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こと-koto
402
Side 美緒
蒔田医院での勉強会が終了した。
里美と一緒にさくら薬局へ戻って来ると、なんだか肩の力が抜けて、ふぅーっと大きく息をつく。
まさか、勉強会に健治が来るなんて思わなかったから、みんなに紹介をして、挨拶をしただけなのに酷く気疲れしてしまったのだ。
事務所の椅子に腰を下ろし、ペットボトルのお茶をゴクゴクと飲み、緊張で乾いた喉を潤した。
「菅生先生、ごちそうさまでした。私たち、お茶してきますね」
先に運んだお弁当を食べ終えた事務スタッフは、店舗の外にお茶をしに出掛けて行く。
その姿を見送った私は、これから待望の豪華弁当を頂くのだ。
「うわーっ、さすが、高いだけあって美味しそう」
隣に座る里美がお弁当の蓋を開くと歓声を上げた。
鰆の西京漬けに牛時雨、お野菜の煮物、綺麗な生麩、酢の物、お新香が彩りよく小分けにされているお弁当。和食は、目でも楽しめる。
「三崎先生、和食をリクエストしてくれたんだね」
先日、リクエストを聞かれた時に和食が人気だけど、好きなの頼んで下さいと言ったのに、和食をチョイスしてくれた。その心遣いを嬉しく思いながら、鰆の西京漬けを口にする。お弁当の焼き魚なのにフワリと柔らかい食感に感激する。
「それにしても、美緒先輩のご主人が来ているなんて驚きでした。イケメンの旦那さんで美緒先輩が顔で男を選んでいたなんてショックでした」
里美が悪戯な目つきで私の方を見てそんなことを言う。
「顔で選んだなんて……、優しいところもあるんだよ」
とは言っても浮気をされた事を知っている里美に言うのはバツが悪い。
「でも、ビックリですよね。美緒先輩は今日来るの知っていたんですか?」
「私も知らなくて、お弁当貰いに行った時、動揺しちゃった」
そう、蒔田医院の勉強会に来ることを知らなくて、待合室で健治を見つけ驚いたんだ。浮気の件とか何もかも知っている里美に健治を紹介する時が、実は一番緊張した。
健治の浮気を見てしまった時に一緒にいたのが里美。その後、里美と……。
里美が私の事を覗き込む。そして、里美のプルンとした唇が動いた。
「美緒先輩、土曜日空いていたら、相談したいことがあるのでウチに泊まりに来ませんか」
****
「ただいまー」
玄関ドアを開け、部屋に入る時に誰もいなくてもつい習慣で ”ただいま”と言ってしまう。
暗い部屋の電気を付けて、手を洗う。
家でひとりになると、つい健治の事が頭をよぎる。
他の人の病欠の穴埋めまでした健治と蒔田医院の勉強会で会ったばかりだ。
健治の仕事が忙しいのは重々承知している。
けれど、帰りが遅いとなると、本当に仕事かどうか、疑わしく思う。
昨夜、甘い香りを付けて帰って来たけれど、それは、浮気だったのか、仕事だったのか。
今日みたいに実際に働いているところを見ると、浮気ではなくて、やっぱり仕事で遅いのかな?と思う。
甘い香りも混んだエレベーターの中でついたとか、誰かとぶつかった時のアクシデントでついたとか……。
でも、本当は、野々宮さんとは別れていなくて、会っているのかなとも……。
その時によって、良い様に考えたり、悪い様に考えたり、心の中は不安定になっている。
今、2人の間に足りないのは、一緒にいる時間でコミュニケーション不足だ。
「この先、どうしたらいいんだろう……」
いけないと思いつつ、スマホのGPSアプリを開く。スマホの画面に表示された地図には、赤い丸が点滅している。その場所が、健治が勤めるアルゴファーマのビルと場所が重なり、ホッとした。
「健治、仕事してる……」
こんなGPSを使って、確かめないと安心出来ないなんて……自分嫌になる。
何時になったら、健治を信じる事が出来るんだろう。
不安な気持ちが無くなるんだろう。
答えのでない問いかけを自分の中で繰り返した。
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