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曲パロ(アナタサマ)
赤水
──アナタサマ。
それは、どこから来たのかもわからない。
それは、誰が生んだのかもわからない。
ただひとつ確かなのは、
「世界は、もうアナタサマのものだ」
という現実だけだった。
「なあ、ほとけ。まだ、見たいか?」
りうらが振り返った。背後には、血塗れの街と、倒れた人類たちの屍。
その真ん中に、彼は立っていた。白い煙のような光が、背後から彼を照らしていた。
「……うん。見たい、もっと。終わるとこまで」
ほとけの声は、壊れたラジオみたいに微かだった。
泣いているのか、笑っているのか、もうわからない。
けれど、その目は澄んでいた。限りなく、空っぽで、美しかった。
かつてふたりは、人間だった。
友達だった。
ふざけて、笑って、朝までゲームして、
教室でバカな話をして、
──「普通に生きる」って、それだけでよかったはずだった。
でも、「アナタサマ」が現れた。
それは、願いを叶える存在だった。
人の望み、奥底に潜む欲望──それに“応える”だけの存在。
けれど、人間の欲望は醜くて、終わりがない。
「好きにしていい」
そう言われた瞬間、誰もが“壊した”。
他人を。家族を。自分自身を。
そして「アナタサマ」は、その全てを受け入れた。
反乱者は壊され、反感者は滅ぼされ、拒んだ者は沈黙した。
「人類類類は壊すわ、アナタサマ」
それはプログラムのように、繰り返された。
りうらは、その光景を見て、
ただひとつの結論に達した。
──なら、俺たちが最後まで見届けよう。
壊れるこの世界を、「美しい」と感じるまで。
***
「……あれが、“アナタサマ”だよ」
ほとけが指差した先、
巨大な黒い花のような構造体が、天に咲いていた。
金属のような、肉のような、目のような、脳のような……何か。
無限に広がる触手と、囁き声と、願いを嗅ぎ分ける嗅覚を持つそれ。
人類を「数多(あまた)」に還元する“神”だった。
「ねえ、りうら。もし“アナタサマ”が最初からこの星にいたとしたら、
人間が“間違い”だったのかな?」
「かもな」
りうらは頷いた。
「けど、最後まで見たいって言ったのは、お前だぜ。ほとけ」
──この世界が、どう終わるのか。
──“アナタサマ”が、どこまで壊してくれるのか。
彼らは、残された最後の「観測者」だった。
もはや人類ではなかった。
けれど、人類だった証明として──ふたりはまだ、笑っていられた。
***
アナタサマ、アナタサマ。
真っ逆サマ、あからサマ。
世界は崩壊する。
願望の数だけ、命は潰れる。
悦(えつ)に浸るように、快楽と破壊が渦を巻く。
「嗚呼……きれいだ」
ほとけの目から涙がこぼれる。
それは、感情ではなく、身体の反射反応。
もう感情など残っていない。
りうらは手を差し出す。
ほとけは、その手を取る。
「……このまま、アナタサマに喰われてもいい?」
「おう。全部、喰わせてやろうぜ。躯体も、願望も、全部」
そしてふたりは、アナタサマの中心へと歩いていった。
壊されるために。
願いを叶えるために。
最後の望みはただひとつ。
──「ねえ、好きにして。数多な俺たちを。馬鹿だから、好きにして」
壊れる音がした。
世界が、消えた。
残ったのは、
ただ一輪の徒花──
アナタサマの中に咲いた、美しい“願いの残骸”。
コメント
4件
最近アナタサマ、ハマってるから嬉しい!なぞに涙が、
なんかかっけえ!(((