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エルメラの策略によって、ヘレーナ嬢は赤子同然になったらしい。

それは妹にとっても、予想外の結末だったようだ。彼女を絶望される所までは想定していたが、そんな手段を取るなんて思っていなかったらしい。


「ドルギア殿下は、その辺りのことを覚えていらっしゃるんですか?」

「正直な所、あまり正確には覚えられていませんね。ぼんやりと記憶に残ってはいますが……その辺りについて、なんというか整理ができていません。夢の中の出来事、みたいな感じで」

「やはり魔法の後遺症が……」

「その辺りは、エルメラ嬢から問題はないとお墨付きをいただいていますから大丈夫です」


ドルギア殿下は、現在もアーガント伯爵家に滞在している。

それは、エルメラが彼に魔法をかけたからだ。その経過を念のために、エルメラが診ているのである。

正直な所、色々と心配だ。いくらエルメラが天才だからといって、記憶に関する魔法をかけて、本当に良かったのだろうか。今でも私は、気になっている。


「そもそもエルメラ嬢の魔法は、あくまでも記憶を隠す魔法ですからね。ある一定の記憶にアクセスできなくなる魔法です。ヘレーナ嬢が自らにかけた記憶を消去する魔法とは違います。あれは、記憶を焼き尽くす魔法だから、危険なのです」

「そういうものなのでしょうか?」

「ええ、エルメラ嬢の魔法はとても人道的ともいえます」


当の本人であるドルギア殿下は、涼しい顔をして紅茶を飲んでいた。

王子として様々な教育を受けた彼は、魔法に関しても学んでいたらしい。そんな彼は、エルメラの魔法が問題と判断できる程の知識があるということなのだろう。

私も魔法は学んでいたはずなのだが、正直その辺りのことはよくわからない。こんなことなら、エルメラに敵わないからと卑屈にならず、もっときちんと学んでおけばよかったと思ってしまう。


「そもそも、多少の後遺症くらいは覚悟の上でしたからね。ヘレーナ嬢に関しては、僕もなんとかしなければならないと思っていましたから」

「それは……」

「イルティナ嬢の安全だとか、僕自身の今後のためにも、ヘレーナ嬢は排除しておかなければならない存在でした。あまり言いたくはありませんが、今回のような結果になって、正直安心しているくらいです」

「……そう、ですよね」


ヘレーナ嬢の末路に関して、私は少し悲惨なものだと思ってしまっている。

こうならなければ、彼女に永遠に付け回されたかもしれない。それはわかっているのだが、だからといって手放しに喜ぶことなどは、できないのだ。

といっても、エルメラに怒ったりしたい訳でもない。なんというか単純に後味が悪いため、なんとも言えない気持ちになってしまうのだ。




◇◇◇




今回の一件で騎士団は大きな打撃を受けたといえる。

失態に次ぐ失態をエルメラ嬢によって白日の元に晒されて、その名声は地に落ちた。

騎士団にとって、それは忌むべきことであるだろう。ただ実の所、俺にとっては都合がいいことでもある。


「このまま順当に行けば、俺が騎士団のトップに立てると思います」

「そうか。それは何よりだ。お前が騎士団長になれば、この国は盤石のものになる」

「この国というよりも、私達王族の支配が盤石になるという方が正しいのではないかしら」


ダルキス兄上とツゥーリア姉上は、俺の言葉にそれぞれ異なる反応をした。

次期国王筆頭――というよりも、兄弟全員の総意でそう定められている兄上にとって、俺の知らせは朗報であっただろう。心なしか喜んでいるような気がする。

一方で、姉上の方は冷めている。権力の全てが王族に集中するということを、姉上の方は危惧しているということだろうか。


「まあといっても、最近の騎士団の動向はそれ程良いものではなかったことを考えると、どちらがいいのかはわからないけれど」

「思い上がりも甚だしいものだ。被害者であるイルティナ嬢には悪いが、今回は騎士団にとって良い薬となっただろう」

「お兄様がそのような考えだから、騎士団からも反発が大きかったとも思えてしまいますが」

「それに関しては、騎士団長ロヴァディオの策略だ。俺は騎士団に対して、いつも正当なる評価をしているつもりだ」


兄上と姉上は、仲が悪いという訳ではない。ただ、こうやって意見が対立するのが常だ。

それは敢えてやっていることなのかもしれない。姉上はそういった点に関して、バランスを取ることが多い人だ。その可能性はある。

ただ同じくらい、素の可能性もあるだろう。単純に姉上は、兄上と正反対の性格をしている人であるような気がする。


「……お兄様もお姉様も、大変そうですね?」


そんな二人のことを眺めていると、後ろから声が聞こえてきた。

その声の主である妹のティルリアは、議論に参加せずに悠々と紅茶を飲んでいる。


「まあ、兄上も姉上も、この国の中枢を担う人達だからな」

「それはチャルアお兄様も同じではありませんか。違うのは私とドルギアくらいです」

「いや、お前だって重要な役割がある。教会だって、大きな一派の一つだ」

「別に私は、教会で上り詰めたいなどと思っている訳ではありませんけれど」


ティルリアは、ゆっくりとティーカップを置いた。

そして、俺の顔を真剣に見つめてくる。


「お兄様、例の件についてはどうなっているのですか?」

「ああ、それについては問題ない。約束は取りつけておいた」

「ありがとうございます。ふふ、楽しみです。エルメラ嬢は、私と仲良くしてくれるでしょうか?」

「……さあな」


笑顔を浮かべる妹に、俺は何も言えなくなってしまった。

ティルリアとエルメラ嬢、なんとなく噛み合わせが悪いと俺は思っているのだが、本当に大丈夫なのだろうか。

優秀な妹と婚約したら全て上手くいくのではなかったのですか?

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