「こいばな?」
桃華がキラキラとした目で遊摺部を見ている。
同い年の子供はおろか、身内以外との交流は数えるほどしか無かった桃華にとって「恋バナ」とは雲の上の、それこそ漫画の中だけの出来事だった。
「あるの!?みんな!」
期待に満ちた目から目を逸らし、「いや…あの、ね」と煮え切らない返事をする姉を見ると、矢颪が口を開いた。
「ある訳無ぇだろ。馬鹿か?」
雷が落ちたような衝撃と共に、桃華は「はぅあっ!」と後ろへ転がった。
転がったと思うと大の字になって虚無の顔になって溜め息を吐く。
「ないのかぁ…」
酷なことではあるが、これは仕方ない。
出会いなんて無いのだから。
見かねた守が「はーい」と手を挙げて提案した。
「怖い話はどう?」
一番に話し始めたのは遊摺部で、「あのですね…」と明らかに怖がらせようとしている声で話し始めた。
「僕は皆さん知っての通り、守先生と桃華さんと同室なのですが…。守先生が眠った後、やすりで何かを削っているような音がするんです」
「あ、それぼくです」
ぴしっと手を挙げて自己申告する桃華に安心したように息を吐く四季。
ナイフ等の手入れをしていたらしく、遊摺部が起きていたとは思わなかったとのこと。
真実がわかったところで次の人に話が移った。
次の話者は手術岾。部屋で視線を感じるとのことだった。
「漣じゃね?」
「漣さんじゃないですか?」
「くいなちゃん!」
「漣ちゃんだね~」
呆気なく真実が明るみになったところで次は守の番である。
矢颪がヒソヒソと守以外に言った。
「神示に聞いたことあるんだけどよ、怖い話、クソ怖いらしいぜ。コイツ」
それに明らかにビビったのは二人。
四季と桃華である。
桃華は皇后崎の寝袋に入り込み、バイブレーションのようにガタガタと震えている。
四季は四季で虚勢を張りながら精一杯止めさせようとしている。
「ホラ、桃華モアンナニ怖ガッテルシ、止メトコウゼェッ!?」
明らかに声が裏返っているが、気付かない振りをして守が話し始めた。
「俺の学生時代の話だけれどね_」
守が普通の中学生だった時のこと。
ある古い学校に通っていた。
昔からあるボロい校舎は『コ』の字型で、向かいの窓などから人が見えることがあった。
ある日、守は友達数人と放課後にかくれんぼをしていた。
他は全員見つかったものの、一人、凛という少女だけ見つからない。
『おーい、凛!』
皆で探していると、トイレの窓から人影が見えた。
『凛!いた!』
トイレもボロいので、ドアを動かす音はとても大きい。
その音がしなかったということは、まだ凛はトイレにいるはず。
そう思って走っていったのだが。
『…は?』
トイレはもぬけの殻だった。全部の個室を覗いたが誰もいない。
トイレから出て廊下を歩いていると音楽室からピアノの音がした。
『凛?トイレにいたんじゃねぇの?』
演奏を止めると凛はこちらを振り向いてきょとんとした様子で言った。
『…私、ずっとここでピアノ弾いてたけど』
トイレにいたアレが何だったのか、今でもわからない。
「_というお話なのだけd」
いきなり電気が消え、急いでスマホのライトを点ける。
「じ、じじじ、じんくん」
涙目でガタガタと震える桃華を宥めながら、皇后崎が何かに気がついたように体育館の隅に目を向けた。
それに釣られ、全員が同じ方向に目を向ける。
「「「「「…?」」」」」
笛の音、神主のような服装、紙のせいで顔が見えない人物。
「ひぎゃあああああああ!」
「ぴいいいぃぃぃぃぃぃ!」
二人は限界であった。
片や血色解放で銃を、片や戦闘体制の狼を出現させ、攻撃し出す。
「え」
「おい馬鹿お前らその人校長…」
守の制止も聞かず二人は涙目で叫びながら攻撃をした。
「無理無理無理無理無理!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
銃弾が屋根を大きくぶち抜き、縦横無尽に駆け回る前鬼と後鬼が尽く体育館をぶち壊していく。
「おいうるせぇぞ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
「姉さん?桃華?一ノ瀬?」
何も知らない女子達を巻き込み、体育館は半壊した。
「…どうしてこうなった」
そして、あの瞬間に戻るのである。
「まさか、幽霊が怖いなんてね~」
「守、起きろ」
「げほ…ごほっ…人の心とか無いのかよクソ兄貴」
倒れていた守を起こし、状況説明をさせる。
守は「いやぁ、こうなるとは」と何かを悟ったような顔をしていた。
「まぁ、暴走状態にならなかったからいっかって感じ」
「それでもこれは無いだろう」
「…とりあえずさ、夢だったって思ってもらう?」
「ああ」
そして翌日。
「姉さん、体が痛い…」
「ぼくもぉ…」
「何かわりぃ夢見てた気がすんだけどな…」
全員が疲労困憊している中で守と無陀野は言った。
「次は東京に行くからね」
「準備しておくように」
守は密かにこう思った。
(_もう、怖い話は自重しよう)
と。
こんにちは作者です。
本日二本目。やっと第一クールの話が終わりました。
次はやっと練馬編だ!と舞い上がっております。
閑話休題で一シリーズ書こうかなと思っている今日この頃。どうしようかなと悩んでおります。
いつもブックマーク、いいね、ありがとうございます。励みになっております。
今後も読んでくだされば幸いです。
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