テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
『相対する空虚な心』
あの日から…幻に振られたあの日から、
時間、音、色、匂い、味…全ての感覚が曖昧で、何も感じなかった。
食欲も、睡眠欲も、性欲も、全てがどうでも良くて。
まるで、空っぽのように。
…今日、食ったっけ。
ここ数日、何かを口にした記憶が無い。
…でも、どうでもいい。
食べたところで、食べ物の味も、匂いも、温かさも感じないんだ。
「…おい、 石神…大丈夫か?」
「……ぁ”?…」
「講義中もずっと上の空だったし……」
大丈夫か? …何が。
…頭の奥がぼんやりする。
立ち上がると、足元がずるっと傾いた。
……重力って、こんなに不安定だったか?
音が、遠い。
「〜〜っっ…、」
足がもつれて、体の重さが感じなくなった途端
全身に、強い衝撃が走った。
「っ石神!!」
「…良かった…!お前、急に倒れたんだぞ?」
「…倒れた…?」
…白で統一された部屋。白のカーテンで覆われたベッド。
ここは、大学の医務室だった。
「栄養失調だとよ。」
…栄養…
確かに、最近は何も食べていなかった。
…失恋のショックで。
…つまり、幻に振られて倒れたのか。俺。
こんなに非合理的で、面倒なら…
最初から”好き”という現象なんて、なかったら良かったのに。
栄養失調で倒れた後日。
今日は火曜日。五時頃。
普段なら、大学から家へ帰ってきている時間だ。
が、今日はずっと家に…ベッドにいた。
大学からの指示で、自宅療養。
必ず朝、昼、晩、バランスの取れた食事を取れ。と言われた。
…結局、食べなかったけど。
ピンポーン
…インターホンが鳴った。
宅急便か?それなら置き配に…いや、頼んだ覚えが無い…
…人…か。
……玄関に向かわなければ。
玄関に行くまでの道のりが、すごく遠くに見える。
足が、体が、重い。
息が上手く吸えない。
暑い。寒い。
がチャ
「…ぇ。」
「やっほー、千空ちゃん。」
一生、ここに幻が来ることは
ないと思ってた。
…幻…幻、幻。
少し気まずい気持ちの裏に…嬉しい気持ちが、あった。
「…あ〜、やっぱり。」
「千空ちゃん、何も食べてないんでしょ。」
「もー、熱も出てるし…ちゃんと食べなきゃ。」
「色々買ってきて正解だった。」
幻が持っていたレジ袋の中から…
ポカリ、ゼリー、冷凍うどん、冷えピタ…まるで、体調を崩していると分かっていたかのように、どんどん出てくる。
「…なんで、体調崩してるって…」
「千空ちゃんの友達の子から、色々詳しく聞いたのよ。」
「様子がずっとおかしかったこと、栄養失調で倒れたこと…」
「気を失っていた時、ずっと俺の名前を呼んでいたこと。」
「…そうか。」
「キッチン借りるね♡」
「はい、おまちどーさま♪」
「俺も一緒に食べる〜」
二人分のうどん。
…幻に振られてから、ずっと、食べ物を見ても何も思わなかった。感じなかった。
…けど、今は…何故か、
うどんの色、匂い、温かさが…鮮明に分かる。
…この感じ、久々だ。
幻の隣に座って、何かを口にして、温かみを感じて。
「…幻、あの頃は、本当に幸せだった。」
「幻と話して、笑って、食べて、寝て…」
…あれ、
「…、っ…げんと、一緒なら、…」
声が…震えて…
「地獄にでも…っ、いけるような、っ気がしてたんだ…」
「…やめて、千空ちゃん。」
「……俺、」
「俺は、最初から何も分かんなかった。」
「千空ちゃんの”好き”も、俺の”好き”も、」
「何もわかんない。」
「俺は、空っぽなんだ。」
第5話 『相対する空虚な心』
終わりです!んーー、書いてる私も辛いです。
次回で最終話!
最終話をすぐに ぽんっと出すの少しもったいない気がするので、
♡がどれだけ少なくても多くても、水曜日投稿で行きます
感 想 待 っ て ま す ! ! ! ! !
コメント
3件