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大学のゼミが終わった後。教室の外で、まなみは同じゼミの男子・圭介に声をかけられていた。
「まなみちゃん、このあと時間ある?レポート一緒にやらない?」
「え?あ、うん…いいよ~」
ふわっと笑って答えるまなみ。
──その会話を、少し離れたところからそらとはじっと見ていた。
笑ってるまなみの横顔に、圭介が顔を近づけるたび、胸の奥がざわついてたまらない。
(……あいつ、なに近づいとん)
(まなみも、なんでそんな笑顔で答えるんよ)
眉間にしわを寄せたまま、そらとはゆっくり歩いてきて、二人の間にずいっと割り込んだ。
「悪いけど、まなみ、今日はもう予定あるけん」
「え、あ、そらと……?」
圭介は少し驚いた顔でそらとを見た。
「え、でも、レポート一緒にやろうって──」
「おれと一緒にするけん、心配いらんっちゃ」
低い声で言い切るそらとに、圭介は「あ、そ、そう」と引き下がった。
残されたまなみはぽかんとそらとを見上げる。
「な、なに急に……」
「お前こそ、なんであんな笑顔であいつと話しよるん」
「え?ただのゼミ仲間やし……」
「“ただ”とか言うな」
声が少し強くなった瞬間、まなみはきょとんと目を瞬かせた。
「……そらと、もしかして怒っとるん?」
「怒っとらん」
「いや、怒っとる顔しとるよ?」
「怒っとらんっちゃ!」
そらとは目を逸らして歩き出すが、耳まで真っ赤なのは隠せてなかった。
二人でキャンパスを歩きながら、そらとの歩幅がやけに早い。
「……そらと、待ってよぉ」
小走りで追いついて袖をつかむと、そらとは足を止めた。
深く息をついて、ぼそっとつぶやく。
「……他の男に、そんな笑顔見せんなや」
「え?」
「おれだけにしとけって、言いよる」
その低い声に、まなみは一瞬言葉を失った。
胸がぎゅっと締め付けられるみたいに熱くなって、ゆっくり聞き返す。
「……そらと、それって…嫉妬?」
「……っ、嫉妬とか、そんなんじゃなか」
「じゃあなに?」
「……おれは、お前の幼なじみやけん、心配しとるだけや」
必死に取り繕うそらとの横顔は、どう見ても不機嫌そのもの。
まなみは唇を尖らせながら、そっと腕にしがみついた。
「……うち、そらとのこと、ちゃんと見よるんよ?」
「……は?」
「ずっと、そらとだけ特別やけん。……それじゃ足らん?」
その一言に、そらとは一瞬固まった。
次の瞬間、まなみの腕をぐいっと引き寄せ、至近距離で見下ろす。
「……足らん」
「っ……」
「もっと、おれだけ見とけ。……じゃなきゃ、ほんとに怒るけん」
耳元で囁く低い声と、熱い視線。
まなみは顔を真っ赤にして、声も出せないまま見上げるしかなかった。