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渚

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1 - 第1話

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2024年09月14日

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・VTA時代捏造

・本作品は二次創作であり、ご本人様とは一切関係ありません

・本編中ライバー様のお名前は伏せません





「いいなぁ」

聞き慣れた声が突然鼓膜に届く。声の主である星導の方を振り返ると、彼は遠くで反射している光の集合を眺めていた。

ザザーン、と繰り返される波の音に耳を傾けて海辺を歩く。出来るだけ早く帰りたい俺と、海風に髪をなびかせる星導とではどうやらここを通る目的が違うようだ。

「海ってなんだか素敵ですね」

のんびりとした足取りで砂を踏む彼はどこか懐かしむように水晶に似た目を細めると、今度は振り返った俺の方をゆっくりと見つめてきた。

相変わらず綺麗な目をしているな、と思った。透き通ったこの瞳の前では隠し事なんて到底出来ないような気さえしてくる。

「もしかしたら俺、海出身なのかも。タコですし」

「水中で人型のタコに遭遇したらビビるわ」

「小柳くんだったら失神しちゃうかもね」

「うるせぇ」

ひとしきり笑うと、星導は何を思ったか押し寄せる穏やかな波に突然足を突っ込んだ。ぱしゃ、という音とともにどんどん水中へ進んでいく彼をしばらくぽかんとした顔で見ていたが、その間も星導はこちらを振り返らず海の向こうを見つめていた。

「俺ってさ、記憶喪失じゃないですか。それはもういいんですけど」

「ああ、そう」

「でもさ、どこで生まれてどこで育ったか、ぐらいは知りたいんですよ。親はどんな人だったのか、そもそも親はいたのか、なんなら親から産まれたのかすらもわからないんです」

こうなると星導は止まらなくなるのを俺は知っている。日頃から頭の片隅から離れない『知りたい』という欲は時たま星導を思考のループに縛り付け、意味もなく焦燥させた。

「何も、なにもわからない。この恐怖は俺にしかわかりません。俺自身を探る時、俺はいつもひとりなんです」

「っ……」

俺はお前のことを知ってる、と言っても困らせてしまうだろう。こいつは「知りたい」と言いながら知ってしまうのを恐れている。とことん不器用でどうしようもないやつ、それが星導ショウという男。

俺はそんな星導に何もしてやれない。手を差し伸べたところで、差し伸べるだけだ。それなら何も言わない方が幸せだろう。

俺も星導も、何も知らない方がきっと幸せだ。

「お前さ、なんで宇宙なんか受け入れちゃったの。それも“全て”とか無理難題なことを」

「……さあ、なんででしょうね。もうそれもわかんないや」

自暴自棄だ、という言葉を飲み込んで押しては引いてを繰り返す波の中へ足を踏み入れる。一歩、また一歩と進んでいくにつれ徐々に包み込まれる足が心地よい。

振り返った星導の目の前まで進んだ頃には、砂浜に打ち付けられていた波は俺の太ももにまでやってきていた。海全体が俺達を押し流してくる感覚を足元に置き、負けじと星導の腕を掴む。細い彼の腕に力は入っていなかった。

「……もう帰らん?日沈むし、あいつら待ってるし」

「………小柳くん、俺は」

「それはまた明日。とりあえず今日はもう帰ろ」

強引に星導の腕を引っ張り、砂浜へと歩いていく。もう当分海はいい。たとえ海に行かなくても、星導がこうなり次第俺は『また明日』と言って先延ばしにする。数回と言わず、数百年はそうするつもりだ。

「明日、ですか」

後ろから喉を絞めたような窮屈な声が聞こえる。返事をせず、掴んだ右手に伝わる僅かな体温を確かに足を進めた。

俺達の幸せとはなんなのだろう。どうすれば星導は救われるのか、俺は笑えるのか、前も後ろもわからない。

「わからんくていーよ、なんにも」

「…こうなる前も後も、俺は変わってないですね。やっぱり知りたいです、でも」

星導の声がふいにワントーン上がる。いつもの、何も考えていない時の星導の声だ。

「今日はもういいや」

「…ん」

濡れた足元で砂を固めつつ、俺達は夕焼けを背に本部へと戻り始めた。






スクロールお疲れ様でした!

タコ誕のつもりだったものです。

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