テラーノベル
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21時過ぎ、大学の図書館を出た二人。夏の夜風が心地よくて、キャンパスを吹き抜ける風が頬をなでた。
「はぁ~、今日もがんばったなぁ」
まなみは大きく伸びをして、隣のそらとを見上げる。
その横顔は少し険しくて、なんだか不機嫌そうに見えた。
「……なんね、その顔。疲れたん?」
「……別に」
「んー?うそやろ。ぜったい怒っとる顔やん」
まなみはそらとの腕を小突きながら覗き込む。
そらとは視線を逸らしたまま、ぽつりと呟いた。
「……お前が悪かっちゃ」
「え、なにが?」
「図書館であんなことされたら、誰でも意識するっちゃろ」
「……あんなことって?」
「……おれに顔近づけたり、匂い嗅いだり…」
言いながら、そらとの耳まで赤くなっている。
まなみは一瞬固まった後、ふわっと小悪魔みたいに微笑んだ。
「……じゃあ、そらと、意識しとったん?」
「っ……してないわけなかろうが」
低く、喉の奥で絞り出すような声。
その一言で、まなみの胸も一気に熱くなった。
人気のない並木道に差し掛かると、そらとは立ち止まって、ふいにまなみの手首を掴んだ。
「ちょ、そらと……?」
「……もう無理っちゃ」
振り返ったそらとの顔は、少し影になってて、いつもより真剣だった。
「お前な、自分がどんだけ無自覚であざといことしよるか、ほんとにわかっとるんか」
「え、えぇ?うち普通やのに…」
「普通じゃなか」
そらとは一歩近づき、まなみの背を並木道の街灯に寄せる。
距離はもう、吐息が触れるくらい。
「今日ずっと我慢しとったけど……限界やっちゃ」
低く掠れた声に、まなみの鼓動が跳ねる。
けど、怖いよりも、嬉しい気持ちが大きかった。
「……そらと、そんな声出さんといて…」
「じゃあ、どうせえって言うん」
「……そんなん言われたら、意識してまうやん」
まなみの視線が泳いで、頬が真っ赤に染まる。
そらとはその顔を見て、ふっと小さく笑った。
「……おれだけやけん、そんな顔見せていいの」
「……え?」
「他のやつには見せんな。……じゃないと、マジで怒るけん」
指先でまなみの頬に触れると、まなみはびくりと肩を揺らした。
声も出せないまま見上げると、そらとがさらに顔を近づける。
でも──
「……今日はここまで」
そらとは、額をまなみの額にそっと合わせただけで、ゆっくり離れた。
「っ、なんで止めるんよ…」
思わず漏らした小さな声に、そらとは口元を緩めて囁く。
「……これ以上したら、ほんとに止まらんけん」
夜風が二人の間を吹き抜ける。
まなみの手首は、そらとの手に掴まれたままだった。
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続き気になる〜! 2人共名前可愛!