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コメント
10件
この困ったwkiさんがゆっくりomrさんに絆されていくのかぁ…好きだなぁ…
……好きですわ。 私の好み知ってたんか?ってくらい好き
刺青入ってる人が攻められるのだァいすきなんですよ…わかります?強いと思ったらキスなどで力が抜けて弱々しいって感じの。。ぐふふ。
手当を終え、元貴は丁寧に手入れ箱を片付け始めた。
滉斗は、もう長居は無用とばかりに、座布団からゆっくりと立ち上がった。体中の痛みはまだ残っているが、先程よりは幾分マシになっている。
「あの…っ、ありがとうございました。もう、大丈夫なので…これで、失礼します」
滉斗は、深々と頭を下げた。早くこの組の屋敷から、非日常の世界から抜け出したかった。
しかし、元貴はそんな滉斗の動きを、まるで予測していたかのように、ゆったりとした仕草で立ち上がった。そして、部屋の入り口へと向かう滉斗の前に、すっと回り込む。
「ん? もう帰るの?」
元貴の声は穏やかだが、その存在感は、滉斗の帰り道を阻むように立ちはだかった。
「はい。もう遅いですし…」
「そうだね、もう日付が変わってるからね」
元貴は、どこか楽しそうに目を細めた。そして、ふわりと煙草の煙を吐き出す。その煙が、滉斗の顔の前で揺らめいた。
「この時間から、一人で帰るのは、ちょっと危ないんじゃないかな」
元貴の言葉に、滉斗はハッとした。確かに、先ほどの路地裏で絡まれたばかりだ。酔いは醒めたとはいえ、まだ体は本調子ではない。しかし、この屋敷に留まるというのは…
「でも…」
「それに、君、まだ酔いも完全に醒めてないでしょ? あんな風にフラフラ歩いて、また同じような連中に絡まれたら困る」
元貴の瞳が、滉斗を真っ直ぐに見つめた。その眼差しは、心配しているようで、どこか命令めいた響きも含まれている。
「此処で、朝までゆっくりしていきなよ。部屋なら、いくらでもあるから」
有無を言わせないような、けれど優しい声で、元貴は滉斗を促した。滉斗は、口ごもる。この男の言う通り、一人で帰るのは確かに危険だ。しかし、ヤクザの若頭の家に泊まるなんて、想像もしていなかった。
元貴は、滉斗の迷いを見抜いたように、再び口を開いた。
「安心して。誰が泊まらせると思ってるの、誰も君に手は出さない」
その言葉は、まるで組員たちへの牽制のように聞こえた。滉斗は、元貴の言葉と、その背後にある圧倒的な力を感じ取った。
逃げるべきか、留まるべきか。滉斗の頭の中は、激しく揺れていた。しかし、疲れと、まだ少し残る痛み、そして、この目の前の男の、不思議な引力に、抗うことができなかった。
「…その、ご迷惑じゃなければ…」
滉斗が小さくそう言うと、元貴の顔に、満足そうな笑みが浮かんだ。
「迷惑なわけないでしょ。それより、君、まだその格好なんだし、汗もかいてるだろ? お風呂沸いてるから、入っていきなよ」
元貴は、何の気なしにそう勧める。組の屋敷にある風呂は、豪華な岩風呂だ。日頃の疲れも癒せるだろう、と元貴は思っている。
「えっ、お風呂まで…?」
滉斗は、予想外の提案に戸惑う。しかし、言われてみれば、酒と恐怖と痛みで、汗をかき、シャツも汚れている。
「そうだよ。綺麗にして、さっぱりしないとね。それに、怪我もあるんだから、温めた方がいい」
元貴の言葉に、滉斗は「は、はい…」と頷くしかなかった。まさかヤクザの若頭の家で風呂に入るなんて、夢にも思わなかった。
風呂から上がり、滉斗は元貴に案内された部屋で用意されていた浴衣を手に取った。しかし、慣れない和装に、どう着たらいいか分からない。
「あの…」
結局、滉斗は元貴の部屋に戻ってきた。元貴は、すでに用意された自分の布団の横に座って、文庫本を読んでいた。
「どうしたの?」
「す、すみません…浴衣、どう着たらいいか分からなくて…ここで着替えても、いいですか?」
滉斗は、蚊の鳴くような声で申し出た。恐怖心はまだ拭えない。
元貴は、一瞬目を丸くしたが、すぐにフッと笑い出した。
「ふはっ、子供かよ。いいよ、別に。手伝ってあげる」
元貴は、そう言って立ち上がると、滉斗が持っていた浴衣を受け取った。
そして、器用に滉斗の肩に浴衣を掛け、背中のシワを伸ばしていく。元貴の手が滉斗の体に触れるたび、ゾクリと緊張が走る。元貴は、滉斗の腰に帯を回し、結び目をキュッと締めた。
その時だった。元貴が身を乗り出した瞬間、彼が着ている黒いシャツの襟元がはだけ、その奥に隠されていたはずの大きな鯉の刺青がちらりと見えた。
色鮮やかな墨の模様が、一瞬だけ、元貴の白い肌に浮かび上がる。
滉斗は、ゴクリと唾を飲み込んだ。その刺青は、先ほど路地裏で感じた、元貴の底知れない『力』をまざまざと見せつけるようだった。背筋が凍りつくような感覚に、滉斗は思わず息を止めた。
元貴は、滉斗の反応には気付かず、帯を結び終えるとにこやかに言った。
「よし、これで完璧。似合ってるよ」
その優しい声と、刺青の残像が、滉斗の頭の中でごちゃ混ぜになる。
改めて、この目の前の男が、普通の人ではないことを突きつけられた気がした。