テラーノベル
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放課後。
「神崎。」
「ん?」
「もう大丈夫?」
「完全復活!」
奏斗は両手を広げて笑った。
「昨日は心配かけたし、今日は俺がおごる。」
「何を?」
「……何がいい?」
「決めてないの?」
「決めてない!」
「ふふ。」
「笑うなよ!」
-–
二人が向かったのは、学校近くの小さなカフェ。
「何食べる?」
「……これ。」
冴がメニューを指差す。
「パンケーキ?」
「うん。」
「じゃあ俺も。」
「同じのでいいの?」
「石川が選んだなら。」
「……。」
冴は少しだけ目をそらした。
-–
パンケーキを食べながら、体育祭の話をする。
「リレー、楽しかったな。」
「うん。」
「最後、めちゃくちゃ緊張した。」
「そう?」
「そうだよ。」
奏斗が笑う。
「石川がちゃんとバトン渡してくれるかなって。」
「……。」
「何その顔。」
「ちゃんと渡した。」
「知ってる。」
「ならいい。」
「でも。」
奏斗は少し笑う。
「また一緒に走りたい。」
「……うん。」
-–
店を出た頃。
空が暗くなっていた。
「……雨?」
ぽつ。
「え。」
ぽつ、ぽつ。
「また?」
奏斗が空を見上げる。
次の瞬間。
ザーッ。
「うわ!」
二人は急いで屋根のある場所へ駆け込む。
「また雨宿りだ。」
「この前も。」
「なんか多くない?」
「……神崎、雨男?」
「石川じゃない?」
「俺?」
二人で笑う。
-–
しばらく雨を眺めていると。
冴がぽつりと言った。
「……神崎。」
「ん?」
「この前。」
「雨宿りしたとき。」
「うん。」
「楽しかった。」
「……。」
奏斗も思い出す。
駅の屋根。
雨の音。
二人だけの時間。
「俺も。」
「……。」
「だから。」
「雨も、そんなに嫌いじゃなくなった。」
冴が少し笑う。
「俺も。」
-–
雨はなかなか止まない。
「傘、ないよな。」
「ない。」
「どうしよう。」
冴がスマホを見る。
「雨、あと三十分くらいで弱くなる。」
「じゃあ待とう。」
「うん。」
二人でベンチに座る。
少しして。
奏斗が突然、手を見た。
「……。」
冴も気づく。
「どうした?」
「いや。」
「……。」
奏斗は少し迷ってから言った。
「もし雨が強くなったら。」
「?」
「手、つないだほうが歩きやすいかなって。」
冴が固まる。
「……。」
「いや、変な意味じゃなくて!」
奏斗も慌てる。
「転んだら危ないし!」
「……分かった。」
「え?」
「雨が強かったら。」
「……つなぐ。」
奏斗の顔が赤くなる。
「……うん。」
-–
やがて雨が少し弱くなる。
「そろそろ行けそう。」
「うん。」
二人が立ち上がる。
外を見る。
まだ道路には水たまりが残っている。
奏斗が一歩踏み出す。
「……。」
冴も隣に並ぶ。
でも。
二人とも、さっきの会話を意識してしまっている。
「……。」
「……。」
結局。
手はつながない。
ただ、いつもより少し近い距離で歩く。
-–
駅に着く。
「じゃあ、また明日。」
「うん。」
「今日はありがとな。」
「俺も楽しかった。」
「……。」
奏斗は少しだけ笑った。
「次は晴れてる日に遊ぼう。」
「うん。」
「約束。」
「約束。」
二人は別々の電車に乗る。
-–
電車の中。
奏斗は窓の外を眺めながら思った。
(……手、つながなかったな。)
なぜか少しだけ残念だった。
一方。
冴も同じことを考えていた。
(……つないでも、よかったのかな。)
二人とも。
同じことを考えているとは知らない。
ただ。
次に会う日が、また少し楽しみになっていた。
-–
第29話 おわり
次回・第30話「二人だけの秘密」
体育祭の写真がクラスに配られる。
その中に写っていたのは――奏斗と冴が並んで笑っている一枚。
「これ、二人ともめっちゃ楽しそうじゃん!」
みんなにからかわれて、二人は大慌て。
でも、その写真を見た冴は密かに思う。
「……この写真、欲しい。」
そして、二人だけの小さな秘密ができる。
コメント
1件
もうね、この距離感がたまらんのよ! 「手、つなぐ?」って言い出した奏斗の慌てっぷりがリアルすぎて、こっちまで照れるわ。結局つなげなかったけど、二人とも「次に会う日が楽しみ」って思ってるところが尊すぎる。雨の日に始まった距離が、少しずつ縮まってる感じがすごくいい。次回の写真エピソードも絶対読むわ🔥
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