テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
1,696
433
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「なんですか」
風見はあくびしたかったのを拳で飲み込ませ、視線を感じた助手席をちらと見る。
「いや?」べつに?と窓際に肘をつく降谷。
うわあ……と風見は素直に思った。
なんか…と。
「で?」
「は?」
「抱いたろ?」もう駐車場だというのに、キーッ、とブレーキを変な位置で本能的に踏んでいた。
「ははは」素直だな、風見。と降谷は左右にからだを揺すり、笑う。
「やめてくださいっ」駐車場にバックして、ようやくおさまるところにおさまる。
ばっ、と降谷を見た。彼はもう、こちらを見ていた。
しばらく見つめあってしまう。
風見は頷いた。「えぇーー抱き締めましたよーー」そのあとはーーやることはやった。と思うが、ゴニョゴニョする。
「だっ、だからなんだっていうんですか」ばん、とドアを叩く。
ふ、と笑みを浮かべポケットに手を入れ、裏口から上がる。
「たしかにな、風見。お前は優しい」
「はあ?」と階段の後ろから風見が言う。
あの日、自分たちが知らない間に何があったのかは知らない。だが…彼女を迎えに行ったのは風見ーーお前だからな。ちら、と風見を見る。よくわからない、という顔だった。
「同じことを…彼女にも言われましたけど…」
「やはりな」はは、と両手を広げて笑う。「自分はなにも特別なことは。いわゆる普通にしているだけです」
「普通、ね…」
「なんですか」
「いや?」
普通の男はセックスを途中でやめて、泣きそうな女を抱き締めたりはしないんだよ、風見。と口をつきそうになる。
だが、これは言ってはだめだ。と黙る。
なんで知ってるのか問われたらまずい。
ただ、スミスが風見のようなやつを頼ったということは……と。
しくじった。と降谷は思った。
というか…まぁ、やはり乱暴な任務も。乱暴な…ねぇ。あんまり。
「降谷さん?」
風見に目を細められ、ぎくっとしてしまう。「今、絶対あの女のこと考えてましたよね?」「あ、え、ん?どうかな?」ガチャ、と部屋が開く。デスクに座り、風見はパソコンの向こう側に立った。
「降谷さんは…」
「ん?」
風見は下を向く。「彼女を……ただの日本国の安全のための…」「兵器」ふっ、と風見が一歩下がる。
カチャカチャとパソコンをいじりながら、「そう言ったら…君は僕に…」
失望するかい?風見刑事……と。画面を反転させた。
「あ…これは!」
「アメリカの核兵器の発射ボタンにはなーー」降谷は立ち上がり、ブラインドの向こうからあがる陽に目を細めた。
ボタンを押すだけでは発射しない、大統領のーー声紋認証と、さらに暗証番号がいる……。
俺たちは、レディ・スミスのなにに?たどり着いているんだろうな?
風見の画面を持つ手が、震えだした。
「そのアタッシュケースは」と風見を見た。
危険だから、大統領自身は、持ち歩かない…と。
「アメリカンスナイパー」
灰原がランドセルを置き、コナンは本から顔をあげた。
「見た?洋画」
「いや?見たかったけど終わっちまって…」
「なら、これ」灰原はDVDを出す。「見た方がいいわよ」「あぁ、いや。今ちょっと忙しいしーー」きっ、という目に、コナンは飛び上がる。
「あ、あぁ…わかったよ…」灰原はようやく座り、呟いた。
「あの女性のこと、少しわかるかもしれないから」
「ほんとなの、シュウ」
「あぁ」
また殺されかけたよ。とんとん、と唇をつついてみせる。
目の前に紅茶を置いても、ジョディはまるで飲まない。ふう、とジェームズだけは口をつけた。
「私はその襲撃事件の際は、配属が違ったから知らんが、ニュースや話だけは…」
ジェームズはキャメルを見る。真っ青だったので、揺すって戻した。
「あ、あの悪魔……」
「ああ。とても…美人になっていたよ」
「はあ?」とジョディ。「ちょっとシュウ」「わからないのか?あの髪と目…」
ジョディがあの日に還る。
お、ねぇ、ちゃんーー
「……っ!」ジョンの顔が浮かぶ。あの日、なにか食べて行こうといったのはジョディだった。
「美人ていうのはな……権力に弱いと、昔から決まっている。探すのは簡単そうだな」
ジェームズは頷いた。「だが厄介なことになったな」と。
夕方まで眠ってしまった。スミスはからだを起こす。風見は当然いないし、腹も鳴ったし……「あっ」なにかの音に驚いてびく、とスミスは声をあげる。
枕の下にスマホが1台、安室透、と出ている。スミスは目を細めて、しばらく鳴るそれをじと目で眺め続けた。
…切れない。
こつ、と受話器のマークを押した。
「わかってる。乱暴にして悪かったよ」
スミスはまだ同じ目でいたし、なにも言わなかった。
「そのーー食事しない……かな」
「いいのよ、透?」ふわ、と髪を左右に揺する。「わたし風見と寝たもの」
「あぁ、効いた効いた。本当にきみは」
「いいわ。ならスシにして」
「え?」古谷は固まった。「スシは生の魚でしょ。食べ慣れてるものにして。肉か魚よ」
「いいけど…それなりのところは予約がもう今からだとーーあ」
最悪。とスミスは思う。
「おいしいねー!」あの眼鏡のぼうず。
「ほんと。隠れた名店よね、ここは」蘭とかいったか、高校生の。と。
「いやぁーっ!わたしにはガリじゃなく、名前さんが酒のつまみですなぁー!」
なんでこいつらがいる?スミスは隣にいる古谷をじ、と熱く見た。や、と降谷は手をあげる。「そんなに見ないでくれよ、名前…恥ずかしいだろ?」
たまたまなんだよ!それにスシといったのは君だ!
そう。とスミスは頷く。
「だってーー」ふ、と降谷をスミスは引く。肩に顎を乗せて、谷間を押し付けて見せた。なぜか蘭が赤くなる。
「昨日は仕事で帰らなかったのに…ふたりきりでいられないの…?」
しこたま食ったくせに…と盛り上がった皿を古谷は見て思いながら、んむっ、と口づけられて思う。「あぁ、わかったよーーなら帰ろう」
(外国人て、積極的…!)と蘭がコナンに耳打つ。あ、うん…とコナンは言うが、
「車をまわそう」と出ていく古谷に、「名前さんなら知ってるー?PTSDって」と首をかしげる。
引き戸が閉まった。
スミスはコナンを目だけで見る。
「えぇ」
「コナンくん。なに?」蘭が言った。
「PTSDーー」名前は正面を見たまま言う。「心理的外傷……なにかショックなことがあると、脳細胞が破壊され、やがて損傷になり……【トリガー】で思い出すこと……」
「あぁ」と蘭は頷いた。
「フラッシュバック、ってやつですね?イラクの帰還兵がそれでセラピーを受けている、って番組あったかも。でもコナンくん、そんなこと聞いてどうするの?」
「あぁーそうなんだね。じゃああの映画で見たイラクに行った兵隊さんも、フラッシュバックしちゃったんだー」
コナンはジュースを飲み、口を拭った。
「その兵士はね……ドリルで子供を殺されたのを見たんだ…それから、音を聞くたびに……」
「記憶が」
ロイの目に映る自分がーー
「蘇る…」
コナンとスミスの声が揃った。
「えぇ?コナンくんそんな怖い映画見たのー?」
だめじゃない、お父さんっ!と蘭はカウンターにつっぷす父親を見る。
「もう!すぐこれなんだか……あ、名前さん!」
スミスはなにも言わず店を出た。
ヴン、と車がやってくる。「名前さん」コナンの声がしても、スミスは無視した。
ん?と降谷がようすに気づく。
「あの日……歩実のタブレットからは流行りのKpopが流れてた……ドリルみたいな動きをするダンスが流行って、その音が繰り返し流れてた…」
「だから…?」
「名前さん…PTSDなんじゃない?」
はっ、と古谷がスミスを見る。「ぼうや」
ふっ、とスミスは髪を揺らす。
「おやすみ……」
車は走り出す。バックミラーには、いつまでもーー小さな小さな…探偵が映っていた。
「きゃ」とスミスをソファに投げる。ばん、と両肘つきに、降谷は手を振り下ろした。
「きゃあ…?」と降谷は首をかしげてスミスに顔を近づける。
お前がそんなふうになるわけがないだろう、という声に、スミスはどんどん近づく顔に顔を背けた。「ママへの乱暴を反省したの?ぼうや」ぐ、と顔をあげてみせる。
見下すように、古谷を見下ろした。
なぜそんなに怒るというのだーー
「わたしの経歴は知っているんだろ」
「あぁ、知ってる」古谷は頷く。「なんでもやったな…自分が生きるために」
「お前に何がわかる!!」
あの声を出す。ぶわ、と古谷の横を風が吹き抜ける。
「そうか」く、と笑ってみせる。「【欠陥】のある兵器では、使えないというんだな?」
古谷は「違うーー!!」同じ声を出し返した。「ならーーあーー」ぐいと立たされたと思うと、そのまま古谷に抱き締められていた。
「は…」スミスは素直に目を見開く。
「そんなのは……だいたいの予想はついていた…」古谷の声は掠れていく。
「ロイ・ロックス」はっ!とスミスは息を吸った。
「彼を…」
「言わないで!!」スミスは懇願した。屈辱的だった。ぼろぼろと涙が溢れる。
「彼との映像がある。風見に見せたら、真っ青になっていたよ…最後まで見れなかった……」
スミスはもう、肩を震わせて泣いていた。わたしは、わたしはーー兵器…
誰も、ロイとママが浮かぶ。
誰もーー守れない……!!
「離せーー」「いやだ」「離せぇっ!」「だめだーー!」いくらもがいても振り払っても、ひっかいても、古谷はスミスを離さない。
どん、とスミスの頭が古谷の胸元に当たった。
「わたしはニトロなの…」ひく、ひくと泣きながらスミスは古谷にしがみつく。それを抱き締めたまま、ふたりは床にずり落ちた。
「地獄をつくる……それしか…それしかぁっ…生きていけないのよおっ……」
ぐ、と頭を抱かれてスミスは黙り混む。ふっ、ふっ、という降谷の荒れた呼吸を胸元で感じ、スミスは涙した。
そのために生まれた。動物には本能しかない。
わたしは、それだけのために生きているのに。
「レディ…最初に会った日のことを」
す、と降谷は激しい鼓動に手をやる。
「きみは、僕の心臓の一部だと」
だが…きみの心臓の一部でもある。だから……
「僕を…生かしてくれ…レディ・スミス」
スミスはわかった。そうか……わたしは…素直に顔が歪んでく。
守られたいわけじゃ…なかったのね……
「うーー…っあぁっ……」
がくがく肩を震わせ、スミスは降谷の胸元を握りしめる。
その手を握りしめる降谷も、同じように震えていた。
「…なんで…」とスミスは鼻をすすって降谷を見た。
「…恐ろしいんだよ」彼はすぐに答えた。
君に、こんなに惹かれている自分が……。
かくかくと奥歯が鳴る音だけがする。冷たそうな汗。
スミスは髪を振り乱した。彼女が思い切り息を吸い込み、キスしてきたときには、降谷も思い切り飛び付いていた。
夜が明けていく。絶望と、始まりの夜が。
「うぅん…」という【いやな】声に、バーボンは椅子からそれを見上げる。
金髪をなびかせ、ベルモットは左右に髪を揺すった。
スミスもよくやるな、あれ。邪魔なら切ればいいのにーーとベルモットが振り向き、かり、とまたチョコレートを食べた。
「さすがパルムの限定チョコレートねぇ……」おーーいしい。とアクセントの変な日本語で言うので、バーボンは尻がむずついた。
「なによ?あなたも食べたいならあげるわよ」
「僕は別にーー」しかもお前の食った半分かよ、と口に無理矢理入れられて思う。味なんぞバーボン、もとい、古谷にはわからなかった。
「あなた、最近めっきりじゃない?」
「忙しいんでね」ぱ、と手をあげてみせる。ベルモットは切れ長の目を瞬かせた。「カフェの店員が?忙しい?」
ドアに寄りかかるキールがようやく目をベルモットへ向けた。
「なんか可愛い子カフェに入ったから?名字名前、だっけぇ?インスタですごく話題だし」
バーボンはだんだん瞳孔が開くのを感じたが、悟られるわけにはいかなかった。
落ち着け、と言い聞かす。
「えぇーー」バーボンはゆっくりベルモットを見た。
「僕、彼女が好き。なんですよね……」
ベルモットと目が合う。
「あら、そうなの……?」実るといいわねぇーー…ベルモットはまたチョコレートを噛んだ。
バーボンを見たまま。
「ところで。本日のご用は?女王陛下」
「だっかっらぁっーー!」と風見は警視庁、と書かれた下でだん!と足を踏んだ。
「わたしはきみの!」
「彼女か妻って言わないとあんた出てこないでしょ。それに、ハッキングするなって言われたら、あんたに違法に調べてもらうしかないじゃない」スミスはぐっと風見を見上げる。
「抱いておいて」「ぐっ!」風見は壁にスミスを押し付けた。
「いた、ちょっと」
「動くなよ」所轄の刑事だーーと風見はそのまま胸元にスミスを抱いた。「きみが派手にやったおかげで」「悪かったわね」す、と風見に手をまわす。
「高木くん」佐藤が首ねっこを引っ張る。「いたたた…」
「いいねぇ、公安部の刑事さんは」白鳥ははあ、と肩を落とした。
「ふたりともそんなこと言ってる場合じゃないでしょっ!乗り込むわよ!」
「聞いた声だな」
「知ったやつか?」
「あぁ」スミスはぶつぶつ言う。「あの女は、ママの墓参りをしていたし…あの肩の包帯男もわたしがやった」
はぁ、と風見はため息をつく。現職の警官に手を出せば、死刑台行きなんだがな…。ふとスミスが見上げてきて、さっと顔が赤くなった。
「風見のあそこのほうが大きい」
「ーー!?」この女なにをーーばっ、と顔が近づいた。
「降谷には内緒だ。だから、さっきのも内緒にな。だんな様?」
す、と人差し指をたてる。
「この…」おんなぁっ……!と風見はスミスの背中を見て言うと、スミスはふふ、と笑った。
いや、日本人のペニスは硬いから…肩をすくめる。「どっちも悪くないんだがな…」
「証拠を改ざんしただと?」
「そんな証拠、どこにあるーー」
これよ!と佐藤は鑑識の人間を差し出した。「あ、えっと…」と口ごもる鑑識はこれ以上近づかないように公安刑事の前に両手を出す。
「さ、最初に採取したのは僕ではありませんが、成分鑑定書を見たのは僕です…」
だから?と公安刑事は目を細めた。
ああ!と佐藤は思う。新卒は威厳が出にくい!と。
「成分鑑定書は、ローションなんかじゃなかったの!そうよね!?」佐藤はぐりん、と首をまわして鑑識を見た。彼はぶんぶん首を縦に振る。
「成分鑑定書には、ニトロと…」
ぐ、と佐藤がさらに肘で押す。
「科捜研からきたFAXも見ました」
「だとしたらニトロは爆発物!」
イタズラじゃない!殺人事件よ!
しん、となった廊下に、コツン、と踵が鳴った。
「証拠の改ざん」
「あなた」さっき抱き合ってた、と続けようとして佐藤は睨み付ける。
「公安部の風見です」
「知ってるわよ」
【よく見る】から、と佐藤は風見を睨みあげる。
「もしそれが……本当ならば、大変なことだがーー」風見の目が光る。
「違ったら?」
高木と白鳥は「佐藤さん…」小さく耳打ちして首を振る。
黒を白に、白を黒にする連中だ。
鑑識の見た、だけでは、証拠としては弱すぎるーー!し、見間違いだと言われたら終わりだ!
「調べてもいい」風見は公安部、と書かれた目の前に立った。
「だが違えば……こちらも黙らない」
「栗林玲子ーー」佐藤は高木と白鳥をふりほどく。
「彼女の墓参りをしていた女……彼女と、親しいのね」
えっ?と高木と白鳥は顔を見合わせる。風見は肩をすかした。
「なんのことだか」
「公安部の車に乗るのを見たわ…」
証拠ならーーと先に佐藤が言う。
「必ず……見つけてやる」
あんたたちより先に!カッ、と歩き出した佐藤に、男たちはついて行くしかない。
風見はそれを見て呟いた。「あぁ。よく似た怖い女を知ってる…」と。
「なに驚いてるの?」
帰宅したらスミスがリビングでミルクを飲んでいたので、「え、いやーー」と目をそらす降谷に「…浮気してたのね」とスミス。
「は!?」仕事だ!と思う。とんでもない濡れ衣に、手を洗う手が止まった。
「うん…」肩に手を置き、すぅーっと古谷を下から嗅ぎあげる。
「きみ…」顔がひきつる。まるで警察犬……
「雄の鹿」
「はぁ?」
「いい?」その、と持っている石鹸をスミスは見る。「石鹸の香りは、俗にいうムスク。でも、本物のムスクは」ぐっとあそこを握られ、降谷は固まった。
「雄の肛門線からでる少量しかとれない、貴重な香りなの。だから…」と今度は首に手をまわしてにやりとした。
「愛しのダーリンは、そのムスクを使う誰かと会ってた……」
誰と会ってた……?
実るといいわねーー…
金髪が揺れる。スミスと重なる。
ざばーと水道は流れたまま、時も流れた。
「男だよ」
「ふぅん…」スミスは未だにじ、と降谷を見ていた。まずい、と思う。瞳孔が…と同時にスミスはぱっと離れた。
ヴー、ヴー、とスミスのスマホが振動する。
風見、と出ていて、「なに?」素直に降谷は眉間に皺を寄せた。
「あなたが嘘をつくたびに、風見と寝るわ。いい?あの男は拒まないわよ」
わたしのだんな様だもの。とスミス。
「お、おいっ」
「ハァイ、ダーリン」スミスは目の前で電話に出ると、廊下へ出て行く。
「きみはーー」ぱし、とスミスの手首を掴む降谷。スマホはからからと流れ落ちていく。
それを拾うと、降谷はスマホに言う。「風見」
「あ、え!降谷さんっ!?あ、あれ番号…」
「いま、取り込み中なんだがな…」
「かけ直しますっ」電話の向こうで赤くなって心臓を押さえる風見が、安易に想像できた。
「…きみは……麻薬の匂いはわかるのか」
スミスはぱん、と手を叩く。
「基本的なものなら。最も、最近のものはわからないから、覚えるなら時間がいるわーー3日くらいで…」
「いや」と降谷は顔を斜めにした。
「2日だ」と。
「つまり」キールは人差し指をたてた。
「イタリアからの輸入麻薬、これをうちが取引したけど。くすねたバカを処分」
古谷も同じようにした。
「屋形船でそのバカを仕留め、くすねた麻薬は回収。うちの失態だと気づかれないように」
「その気づかれないように、はジンに任せてあるから」ベルモットはチョコレートを光にかざしながら言った。
「よろしくね…バーボン、キール」
十分に満足したのか、ベルモットはそれをはむ、と指ごとくわえた。
「わぁーっ!」蘭はたったっと屋形船に近寄る。「風流だねー!」隣のボブの高校生は言った。
「うわあ!」歩実も走りだし、園子と蘭に抱きついた。
「楽しみだねー!」
「うな重あるかな!?」
「はあ屋台船ってのはねぇっーーあれ?」
コナンは身を乗り出した。
「あれ。ポアロのイケメンと…」げ!と園子は縮み上がる。
「なにっ…!?あの美女ーー」
「あぁ。綺麗すぎると女って嫉妬しないんだよなーー」灰原にじと目され、「ほらあ!はは…」
安室さん…と、名前さん…コナンは横目で見ながら乗り込んだ。
「それより」と灰原。「なにかわかったの、彼女のこと」
「あぁ、それが、博士に足のつかないブラウザつくってもらっていろいろ確認したんだけど…なにも出なくて」
ぐらっ、と船が揺れた。「博士、また太った?」「いやぁ哀くん…定員ぎりぎりだからじゃよ…」
「うわぁ!すげぇ!」元太が目をきらきらさせる。
「あれ?めずらしー」園子が言う。
無理もない。出ている料理は肉が主だった。屋形船なら普通、刺身とかだろうに。とコナンはなにか不思議に思う。
「ねー」料理を出し終わる仲居にコナンは聞く。「屋形船ってお魚がでるんじゃないのー?僕、おつくり楽しみにしてたのに…」「ごめんなさいぼうや」仲居はおぼんを持ち直す。
「でも先日、鈴木財閥様のほうからのお申し出だったのよね?」仲居はもうひとりに確認する。「えぇ、ぜんぶ今夜はお肉だったはずよ」
「あ、ありがと」仲居はいそいそと出て行く。
「そうだった?」と園子。首をかしげた。「パパがガキんちょのために肉にしたのかなぁ?」「でも全部美味しそうだよ!」蘭はうきうき言う。
コナンは前の船を見た。
「あった」
古谷は縄の下にあるアタッシュケースを見つける。後ろにたつスミスを見た。
「警察犬より鼻が効くなんて…聞いたことないよ」
がやがやしだした船内を背に、スミスは後ろから動いてくる船を見た。
「…あいつらがいる」
「は?」
「あのお祭り騒ぎ…」
降谷は懸命に目を細めた。見えない。夜で暗いし、なにより、乗ってる人間の顔など…。「きみ…視力いくつあるんだ」「2マイル先まで」
へえ、と降谷はつ、と汗をかいた。キロに直したら4約キロ…悪さはできないな、と。
さて、バカだが…はぁ。と降谷。
ここからなんだよ…と。
前の船に乗り移るなんて、と。
当たり前だが、屋形船や環状線など、ルートが決まっていていくつも走る路線のものは走行ルートが決まっている。
ぶつからないよう、最新の注意も払って運航している。
「ここよ」キールが橋を指差す。「ここに船が差し掛かったら、あなたが」とバーボンを指差す。「わたしへアタッシュケースを投げる」
「…投げられる距離かい?」素直に尋ねた。真上になんキロあるかわからないアタッシュケースを、いくら男の僕でもな…とバーボン。「しかも夜に」「なら、花火でも打ち上げる?」と肩をすくめるキール。
「花火でもなんでもいいけど、橋の下に差し掛かったらアウトよ」キールは目付きを変えた。
「その間、約30秒もないわーー」
「PTSDって」灰原がぱく、と肉を頬張り言う。「あぁ…なにか…なにか特別な訓練を受けすぎて、ってのもあるよな」
そして、あの射方…
ふっと息を吸い、照準を定めーー吐いた瞬間、肩が安定した瞬間を狙うのは…
「狙撃のやり方と同じ」
「おいしいねぇっ!」と歩実に言われ、「えぇ。とても」灰原は微笑む。
「気にならねぇか?」コナンは灰原に呟いた。「なにが?」「今日だけ肉だーー」
「元太くん!それは僕のですよ!」
「歩実のも食べた!」
「あーうるさい!ガキんちょども!」
「あれのせいじゃなくて?」と灰原はお吸い物をすすった。
ま、考えすぎか……瞬間、船は揺れて止まった。
「きゃああ!」「なにっ!?」コナンは船首へ飛び出していき、眼鏡をズームにした。
「前の船から煙が!」船長が指差す。「おじさん!船を動かして!」「え、で、でも…爆発物だったら…」「早く!」コナンは怒鳴り、船は再び動き出す。
「何があったの!?」
安室さん……!
「いいこね…」名前は船長の耳にキスした。ガムテープをされた船長は、見えないし、聞こえない。
古谷はそれを横目に見て、後ろにたまってきた煙に咳き込む。ただの煙幕だ。そろそろ限界……
「ねえっ?なにあれーー」後ろに避難した乗客がざわめく。
「え!!なにか飛んでくーー」
「きゃああー!」という音と共に、ゴロゴロとなにか転がってきた。
それは顔をあげる。「コナンくん!?」「安室さ」はっ、とコナンは「名前さん!」叫んだ。「何してるのーー」
「くる」スミスはケースと共に船首へのぼる。
「よせ、それは僕がや…」がし、とコナンが降谷の腕を掴む。「なにあれ!まさか…」「爆発物だ!」と古谷。まあ、間違ってない。「なにーー」「仕掛けられたと…」「名前さん!何しようとし」
たん、と鳴った瞬間だった。「え!?」名前は視界から消えーーコナンは眼鏡をズームさせた。
すっ、と名前が前の船に降り立つ。と、まわりのすべての帆を下ろす。
「なにーー」
「安室さん!あれは!」帆の中で火花が散っているが、音はしない。
サイレンサー…!コナンはスケボーに乗り、エンジンを踏む。
「コナンくん!よせーー飛距離が足りない!」ぶわ、とまった風に降谷は腕をかざす。
「あれはーー」ぱぁーん、という聞きなれた音。一瞬照らされた明るい夏夜に、皆が一瞬を忘れる。
「は、花火…?」
走り出したバイクの音がした。
任務完了、と耳の奥からキールの声がした。「コナンくん!」飛び出したコナンが前の船に転がったのを見て、「くそ!」降谷も飛び出していく。空中を飛ぶ間に思った。
スミスのやつ、いったい垂直になんメートル飛んだ?
羽根でもあるというのか。ばかな。
「わっ」がし、と船の先端に手がぎりぎり届く。「安室さん!」コナンに引き上げられる。
屋形船内で、生きているものはいなかった。
「ねぇ」コナンは降谷を見る。
「名前さん、どこに行ったの」
安室も、コナンを見た。「どこに行ったんだーー!」
佐藤は「嘘でしょ」降谷の胸で泣いている豊かな髪のウェーブに、唖然とした。
す、とあの瞳がこちらを捉える。
「な、なぜあの女が…」
「名前」安室が困った顔をする。「すみません、名前がもう…疲れているので」
「そうよぉー」園子も天を仰いだ。「目暮のおっちゃん!俺も喉渇いた!」「歩実も!トイレ!」
すっと白鳥が警部に耳打ちする。警部は頷いた。
「あ、あぁ。なら君たち、悪いが後日…」「消炎検査して!」
佐藤が言う前に、コナンが言う。
「殺された人、全員撃たれてるーー」
「え」
「早く!」とコナンは怒鳴り、「わ、わかった、それだけは協力してくれ!」
「誰もでない!?」佐藤とコナンはまだ食い下がる。「本当にたしか!?」「海に飛び込む音はしなかった、犯人はこの中に…」「コナンくん」目暮が言う。「く…」佐藤はあの女を見た。ベンチで安室の膝に頭を預け、すやすやと眠っているようだった。
「佐藤刑事」コナンが腕を引く。
「気になってることがあるんだ」
調べてくれる?
コナンはちら、とスミスを見た。髪をゆっくり撫でる安室のほうが、コナンには少し不気味に見えた。