「俺は、迷惑かけたくなかった。」
いつも上手く話せない彼が、今は普通に話している。もう何もかも怯えていなくて、恐怖心が忘れている。
だめだ。その状態のお前は怖いもの知らずすぎる。
「千冬、頼む、戻ってきてくれ。
誰も迷惑だなんて思ってないから。」
「… そうだとしても、俺は罪悪感で苦しいんです。
もう、俺には、どうすることも出来なくて、
でも何かをやり遂げたいんです。」
「おい、お前どこいんだよ。
なんで波の音が聞こえんだよ!?
そっから動くんじゃねぇぞ!?」
彼のいきなりの大声で、俺は、息を詰まらせた。
「お前まさか、死のうとなんてしてねぇよな??」
「来ないでください、もう怖くない。
何も怖くない。俺はできる。俺は、ちゃんと、」
「千冬。大丈夫。俺がそばに居るから。
俺は迷惑だなんて思わない。ちゃんとそばにいる。
俺を見て。ちゃんと。俺はちゃんと」
彼の声と共に通話が切れた。俺は急いでバイクを走らせ、彼の元へ向かった。
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予想通り、彼は海にいた。もう胸まで海に使っている。
あれじゃ風邪をひいてしまう。
「千冬。」
俺は彼の元へ走って抱きしめた。しかし、彼は俺を突き放そうと必死だった。手で押しのけようとしているが、彼の力は弱まっていた。
そんなことは昔から知ってる。こいつの力が弱いのは。
「大丈夫。大丈夫。」
いつものように彼を、落ち着かせようとしたが、
今回は効かないようだ。
「もう怖くないよ。大丈夫。千冬は頑張ったよ。」
「離して、離してよ、」
泣きながらそう言う彼を無視して、落ち着くまで彼を励ました。
「離して、離して、お願い、離して、」
それでも彼は、止まることは無かった。本気なんだ。分かってる。いつもお前が本気だということは。
見ぬふりをしていたことを謝るよ。ごめん。
「千冬、落ち着いて、ほら、こんなにも手が冷たいじゃんか。帰ろう。俺も寒いよ。凍えそうだよ。」
「帰って、離して、」
「やだ。千冬と帰りたい。俺ひとりであの家に住んでたら、広すぎて気が狂いそうだよ。」
「もう自由にさせてよ、」
「ごめんな。いつも自由を無くして、本当にごめん。」
「もうやめて、」
彼には何が見えているのか分からない。何を考えてるのかも、何も分からない。
俺の方向ではなく、海の方向をずっとみている。
等々我慢の限界がきたのか、千冬は海の中に潜った。
それでも無駄だ。俺は彼を抱きかかえた。
「ゴホッゴホッ、なんで、」
強引だが、彼の首を強打して、気絶させ、俺は家に連れ去った。
「 行かないで、 」
海の方からそんな声が聞こえた。振り返らず、ただ家へ向かった。
「 連れていかないで 、 」
連れていくさ。まだ死ぬには若すぎる。こいつは俺が守らないといけないんだから。
「 返してよ、 」
俺は託されたもんを守らなくては行けない。今病院にいる場地にも心配されちまう。
「 ちゃんと守ってよね、 」
「 もうここへ連れてこないでね。 」
「 行かないで 」
「 幸せになって。 」
「 置いてかないで。 」
「 許さない。」
「ちゃんと、守るんだよ。」
「 その子を救ってくれてありがとう。 」
「 行かないでよ!!!」
「 お友達、!!!」
「 さよなら。」
「 行かないで !!!」
必死に訴える声が、背後から大勢聞こえる。
「守ってみせるよ。」
そう呟くと、背後の者たちは、安心したかのように声が薄れて言った。
「 置いていくの?」
「 まだ死ぬのには若すぎる 。」
そう言うと呆れたように声が薄れていき、最後の言葉には、「 ちゃんと責任もってね。」
そう言い、消えていった。
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玄関に連れていき、彼を床に座らせ、タオルを持ってきて、水分を拭き取った。
眠っていたとしても、辛い顔は消えなかった。
何をしていてもずっと辛いんだろう。
久々に場地に会いに行こうな。明日にでも行こう。
「千冬は、いつになったら笑顔になれるかな、
千冬は、いつになったら、俺の事見てくれるの?」
聞いても返答なんて来るわけない。眠っているんだから。人形に話しかけている同然だ。
「千冬、俺の事ちゃんと見て、」
俺は彼を抱きしめた。彼の体はひんやりと冷たかった。あぁ、なんだか、死体を抱きしめているみたいだ。
「見てますよ、」
そんな返答が聞こえて、驚いて彼の顔を見ると、じっと俺を見つめていた。
「ちふ、ゆ、」
「一虎くんにとって俺はなんなの、」
「… 、なんなのって、、」
「なんで、死なせてくれなかったんですか、
やっと、決めたのに、ようやく、決めたのに、
やっと何かをやり遂げられると思ったのに、」
彼の冷たい試験に、俺は目を逸らして、手を握った。
「そんな事言うなよ、死なれちゃ困るんだよ、
俺は千冬に生きていて欲しいから、」
「もうあの頃の俺は居ない。」
そんな言葉が俺を突き刺した。胸が痛くなった。
「分かってる、でも、探すから。」
「もう居ない。もう死んだ。もう見つからない。」
「それでも探すよ。居ること願って。
絶対離したりしない。逃げさせない。逃がさない。」
「 何それ 、 」
「 やめてよ、 そんなこと言われたら、
もう何も言えないじゃんか 、」
「 もう何も言わなくていい 。
今はただ、そばにいて欲しい 。」
「 逃げられないじゃん 、」
コメント
4件
1コメだ!!! 一虎!!いけ!千冬にアタックだ! てか海から聞こえた声が優しい!!