「お前、チーノと仲良くなったのか」
春翔の言葉に、瞬間的に不機嫌になる。
「はぁぁぁ???」
今一番聞きたくない名前No.1だが???
眉間に皺を寄せながら、春翔を睨む。
何故家に帰ってからもその名前を聞かなければならないのか。キレそう。
「不用意にその名前を出すな、怒り散らすぞ」
「…なってねーのか」
雪乃の様子に、親しくなったわけではなさそうだと判断する。
リビングで課題をしながら、「ったく腹立つわぁ」と呟く雪乃。
足元にはニャオハが丸まっている。
春翔はそんな雪乃に言い放つ。
「明日までに決めろよ」
「何を?」
「ニャオハをどうするか」
「…だから、ちゃんと面倒みるって言ってるじゃん」
「じゃあ何でボールに入れない」
雪乃は手を止める。
そんな少しの感情の揺れも察したのか、ニャオハが雪乃を見上げる。
「責任持つってんなら、ボールに入れれば良いだろ」
「…だって、反対されてたから」
「結局俺に左右されてんじゃねーか」
「………」
「俺が決めるんじゃない。お前が決めるんだ。明日の日没までだからな」
それだけ言い残し、春翔はリビングから出ていった。
「………」
「にゃおは?」
春翔の言うことは絶対。
結局そこを曲げられずにいる。
だって春翔は私の神様だから。
春翔がダメと言えばダメなんだ。
でも……。
足元にいるニャオハを見る。
少し不安そうな顔をしている気がする。
雪乃はニャオハを抱き上げた。
ギュッと腕の中でその体温を感じ、目を閉じる。
だってこの子は、私だから。
だから誰かが拾ってあげなきゃ、ずっとひとりぼっち。
この子は温もりを求めて、彷徨うのだろう。
そんなの嫌だ。
もう1人になりたくない。
お願いだから、見捨てないで。
「にゃお…」
ニャオハは雪乃の不安を取り除くように、身を寄せ甘い香りを漂わせる。
「フィ」
いつの間にかそばに来ていたエーフィも、雪乃に寄り添う。
そんなポケモンたちの温もりに触れ、雪乃は「ありがとう」と呟いた。