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「私はのこのこ三個、うさくさ十本、えるのみ二個だわ~」
「のこのこ十個、うさくさ十本、えるのみ十個。確認お願いします」
「ね、ネイちゃん、凄いわね! 特にえるのみが分裂したみたいにそっくりの形だわ!」
「ネイは採取が得意なのですよ!」
「ネマ姉みたいに、戦闘ではお役に立てないので、その分採取をと……」
見ているだけでネイの採取の腕前がずば抜けているのが分かる。
早くて丁寧なのだ。
それぞれ一ダースずつの依頼を既に達成してしまった。
なかなか良い滑り出しだろう、この三人は。
「何暢気に採取なんかしてるのよ! ちょっとネイ! アンタ、こっちに来なさいよ!」
ネラがネイに飛びかかろうとするのをローレルが叩き落とした。
何が起こったのか理解できなかったのか、ネラがぽかーんと間抜けに口を開けてローレルを見上げる。
「ガードスライムはこちらから攻撃しなければ様子を見るだけなのですわ。そんなことも知らず助けを求める冒険者と関わりたくないんですの。クレアさんとネラさんが助けるのは自由ですけれど、私たちは主様に高く評価していただきたいので、どうぞ巻き込まないでくださいませ~」
「そ、そんな! 私は知らなかったの! 教えてくれたっていいじゃない!」
「クレアさんは知っているはずですよ?」
「……ええ、知っていましたけど。突然モンスターに対峙してパニックを起こした冒険者を助けるのも、主様は評価してくださるのでは?」
彩絲に向かって話しかけられる。
ローレルの肩の上へ降りた彩絲は大きく首を振って、再び岩陰へと隠れた。
「助けるに値しない方もいらっしゃると、主様はお考えのようですわ~。私もそう思いますもの」
「てめぇらっ!」
一人の男が逆上する。
自己責任という言葉を、彼等は知らないらしい。
ローレルは冷ややかな侮辱の眼差しで男を見やってから、優美な動作で氷花狂い咲く杖《アイスマッドブルームワンド》を振るう。
「手加減が難しいですわね?」
男の体が足から胸元まで凍りついた。
「か、格好良いです!」
「無詠唱ですね。すばらしい!」
ネマとネイが絶賛している。
ワンドを振るったのは相手への威嚇の意味も兼ねているのだ。
本来なら無詠唱で頭の天辺まで一瞬のうちに凍らせて終了だろう。
「な、何でこんなに強いんだよ? おかしいだろ!」
「ローレルさん! やり過ぎです!」
「そう思うなら、貴女が助ければいいでしょう。先ほどのように、ねぇ?」
ローレルの言葉に唇を噛み締めたクレアは、マジックバッグの中からポーションを取り出して男に甲斐甲斐しく飲ませている。
ネラは男の足下に何やら小瓶の中身を振りかけた。
氷が溶けていくところを見ると、状態異常解除のポーションだろうか。
随分と高価なアイテムを買ったものだ。
ガードスライムで助けを求めるくらいにダンジョンを知らない無知な冒険者に、ポーション代金を払う経済力はないだろうに。
無償で与えるつもりだとしたら非常識が過ぎるだろう。
ここは忠告した方が良さそうだ。
「高価なポーション代、誰が払うつもりで使ったのか、聞かせてみよ」
威圧をかけながら人型に変じれば、男は二人揃って粗相をした。
クレアとネラも一緒に硬直している。
「答えよ、ネラ」
「え! あの、その!」
「その者たちが払えないならば、お前とネラで支払うことになるぞ?」
「そ! そんな! 主様はそんなに冷たい方なの、ひぃっ!」
威圧を強くすれば男たちは震えだし、クレアとネラも粗相をする。
「冒険者の常識じゃ、馬鹿者が。貴様ら、支払う気はあるのかぇ?」
「あ、あります! 助けていただいてありがとうございます! 支払う気持ちはありますが、即時全額は無理でございます!」
「そ、そうだ。分割で! 分割で頼む!」
どうにも真剣みにかける。
経験上逃げる確率百%だ。
「では、冒険者ギルドに肩代わりしてもらおうかのぅ。クレア、ネラ。共に行き、事情を話して契約を結んでくるのじゃ」
「そこまでしなくても、よろしいのではない……」
「お前が肩代わりするのかぇ? どちらにしろギルドで契約じゃ。できないというのであれば、妾の権限で以前いた奴隷館に転売するが、それでもよいのかのぅ」
「……急ぎ冒険者ギルドへ戻り、契約を結んで参ります」
「マジックバッグは置いていくがよい。冒険者ギルドの初心者向けキットだけ持って行け。無理さえしなければ、お前たちの装備だけで合流が叶うはずじゃ」
「わかり、ました」
「何、他人のふりをしておるのじゃ? ネラ、貴様も準備せよ」
……はい、といまだかつてない小さな声で囁いたネラは、クレアに自分の荷物を持ってもらうようにねだっている。
眉根を寄せたクレアはそれでも、ネラの荷物も一緒に腰へ括った。
「なるべく早く戻ります」
「地の底を這っている評価を僅かでも上げたいのであれば、それが無難じゃろうなぁ」
彩絲の嘲る声音に、二人は真っ白な顔になった。
男たちに至っては挙動不審で、今にも走り出しそうだ。
「では、三人は引き続き探索を続けるがよい」
「「「はい」」」
揃った返事に頷けば、三人は立ちすくむ者たちを視界に入れもせずに先へと進む。
彩絲が蜘蛛に変じて視界から消えた途端、男たちは転げるようにして走り出し、クレアとネラはそのあとを追った。
二人と別れてから宝箱を二つ回収したようだ。
装備に自信がない貴方に(装備耐久値を一定時間僅かに上げる腕輪)と、ダンゴーアタックスルー(ダンゴーの転がりアタックを一回だけ避けられる指輪)が出た。
装備が心許なければ即座に使い、そうでなければ売却する方が良いと言われている、悪くないアイテムだった。
王都初級ダンジョンの利点として、宝箱及びドロップアイテムは既に鑑定された状態である点が上げられる。
残念ながら採取物の鑑定はされていないが、レベルが低い冒険者にとっては十分過ぎる有り難いシステムだろう。
戦闘は、じめじめしたところが好きなコンビ・フロッガとダンゴーが合計六匹で現れたときも、素早く担当を決めて無駄のない連携で止めを刺していた。
安心して見ていられる。
一階で達成できる依頼を完成させたので、二階へ下りることにしたようだ。
一応彩絲に確認を取ってきたので、以降確認を取らず自己判断で下りるようにと告げる。
二階へ下りた途端、キリキリとレッドローズが襲ってきた。
二階は武器をドロップするモンスターしかいないせいなのか、攻撃的な性質のモンスターばかりなのだ。
「私はキリキリを、ネマはレッドローズを、ネイは採取をお願いいたしますね?」
「了解です」
「確かに承りました」
ローレルがキリキリに向かって詠唱する。
氷系で一番弱い呪文・アイスボールだ。
使い手は飲み屋に行け! と言われるほどに攻撃力が弱い呪文のはずなのだが、ローレルが放ったアイスボールの威力は本来のものとかけ離れている。
新人は必ず怪我をすると言われるほどのキリキリの両鎌攻撃は発動される前に、その首を跡形もなく吹き飛ばされた。
首を失ったのを理解できないのか、しばらくふらふらとその場で体を揺らした二体は仲良く倒れ込んだ。
ドロップアイテムは、武器としてよりも農具として使われる鎌が二本だった。
「手伝いますわ~」
うんと軽く頷いたローレルは、ドロップアイテムを回収してネイの手伝いに回る。
「助かります。ありがとうございます。依頼達成まで残り十枚です」
「! さすがに早いわね! 本当にすばらしいわ!」
「ローレルさんが、あっという間に倒してくださったので、ちょっと焦ってしまいました」
「あらあら、うっかりしておりましたわ~。次から気をつけますわね」
二人が採取しているかまのはは、キリキリの鎌に似た形の葉で大きさは人の背丈ほどもある。
近くにキリキリがいるとなぜか品質が良いので、余裕があるのならキリキリが生きているうちに採取を完了させたかったのだ。
倒してからもダンジョンに死体が完全吸収されるまでに時間があるので、一般的にはその時間に採取するのが望ましいとされている。
ただ、優秀すぎるネイは戦闘中に一人で完了させるつもりだったので、つい零してしまったのだろう。
「もぅ! 二人とも、狡いよ! 私だってお喋りしながら採取したいのに!」
ネマのマインゴーシュは痺れ効果が付与されている。
一撃でも与えてしまえば、モンスターは痺れて動けなくなってしまうので、二人とも安心して戦闘を任せているのだ。
ただネマの体に合わせたマインゴーシュなので、与える傷はどうしても小さくなってしまう。
ゆえに、一瞬で全身を麻痺させられないケースもある。
今回がそれだ。
ネマは余裕を持って距離を取っているが、レッドローズの触手がまだ数本うねっている。
採取の時間が取れるのは有り難いのだが、ネマとしては物申してしまいたくなるのだろう。
二人が和気藹々としているだけに。
「ネマ姉のおかげで、ろーずの採取時間が多く取れる。おかげでかまのはの採取も終わった。普通は一回の戦闘で採取依頼が完了できるほど余裕はないはずなのに。感謝している」
「もうもう! 分かってるってば! 仲良しの二人が羨ましいだけなのっ!」
拗ねているネマを見るローレルの眼差しは優しい。
これを今はこの場にいない二人がやった日には冷徹に見下ろすだろう。
「よし、これで、とどめっと!」
レッドローズの弱点である正面の大口《おおぐち》にマインゴーシュを叩き込む。
死を覚悟したレッドローズによる、最後の種飛ばし攻撃も痺れが回っていて勢いがない。
マインゴーシュを巧みに使い高確率で爆発する種を素早く弾きながら、閉じられなくなってしまった口の中を蹂躙した。
きぃよぇええええ! と激しい断末魔の尾を引かせながら、レッドローズがその身を痙攣させる。
隣にいたレッドローズも、痺れからくる震えではないだろう震えで全身を波打たせた。
「もういっちょ!」
全く同じ流れでもう一体のレッドローズの弱点を勢いもよく攻撃したネマが、ドロップアイテムである鞭二本を回収する。
間を置かずに人間と変わらないように見える、レッドローズの赤い体液を、丁寧に拭い取りながら採取状況を確認に来た。
「うん! 終わったよ、っと。採取はどう?」
「ネマ姉が良い感じに引き延ばしてくれたので、どちらも無事採取完了。ありがとう。ローレルさんも、ありがとうございます。余裕を持って採取できました」
「私の手伝いはいらなかったみたいだけど、そう言ってもらえると頑張った甲斐があるわ~。ネマもお疲れ様でしたわね」
「まだまだいけるよ! ……二階の依頼って、あと何があったっけ?」
ろーずを一ダース。
棘を取った状態の、良質な物。
かまのはを五十枚。
なるべく損傷のない、良質な物。
の、二件は達成した。
これで半分だ。
そしてこの階で達成できる依頼はあと一つ。
「ムライの日本刀五本、もしくは大太刀一本」
「日本刀で達成になりますわね。彼女たちの戻りを待つのも兼ねて、大太刀を狙うのも有りだと思いますけれども……」
三人の間に沈黙が訪れる。
同じことを思っているのだろう。
別に二人が戻ってこなくてもいいと。
むしろ戻ってきてほしくないと。
「……主様の喜ぶお顔が見たいので、大太刀を狙いたいです」
「そういう理由なら納得できるね」
「ええ。むしろ喜んで頑張れますわね」
「……て! 呼び水になったのかなぁ? ムライが三体来たよ!」
「では、一体ずつ片付けましょうか」
言いながらもローレルが放った呪文はアイスボールと見せかけたクラッシュボールだ。
アイスボールよりも威力はないが、モンスターの動きを一定時間止められる効果がある。
人型モンスター・ムライの弱点は人の心臓と同じ位置にある核。
動けない間にそれを砕いてしまえばいい。
現時点では三体とも見事その場に縫い止められている。
「よっ! ほーうっと!」
ネマは何と振り下ろされた日本刀の上に乗り、ネマを振り払おうと一度高く持ち上げ直した日本刀を滑り台にして勢いをつけて、正確にマインゴーシュを心臓部分へと打ち込んだのだ。
根元まで突き入れれば、まずは日本刀がムライの手から滑り落ち、続いて体も崩れ落ちた。
残念ながらドロップアイテムは日本刀一本だった。
初級ダンジョンは質の良し悪しはさて置き、ドロップ率は低くないのだが、倒す敵全てがアイテムドロップするのは出来すぎている。
「さすがは、ネマ姉! 私も頑張らないと!」
戦闘は苦手だと申し訳なさそうに申告するネイだったが、少なくとも先ほど醜態をさらした男性冒険者よりはよほど優秀だった。
足止めされているムライを揶揄うかのように足下でステップを踏んで、視界を混乱させる。