テラーノベル
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夏休みが明けて、クラスの奴らは、最近の「異変」に気づき始めていた。
今まで一切の関りがなかった二人が、毎日一緒にいるようになったのだ。
「ひまちゃーん、生きてる?」
なつの机に手をついたすちに、なつは机に突っ伏したまま片手を挙げた。
「……死んでる。数学の小テスト、まじで意味わかんねー」
「あはは、お疲れ様。はい、これ糖分。」
すちはなつの席まで迷いなく歩いてくると、なつの後頭部に、冷たいミルクティーのペットボトルをポンと置いた。
「……サンキュ。……お前、他のやつと遊ばなくていいのかよ。」
「だってみんな、俺に気を使って話しかけてくるからさ。ひまちゃんとこうやって、適当にだらだらしてるのが一番楽なんだよね。」
すちは空いている前の席を勝手に反対向きに座り、なつの顔を覗き込む。
こうして休み時間のたびにどちらかが片方の隣へ座るのが、二人の間では当たり前のルールになっていた。
「あ、そうだ。ひまちゃん、今日の放課後、駅前のカラオケ行かない? 新しくできたんだって」
「えーカラオケかよ。お前、上手すぎるからやだ。」
「ひどい!俺はひまちゃんと歌いたいのに!」
なつは、すちのしなやかに自分に入り込んでくるペースに、もはや心地よさすら感じていた。
ふと、クラスの女子たちがこちらを見て「あの二人、最近いつも一緒にいるね」「暇くん、あんなに笑うんだ」とコソコソ話しているのが聞こえてきた。
「……おい、すち。見られてんぞ。」
「んー? いいよ、別に悪いことしてないし。俺たちが仲いいのは、学校公認ってことでしょ。」
すちは全く気にする様子もなく、なつの机の上にあった消しゴムで勝手に遊び始めた。
その屈託のない態度に、なつも小さく笑う。
「よし、決まり。放課後、昇降口で待ってるからね。遅れたらジュース奢りで」
「……絶対、先に着いてやるわ。」
チャイムが鳴り、すちがじゃあね、と手を振って自分の席へ戻っていった。
なつは、すちが置いていったミルクティーを一口飲み、次の授業への準備を始めた。
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「……ひまちゃん、それ俺のポテチなんだけど」
「あ?お前だってこの前食っただろ。」
放課後、誰もいない教室。なつとすちは、机をくっつけてダラダラと過ごしていた。
なつは、すちの手元にある袋から遠慮なくポテチを奪い取り、口に放り込む。
「あーあ、最後の一枚だったのに。ひまちゃん、まじで容赦ないよね」
「うるせー、明日奢ってやるから。……それより、さっきの先生の話、まじで意味わかんなかったよな。」
「だよね。あの説明で理解しろとか無理ゲー。」
二人は顔を見合わせてゲラゲラと笑う。
この頃のなつにとって、すちは女っ気のない、一緒にいて一番楽な奴だった。
他のクラスメイトには言えないような愚痴も、将来の適当な夢も、すちにだけは全部話せる。
「ねぇ、ひまちゃん。もし俺たちが大人になっても、こうやって遊んでるかな。」
ふと、すちが窓の外を眺めながら呟いた。
「……まぁ、 わかんねぇけど。お前、俺以外にこんなに付き合ってくれる奴いんの?」
「あはは、確かに。最近はずーっと一緒だしね。」
「変な言い方すんな。まぁ、飯くらいなら付き合ってやるよ」
なつはぶっきらぼうに返しながら、自分のスマホをすちの目の前に突き出した。
「ほら、次このゲーム対戦しよ。負けた方がジュース奢りな。」
「いいよ、絶対負けないから。」
二人でスマホを覗き込み、肩をぶつけ合って熱中する。
その距離が、いつか心臓を狂わせるものに変わるなんて、全く思っていなかった。
「ひまちゃん、隙あり~」
「あ! お前、卑怯だぞすち!」
夕暮れの校舎に、二人の騒がしい声が響く。
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そんなある日の昼休み、廊下の向こうですちが他クラスの連中と盛り上がっているのが見えた。
いつも自分に向けるのと同じような屈託のない笑顔。
(……ふーん。あんな顔もするんだな、あいつ)
怒るほどのことじゃない。
しかし、胸の奥が少しだけ、冷たい水に浸されたような居心地の悪さを感じた。
なつは声をかけずに通り過ぎようとしたが、すちがすぐに気づいて駆け寄ってくる。
「ひまちゃん! 今から購買? 一緒に行こ。」
「……いや、いい。お前、あっちと約束あんだろ。」
「え? ああ、あれはただ話してただけ。ひまちゃんと食べる方が大事だし。」
すちは当然のように隣に並び、なつの顔を覗き込もうとする。
「……んじゃ早く行くぞ。」
なつは早歩きで誤魔化した。
自分でも正体のわからないもやっとした感覚を、すちの明るい声が少しずつ溶かしていく。
(……まじで、面倒くせー。)
心の中でそう毒づきながらも、なつの歩幅は無意識に、隣を歩くすちのペースに合わせていた。
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コメント
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ひまちゃんがすちに対して感じる「もやっ」、めっちゃわかる……。まだ自分で気づいてないけど、心の中にちょっとした独占欲が生まれてる感じがして、その不器用な距離感がすごく好きです。すちがしれっと「ひまちゃんと食べる方が大事」って言うのも、重すぎず軽すぎずで、読んでて自然と口元が緩みました。これからどう変わっていくのか、すごく楽しみです🌙