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苦手な方回れ右
それではスタート
翌朝。
ゆあんくんは、いつもより五分早く家を出た。
なのに、待ち合わせ場所にはもう、うりがいた。
「……おはよ」
「お、おはよう」
目が合った瞬間、二人同時に逸らす。
――昨日、キスした。
その事実が、頭の中でずっと主張してくる。
「……近くない?」
歩き出してすぐ、うりがぽつりと言った。
「え?」
「距離」
言われて初めて気づく。
肩が、軽く触れている。
「ご、ごめん」
一歩離れる。
でも、数秒後にはまた自然に近づいてしまう。
「……なんで戻ってくるの」
「無意識」
「ばか」
そう言いながら、うりは離れなかった。
学校に着くと、さらに大変だった。
教室。
席が近いせいで、視界に入る。
ノートを取る横顔。
髪を耳にかける仕草。
――昨日、あの唇が。
「……っ」
「ゆあんくん?」
「な、なんでもない!」
うりは一瞬きょとんとしてから、何か察したのか、耳まで赤くなる。
「……思い出してる?」
「言うな!」
小声のやり取りなのに、甘すぎて逆に怪しい。
昼休み。
「屋上、行く?」
「う、うん」
二人きりになると、途端に会話がなくなる。
……沈黙。
風の音。
「……昨日のさ」
うりが切り出す。
「後悔、してない?」
ゆあんくんは即答した。
「してない」
「……俺も」
それだけで、空気が一気に柔らぐ。
うりはリュックを抱えたまま、ちらっとゆあんくんを見る。
「……でも」
「うん?」
「次は、心の準備させて」
「……努力する」
思わず二人で笑った。
放課後。
昇降口で靴を履き替えていると、うりが小声で言う。
「ねえ」
「なに?」
「誰か見てない?」
「……多分、大丈夫」
そう言って、うりは素早くゆあんくんの袖を引いた。
きゅっと、服を掴む指。
「それだけでいい」
「……ずるい」
「なにが」
「可愛すぎる」
「ばか!」
でも、手は離さない。
帰り道。
夕焼けの下、並んで歩く。
「ねえ、ゆあんくん」
「ん?」
「キスしたからって、急に変わらなくていいからね」
その言葉に、ゆあんくんは少し考えてから答えた。
「うん。でも」
「でも?」
「前より、大事にはする」
うりは一瞬黙ってから、ぽそっと言った。
「……それは、嬉しい」
二人の影が、ゆっくり伸びていく。
気まずくて、恥ずかしくて、
でも、手放したくない日常。
キス一つで、世界は変わらなかった。
ただ、何気ない毎日が、全部特別になっただけだった