた。


奈落を塞ぐために全魔力を使用出きるよう、それ以外での魔力の使用は極力抑えなければならなかった。

ヒュー先生とも協力し、奈落の近くへ行く時に必要な飛散粒子を無効化する魔石、粒子無効魔石の必要数、その耐久時間などが話し合われた。


一番の問題はアザレアの魔力が高すぎて影響を受けやすいことだった。その他の貴族たちも魔力の高い者たちばかりだ。結界石を用いて結界外へ出るとしても、奈落から一番近い場所に出て、粒子無効魔石を設置するのは、かなりリスクの伴うものだった。


「僕がやります」


フランツが手を上げた。


「魔力のない僕が、適任でしょう」


そう言うと微笑む。


「このような形で、僕が役に立てるとは思いませんでした」


カルはしばらくフランツを見つめる。


「いいのか?」


フランツは微笑む。


「危険はありますが、死地に赴くわけではありません。大丈夫です。やらせてください」


とカルを見て頷いた。


作戦はまず最初に、フランツが発動済みの小さな結界石と粒子無効魔石を設置しながら前進し、その後ろから別部隊が粒子量を測定しつつ、フランツのサポートと結界内へ救出移動。そして、カルがアザレアのサポートをしながら奈落へ向かうことになった。


カルに何かあっては国の一大事となるので、最初にカルがアザレアのサポート役を買って出たときは、皆が反対した。


「アズ、君にもしものことがあったとき、私は君のそばにいたい」


カルはアザレアにそう言うと、頑としてそれを譲らなかった。フランツも最初は反対していたが、最終的には説得を諦めた。


「では殿下、くれぐれもアザレア様をよろしくお願い致します。僕も側にいたいのですが、それは叶わないでしょうから」


それを受けて、カルは微笑んで答える。


「そんなことお前に言われるまでもない」


アザレアは二人に向かい


「よろしくお願い致します」


と頭を下げた。


今回の作戦のために教会の監視下で、元聖女にも結界石を作らせているそうだ。アザレアは不思議に思って訊いた。


「あんなにも私に憎悪を向けていたのに、手伝うものですの?」


するとフランツが答える。


「僕のために作って下さい。と、説得したら『あの女の呪縛から逃れて、目覚めたのね! フランツ様はやっぱり私のことが好きなのよ!』と言って喜んで作ってくれました。もちろん作戦の事は伏せて話してあります」


それを聞いて私は思わずため息をついた。


「結局、あの方はなんの進歩もありませんのね」


横で聞いていたカルも苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「ほぼ幽閉されているようなものですからね、完全に現実逃避でしょう」


そう言ってフランツは苦笑した。

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