テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「あなたが怖いわ」
佐藤は素直に言った。取調室には、警部が座っており、目の前にいたあの目に捉えられ、佐藤は素直に胃がぐるぐるする。
「なぜ怖い?」女はにやぁ、とする。男らは後ろに下がりそうになる。
「警部。お願いです、2人きりに」
「いや、それは…」ぱ、と白鳥が警部の腕を押さえた。「大丈夫です」見上げた先に、カメラがある。
この部屋はミラーもあるし、と白鳥が言うが、そんなものは意味がない。
この女が丸腰なのは明らかだ。わざとだとしか思えない胸元が開いた服を着て、ぴったりしたタイトスカートーー
なにも武器はない。と佐藤にはわざと主張しているように見える。
男らは出ていく。佐藤は高木に頷いた。
ぱた、とドアが閉まり、2人は互いを嫌悪の顔で見つめる。
「なぜ…」と佐藤が言うのを、コナンはミラー越しに刑事らと眺めていた。
「素直に…」
「協力したかって?」ふっ、と佐藤は椅子をぎ、と鳴らした。バレていないことを祈った。
「それが……日本国民の義務だから…」
「ーーっ!」佐藤はばん、と書類をデスクに広げた。
「名字名前!」
スミスはふー、と椅子に深くよりかかり、マジックミラーのコナンを見た。
「それで…?」
「事件になっていない事件がある」
佐藤はもう噛みつきそうに見えた。
「…真下組の事務所で、一般人が亡くなった件かな?」
「くっ…」
それは公安がーー!と佐藤はひるむ。
「それはなに?」コナンがすかさず高木を見上げた。「え、あぁ…潜入捜査官が真下組はいてね…そのとき……」「高木!」と白鳥が首を振る。
そう、明らかにあれは殺人だ。だが、公安が出した結論は、自殺ーー。
「近隣の学生が名乗り出たわ」佐藤はまた書類を見せる。
スミスは目を細めた。「阿笠邸へ行く前に、タブレットを男に盗まれた」ふ、と佐藤もコナンを見る。「歩実ちゃんが証言したわ、光彦くん、元太くん、哀ちゃん、阿笠博士ーー」
「沖矢昴」はっ、とコナンは目を開いた。「ーーか?」「そ、そう」佐藤は頷いた。「そして、警察には連絡するなと言ったのはあなただと、それも証言している」
なぜ?と佐藤は首をかしげた。「あぁ」とスミスは肩をすくめる。
「わたしは様々な国の混血。耐えがたい差別を受けていてね……」
日本国民なのにな……とスミス。
「警察の外国人窓口に相談したが…あしらわれてね。頼りにはならないと思って」
「その記録は!?」コナンが高木を見る。「え?」「あるよ」白鳥がはぁ、と言う。
「彼女が相談にきた記録。映像もある。音声はないけど…」
「その相談を受けた刑事、名前さんを覚えてる!?」コナンはすごい剣幕なので、男らは顔を見合わせた。白鳥が膝を曲げて言う。
「この国の外国人労働者の数を?いちいち覚えては…」
「そんなの関係ないよ」コナンは確信に満ちてきた。
「あんな美人、1度見たら忘れない!白鳥刑事こそ、警官の女性と男性の割合、知らない!?白鳥さん、彼女を初めて見たときーー」
男性が多いに決まっている。と白鳥はあぁ…と声を出した。
「なんだね?」警部が全員をそれぞれ見る。
「彼女、公安部とつながってるーー」
「まさか」高木はよろけて後ろのドアに背が当たり止まる。
書類はでっちあげだ。そんなことをするのは、警視庁でも限れた部署しかできない。コナンは吐き捨てた。そんなことまでして、公安部が守るのは……
ひとりの男がコナンには浮かぶ。
佐藤は立ち上がった。「なにより、その学生やコナン君が、あなたがタブレット強盗をした男に弓を射ったのも見てる!弓は鑑識に回されーー血液から、男は前科があった!捕まるのも時間の問題よ!」
「業務上過失致死」
はっ、と佐藤は息を吸った。「意味がわかるよな?」スミスはにや、とまた笑う。佐藤は手が出したくなる。
いちいち挑発しやがってーーこの女…
「えぇ…でもなんの関係があるの」
「仕事中の過失は…」ぐ、とスミスはさらに背を預けた。「情状酌量の余地があるなあ…」ギイ、ギイと耳障りな椅子の音がする。
「昨夜の屋形船の事件だって…わたしはきちんとこうして証言にきてる」
スミスは手を広げた。
「わたしは切り捨てられたのに、だ」
く、と佐藤は顔を斜めにし、右側が見えないようにした。
顔の右側には、本能が映るーー
「ただ…爆発かと思って前の船に飛び乗った……そしたら」きら、と目が光る。「全員亡くなっていたんだよ。びっくりしたさ……泣くほど、ね……」
「…直後の消炎反応は、」と高木が弱々しく言うので白鳥が続けた。「あぁ。誰も出なかった」
誰も、ね。と。
「花火…バイク……」コナンは考える。
安室さんはあのケースを爆発物だと言った。
1,696
433
「爆発物…」コナンは呟いて、目をいろんな方向へやった。
「白鳥さん、爆発物の件だけど…」
「ん?あぁ、あれはあの」
「安室さん?」とコナンの目が光る。
「彼が最初に発見したみたいなんだよ、なんでも変なアタッシュケースがあったから気になって開けたみたいでね」
「それっ、押収したらなんて!?」コナンは背を伸ばした。白鳥はそれに驚き、少し頭を引く。
「プラスチック爆弾だったよ?君も見たんだろ?安室さんが空中に放り投げて、橋の上で爆発したのを……」
違うーー!!コナンはミラーに張り付いた。
眼鏡の奥で、彼女の髪がなびくのを思い出す。
プラスチック爆弾はオレンジの特有の光を放つーーあれは、あれはたしかにただの花火だ!
なぜだ?なぜーー彼女は警察をすり抜けるーー…?
まるで、手から零れる砂のように。
「無理だ」警部が立つ。「彼女はこれではまるで、事件の【容疑者】だ。こんなこと」
「まずいよね」コナンは声を低くする。
「外国人窓口に相談にきていた一般人を、ここまで拘束して取り調べたら…」
「コナンくん」佐藤がベンチで座るコナンの元へやって来る。コナンはジュースの缶を捨てた。
「なにかわかった?」
「えぇ」ぺら、と佐藤は書類をめくる。
「でも…不審な点はなにも」佐藤は首を振る。渡されたそれに、コナンは素早く目を通す。
名字名前…イギリス生まれのアメリカと日本の二重国籍……犯罪歴はなし。
「ねぇ?彼女、なんで日本国籍なの?」
「え?」
「だってほら」戸籍の内容を指差す。「遡っても、日本の血が入ってるようには見えないよ?なにか日本とつながりが?」
「さぁ…」佐藤は素直に首をかしげる。
「でもそんなに不思議なことじゃないでしょ?アメリカ国籍だけど日本で働く外国人タレントも多いし、逆もしかりよ」
ぱ、と書類は取り上げられた。
「あ、うん…」
「ただ」と佐藤。「彼女は国を本当に転々とはしてるみたい……親の仕事なのか、それはわからないけど、父親と母親はたしか医療関係。どの国でも仕事がある」
「ほぼヨーロッパ全域だった…」
それが?と言いたそうな佐藤に、「コナンくーん!」蘭の声がして、佐藤は「じゃあ」と書類をしまった。
「また取り調べ室で」
スミスは手をかざした。時計を見せる。
「買ってくれるような男は?」
にやぁ、とスミスはマジックミラーの高木を捉えた。
わかりやすく、高木はがたりとドアに背をひっつける。
佐藤刑事を離せーー!
佐藤はその光景を思い出す。がちゃ、とドアが開き佐藤は白鳥に耳打ちされた。
「なんですって!?」
(安室さんが取調べに抗議しています…このままだと…出るところへ出ると……)
「まるで彼女がこれでは容疑者ではないですかーー」
「あ、安室さん…」蘭は素直に怒る男にひるんだ。
新一も、そうしてくれるのだろうか。
「なぜ我々と共に取り調べなかったんです?答えられますかーー」
「それは…」
「証拠がなければ」と小五郎に安室は目をやる。「警察は…動かないんですよね?彼女が差別の相談をしたときも、帰宅した彼女は泣いていた。なぜです」
「安室くん、たしかに…警察は証拠がなければ動かない」小五郎は立ち上がる。
「わたしは当日いなかったが、名前さんのその件は……」と口ごもる。安室は小五郎を見た。
「証拠がない?」
聞いたことのない低い声に、全員はしん、と黙った。
歩実がぐ、と灰原のスカートを握りしめてきた。灰原はその手に手を置く。
たしかに、そのとおりだけど……
「彼女は自ら、協力を名乗り出てくれたんです。安室さん」
「警部」
「子供たちもいる前で…」気がひけると、と白鳥は言ったあとしくじった。と思う。
至極当たり前の言い分だ。
みずから、獲物としてかかってみせたというのかーー…
「ならば、彼女は【協力者】ですね?警部……」にや、と安室は笑う。「丁重に扱って……いただけますね」
「なぁ」名字が言うので後ろを歩く高木は足がぐらつきかけ、踏ん張った。
「お前たち刑事が弱いのはなぜか知っているかい……」
「高木くん」佐藤は目の前を歩いていく。話すな、ということだ。
「理由はいろいろある。だがな、ひとつは……」
世論を動かすほどの大義がないからだ。
「とおるぅっ……」スミスはわっ、と泣き濡れた顔を上げ、佐藤をすり抜けていく。抱きつかれた安室は、勢いで少しよろけていた。ぐ、とスミスを抱き締めて、髪を撫でる。
この……佐藤はぎり、と拳を握っていた。あの、女……。
「あぁ、ごめんよ名前……仕事で一緒に来れなくて…本当に申し訳なかった……」
「協力すると行ったら……私だけ…私だけ別室にっ…」
ざわ、と子供らが言う。「ひどい!」「これは、これは立派な差別です!」「おっぱいのねぇちゃんは歩実のタブレットを取り返したんだろ!」
盗んだやつが、悪いやつだろーー!
と指差す元太に、佐藤はまた顔を斜めにした。
「そっ、れは……」
皆が見つめる【正義の味方】に、灰原だけは違う女を見ていた。
佐藤の横に高木が立つ。がば、と頭を下げて佐藤は目を見開いた。
「大変ーー申し訳ありませんでした!」
何をーー!白鳥も下げる。警部まで…
あの女は被害者じゃない!
佐藤はよろめき、高木の肩を見た。
雨の音がする。
「さ、佐藤さん…」蘭が、園子が、疑うように佐藤に言った。
世論を味方にしないからだーー
くそーー……!こんな屈辱……
ふら、と佐藤は足元を揃え、ゆっくり頭を下げる。「…申し訳……」瞬間、歩いてきたヒールの音に佐藤はからだを起こす。
彼女に、抱き締められていた。
「なーーにをっ……」しー、と耳元で聞こえ、佐藤は手を中途半端にあげたまま。
「ハグは……欧米諸国では友好の証です。刑事さん……」
人は誰でも、間違いを犯す……
はっ、と佐藤には見えた。あのクラブのママが、彼女に笑いかけたのが。彼女の視線からのように。
「ーーはい」佐藤は彼女を抱き締める。「間違いには…責任をとらなければなりません」
佐藤は言った。「えぇ…わたしは、わたしはーー」
証拠そのもの、です。と。誰にも、聞こえないように。彼女はフッ、と笑った。
「(いいだろう)」
名字名前ーー必ず……
「追い続けろ…狂え」
「!?」
亡霊をな……
彼女はにっこりした。明らかに、雰囲気が変わっている。
「君は立派だよ、名前……」降谷は額にかぶる髪をあげ、彼女にキスをした。
「今回の件は名前が許したので、許されたようなものです」
「はい」未だ頭を軽く下げる警部。
「以後、このようなことがないよう…部下には、きちんとした指導を…お約束」
コナンが戻ったとき、降谷と名字はすでに背を向けていた。
コメント
1件
もう小説家なれるよ。うん。弟子にしてくださいお願いします(早口&迫真)