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友也がゴルフから帰って、夕食の焼肉が始まった。
食事の用意は、沙耶が一人で賄った。
恵子が手伝いかけると、美奈がリビングに引き止める。
「そんなの嫁にさせたらいいの」
「それにさ、ここのキッチン狭いから、一人の方が楽でしょ」
「家族だけの積もる話もあるし」
美奈の言葉には『棘(とげ)』と『嫌味』が溢れている。
これほどムカつく女は初めてだ、と沙耶は思った。
翔太の食事マナーは最悪だった。
野菜を一切食べず、肉ばかりガツガツ頬張る。
友也が肉を食べると、「僕の肉だった!」と本気で怒る。
あげくに自分の前に肉を集めて「絶対に取るな!」と言い出した。
「男の子って可愛いでしょ。よく食べるのよ」
美奈はビールを飲みながら笑うだけだ。
美奈は、子育てと教育に絶対的な自信を持っている。
翔太は、有名私立小学校の優等生だ。
「昨日のテストも百点だったの」
「運動もできるし、歌も上手い。本当にいい子」
翔太の自慢が終わると、美奈は『友也の元カノ』の話を始めた。
「友也が結婚するって聞いたとき、彩(あや)ちゃんと思ったわ」
夫の『元カノ話』。沙耶には極めて不快な話題だ。
「そしたら、沙耶さんでしょ。名前似てるし、今でも間違えない?」
「間違える訳ないだろ! 何年前の話してんだよ!」
「え~? 5、6年前でしょ。実は二股してたんじゃない?」
沙耶は友也の顔を見た。
友也は、左右に激しく手と顔を振った。
「バカなこと言うな。ありえない」
「じゃあ、沙耶さんの略奪婚?」
「普通に恋愛して、普通に結婚したんだよ」
「私は彩ちゃん好きだったなぁ。お母さんも気に入ってたよね」
恵子は即座に返事をした。
「いいえ。沙耶さんが友也と結婚してくれて嬉しいわ」
「でも、彩ちゃんは、家庭的で健康的だったじゃない」
な、何を言いたいの? 沙耶は美奈を睨んだ。
だが、そんなことで美奈の口は止まらない。
「友也は可哀想ね。5年も経つのに、子無しなんて。
私もお母さんも早く妊娠したわ。お祖母ちゃんもね。
やっぱり、沙耶さんに問題あるんじゃないの?」
もう黙っていられない! 沙耶は はっきりと言った。
「問題ありません。 家を建ててから、と思ってました。
我家(うち)には我家(うち)の計画があります」
「あっ、そう。でも、弁えてね」
「わきまえる?」
「家に10歳の男の子がいるの。謹んでよ」
つつしむ? つまり「子作りするな」ということか?
だから寝室を奪った???
沙耶が言い返そうとしたとき、
「おかわり!」
翔太が、お茶碗を突き出した。
「はいはい」と恵子が立ち上がると、美奈が止めた。
「お母さんがすることじゃないよ。何のために嫁がいるのよ」
「早くして!」
翔太は不機嫌だ。
本当に、この親子と同居するのか?
沙耶は〈ここからが勝負だ〉と思った。