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リビングでビールを飲み終えた美奈が、当然のように言った。
「来週には引越すから、部屋を見るわ。階段あっちね」
「えっ? 2階に上がるんですか?」
2階は、寝室や書斎などプライベートな場所だ。
他人に見られたくない。
「なに言ってるの? 住むんだから部屋を決めないと」
階段に向かう美奈が、振り返って言った。
「だし巻き、60点」
沙耶は言葉が出なかった。
美奈と翔太が食べ散らかした跡を見て、吐き気がした。
この片付けを私がするの? と思ったとき、
「わぁ~~い!」
2階から翔太の声が聞こえた。
沙耶が2階に上がると、翔太が寝室のベッドの上で飛び跳ねていた。
「やめて!」
翔太は止めない。
それどころか、美奈が大きな声を出した。
「翔太に指図しないで!」
「え?」
「ウチは自由にさせる方針なの。子供にとやかく言わないで」
「寝室から出てください」
「なんで? 翔太が気に入ってるんだから、いいじゃない」
「私が嫌なんです。ここは、」
「私の実家!」
美奈がニヤリと笑う。
飛び跳ねるのに飽きたのか、翔太は廊下に出た。
「私、この部屋にする」
「する、って?」
「アンタたち、寝室いる? だって、子供デキないんでしょ。
もう無理じゃない? ま、翔太が『跡取り』だからイイけど」
「僕、この部屋~~」
翔太が叫んでいるのは、沙耶が〈子供部屋にしよう〉と空けていた部屋だ。
「じゃあ、明日から荷物運ぶから」
沙耶が言い返そうとしたとき、恵子が帰宅した。
「みんな2階にいるのぉ? いいお肉 買ってきたわよ」
美奈は、食材の買物をLINNで恵子に頼んでいた。
(お義母さん、同居に賛成なの???)
美奈が、勝ち誇ったように言った。
「いい? この家は、私と息子と母と弟が住む家よ。
アンタだけが他人。嫌なら出て行ってね」
(そういうことか!)
美奈の真意が解った。
沙耶を追い出そうとしている。
出ていくまで嫌がらせは続くだろう。