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「有夏……、あり……かっ」
「んぁ……あっ、んっ……」
動く度に幾ヶ瀬の先走りの汁が有夏の内部を潤していくようで。
押し殺した悲鳴がゆっくりほどけていく。
「いく、せっ、このかっこ……ヤだっ」
腰から下がガクガク震えて身体を支え切れなくなったようで、有夏の上体は段々とキッチンの調理台へと沈んでいく。
「ごめんね、俺だって……有夏の顔、見たいよ?」
「じゃあ……いくせ、ベッド……」
「俺、嬉しいよ。有夏のこと、間違ってエリカって呼んだら怒ってくれて。ね、俺が他の人の名前呼んだら妬ける?」
「ったりま、え……」
熱を帯びた目で幾ヶ瀬は有夏の背中を見下ろした。
髪の隙間から覗く、首筋から肩にかけてのラインが白くて眩しい。
吸い寄せられるように舌を這わすと、有夏が悲鳴をあげた。
「ダメっ……いく、せっ、ここじゃ……んんっ、でる……っ」
幾ヶ瀬にとって神聖なキッチンに、まさか精液を撒き散らすわけにはいかないだろうというギリギリの訴えだったに違いない。
神聖なキッチンでコトに及んだのは、どちらかといえば幾ヶ瀬からであったが。
見下ろす首筋、耳たぶが見る間に真っ赤に染まっていく。
「もっ……ホント、に……。いく……せっ、ナカ、かき回すなっ……あっ、あっ……」
裏返った声に、絶頂を悟った幾ヶ瀬が有夏の前に手を差し出す。
「イッていいよ、有夏。俺も……いい? 有夏の、ナカ」
「んんあっ、いく……せっ」
大きく身体を震わせてから、有夏は全身から力が抜けたようにずるずるとその場に座り込んだ。
その背に抱きついたまま、幾ヶ瀬も引きずられるように床へ。
「……有夏、大丈夫?」
「んなわけねぇだろ……」
両手で顔を覆って肩で大きく息をしている。
「こんなとこで……最悪だ。足痛いし、シチューは冷めるし。あぁ? こんなこと、前もなかった?」
そうだっけと返して、幾ヶ瀬は白々しく笑う。
「ごめん、有夏のナカに出しちゃった」
「またぁ!?」
顔をあげた有夏は、そこに信じられないものを見る。
「……幾ヶ瀬?」
「ごめんって。ちゃんと掻き出してあげるから」
「……なにそれ」
幾ヶ瀬の右手は有夏の腰に回されている。
左手は有夏の胸元で、何故だかマグカップを握り締めていた。
中には、何とも言えない白い液体が。
有夏の上気した額がマグカップを視界に捉えた瞬間、青白く変色する。
「すごく聞きたくないんだけど……ソレって」
「いや、だって有夏が出すの困ってたから。咄嗟に?」
別に拭けば良いだけだし、好きなだけ出してくれて構わないのにね。
なんて笑う幾ヶ瀬を、おぞましいものでも見るかのように一瞥して、有夏はじりじりと距離をとる。
「有夏?」
「幾ヶ瀬、キモイ……てか、気持ち悪い」
キッチンならではとでもいえば良いのか?
有夏が出したモノを、幾ヶ瀬はしっかりマグカップに受け止めていたのだ。
「もう俺さ、夕食の時に呑もうかな、コレ……なんてさ。アッハハ!」
「………………」
「有夏のDNAが俺の内部に入って血となり肉となる……ああっ!」
「………………」
「有夏?」
乱れた服装をしっかり直して、後ずさりしながらキッチンを出て行く有夏。
シチューもう一回温め直すね。ごはんにしよとの言葉にフルフルと首を振る。
「有夏、食欲失せたわ。とくに今、シチューとか……見たくない……うう」
その強張った視線に、幾ヶ瀬は改めて己の姿を見下ろしてみる。
全裸でキッチン。手には精液の入ったマグカップを握り締めている。
「あ……」
有夏が引いているのが、ようやく理解できたようだった。
試しにヘラッと笑ってみると、恋人は化け物でも見るような目つきでこちらを見やる。
「こいつ、心底気持ち悪い……」
「で、ですよねぇ……」
しばらく幾ヶ瀬家に、会話は生まれなかった。
「かきまぜる行為」完
「夏のなごり」につづく