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翌朝、スタジオに現れたガッチマンの顔は、お世辞にも絶好調とは言えなかった。
目の下には薄っすらとクマが浮き、その表情はどこか魂が抜けたようにぼんやりとしている。
無理もない。昨夜、玄関先で突きつけられた牛沢の告白。あれからベッドに入っても、目を閉じるたびに牛沢の真剣な瞳と、自分の感じた熱が蘇って、結局一分も眠れなかったのだ。
「おはようございまーす……」
「お、ガッチさん。おはよう……って、顔色悪くね? 大丈夫?」
真っ先に声をかけてきたのは、珍しく早く来ていたキヨだ。
「あー、うん…… ちょっと寝付けなくてさ」
ガッチマンが力なく笑った。そのすぐ後。
「…おはよう、ガッチさん」
背後から、低く、落ち着いた声が届く。
ガッチマンの背筋が反射的にビシッと伸びる。振り返らなくてもわかる。この声は牛沢だ。
「お、おはよ、うっしー! 早いね!」
「いやいつもこの時間に来てるけど…」
牛沢は昨日までと変わらない、涼しい顔でガッチマンの隣を陣取った。
そのいつもの距離が、意識してしまうとなんだか近い気がして、ガッチマンはそれだけで顔を真っ赤にして飛び退きそうになる。
そこに、空気の読めないーーいや、読みすぎる後輩が特攻を仕掛けてきた。
「ガッチマンさん! おはようございます! 今日も一段と素敵ですね、これ、僕のオススメの栄養ドリンクです!」
「おーおはよう、ありがとー……」
ガッチマンが受け取ろうとした瞬間、牛沢が横からスッと手を伸ばし、ガッチマンの肩を自分の方へ抱き寄せた。
「これ、カフェイン強いやつじゃん。ガッチさんさっき寝不足だって言ってたでしょ? 刺激強すぎんのは良くないよ」
牛沢の腕が肩に触れた瞬間、ガッチマンの顔は急激に真っ赤に染まった。
昨夜の告白が勝手に脳内で再生される。
(うわっ…!!?ち、近い!うっしー近い!! 今、普通に抱き寄せたよね!?いつもこんな近かったっけ…!?いや、昨日あんなこと言われたばっかだし!!)
ガッチマンは赤くなったかと思えば、あまりの緊張に今度は青ざめ、挙動不審に視線を泳がせる。
後輩が「ちょっと牛沢さん、邪魔しないでくださいよ!」と食い下がれば、牛沢は平然と「邪魔? 介抱してんだけど」と返し、さらにガッチマンとの密着度を上げる。
その様子を、スタジオの隅からキヨとレトルトが食い入るように見つめていた。
「…ねぇ、レトさん。さすがにガッチさんの挙動おかしくね?確実になんかあったよね?」
「これはあったねぇ。ガッチさんの表情の変わり方尋常じゃないし。うっしーが近づくたびに、信号機みたいに顔色変えてるもん」
「うっしーも昨日よりさらに『俺の女』感出してるしさぁ。俺らが知らないだけでこれもう、付き合ってるとかある?」
キヨとレトルトがコソコソ見守る中、ガッチマンのパンク寸前の脳内はさらに加速する。
牛沢に近づかれる度に、心臓が痛いくらいに跳ねる。
自分を見守る牛沢の瞳が、今まで思っていたよりもずっと深く、優しく自分を捉えていることに気づくたび、ガッチマンは逃げ出したいような、嬉しいような、ぐちゃぐちゃな感情に支配されていく。
「……ガッチさん、顔赤いよ。大丈夫?熱でもある?」
牛沢が不意に、空いている方の手でガッチマンのおでこに触れようとする。
「ひゃいっ!! だ、大丈夫! 全然大丈夫だから!!」
変な声を上げて飛び上がったガッチマンを見て、キヨとレトルトがついに堪えきれずに吹き出した。
「っっぶはは!!!ひゃいってガッチさん!!」
楽しそうに笑う二人を見て「何笑ってんのお前ら」と怪訝そうな顔をする牛沢と、羞恥心で消え入りそうなガッチマン。
そんな牛沢とガッチマンを後輩は見つめていた。
あまりにも分かりやすく、執拗にガッチマンを囲い込む牛沢の振る舞い。そして、それに触れられるたびに信号機のように顔色を変えるガッチマン。
その異様な光景に、ついに後輩の堪忍袋の緒が切れた。
「……ちょっと、いい加減にしてくださいよ!」
後輩が地団駄を踏むようにして二人の間に割り込む。その目は真剣で、ガッチマンを問い詰めるように見据えた。
「ガッチマンさん、はっきりしてください! まさか…僕を振っておいて、好きでもない牛沢さんと付き合ったんですか!?」
「えっ!?い、いや、付き合っては……!」
ガッチマンが反射的に否定しようとした、その時。
隣にいた牛沢が、迷いのない動きでガッチマンの右手をそっと取り、自分の胸元へと引き寄せた。
「何、だったら、どうすんの?」
牛沢は低く、挑戦的な声でそう告げると、あろうことか大勢の人間がいるスタジオで、ガッチマンの手の甲に、まるで中世の王子様のような仕草で優しく、唇を落とした。
「〜〜っっっ!?!?!?!?」
ガッチマンの頭の中で、何かが音を立てて崩れ落ちる。
手の甲から伝わる、牛沢の唇の柔らかさと、熱。
周囲の目なんて一切気にせず、見せつけるような、普段の牛沢なら絶対にしないであろうその大胆な行為に、ガッチマンの顔からは本気で湯気が出るのではないかというほど真っ赤に染まった。
「……あ、……う、う、うっしーっ…!?」
声が大きく裏返ったガッチマンを余所に、牛沢は勝ち誇ったニヤケ顔を後輩に向けた。
その瞳は「『何もしない』やつに、負けた気分はどう?」と明確に告げていた。
「…………っ、もういいです!! 最低ですよ牛沢さん!!」
後輩は、あまりの力の差、というか、入り込む隙のなさに絶望したのか、顔を真っ赤にして泣きそうな顔でスタジオを飛び出していった。
バタン、と重いドアが閉まる音が響く。
静まり返ったスタジオで、牛沢は繋いでいたガッチマンの手をようやく離すと、いつもの調子でケタケタと笑い出した。
「ひゃはは!見た?あいつの顔。……あー、すっきりした。こうでもしないと離れなさそうだからさ。ようやく追い払えたね、ガッチさん」
「………………」
「あれガッチさん? … おーい、生きてる?」
牛沢が顔を覗き込むが、ガッチマンはもはや石像のように固まったまま、真っ赤な顔で自分の手の甲を凝視している。
牛沢にとっては「後輩を追い払うための作戦」(もしくは、どさくさに紛れた本気)だったかもしれないが、昨夜の告白をダイレクトに浴びているガッチマンにとっては、それはもう心臓を素手で掴まれるような衝撃だった。
「うわ……。うっしー、お前、今のはやりすぎだろ」
「ガッチさん、魂が口から出てるよ……?」
呆れ返るキヨとレトルトの声も、ガッチマンの耳には届かない。
(……え。……何!?……うっしーが、みんなの前で、俺の手に、キス、……した!?)
追い払えたと喜んでいる牛沢の横で、ガッチマンは思考が整理できなくて、手の甲に視線を釘付けにしたまま固まり続けていた。
この後、それはそれは面白いゲーム実況を撮った気はするが、後半の記憶は、熱に浮かされて どこにも残っていなかった。
あれから、あの後輩は、ピタリとガッチマンの前に姿を見せなくなった。スタジオで見かけても、牛沢のあまりの殺気に恐れをなしたのか、ついに心を折られたのか、遠くから会釈をするのが精一杯といった様子だ。
「……ねぇ、うっしー。もうあの子も来なくなったし、そんなにずっと側にいなくても大丈夫だよ?」
収録の合間、ガッチマンが少し困ったように、頬を赤くして呟く。
後輩が去った今でも、牛沢の鉄壁のガードは一向に解かれる気配がない。それどころか、以前よりも露骨ではないにせよ、向けられる優しさと執着の密度が、明らかに数倍跳ね上がっている。
「……嫌だね。ああいう悪い虫がつくのはもう御免だし、何より『何もしてない奴』なんて言われんのは、もう癪だから」
牛沢は、当たり前かのように平然と答えた。
自分のことが好きと知った上で聞くこの言葉は、あまりにもガッチマンの心に重くのしかかる。
「でもさ、もう……守ってもらわなくても……」
「俺が守りたいんだよ。それに……」
牛沢は機材の影に隠れるようにして、ガッチマンの耳元に顔を近づけた。
「……ガッチさんに、俺のことを本当に好きになってもらいたいから。……だから、手は抜かないって決めたの」
「…………っ!!」
サラリと言ってのけ、牛沢は何食わぬ顔でまたマイクのチェックに戻る。
残されたガッチマンは、もはやタジタジという言葉では足りないほどに狼狽し、顔を両手で覆ってうずくまってしまった。
「……ぇええ……?……反則だって、そんなの……」
昨日まであんなに「友達」という言葉を盾に動かなかった牛沢が、一度 好きだと認めてからは、恐ろしいほどの猛攻を仕掛けてきている。
自分を翻弄する牛沢に振り回され、ガッチマンの心臓は休まる暇がない。
そんな二人の様子を、スタジオの反対側からキヨとレトルトが静かに、けれど楽しそうに眺めていた。
「……なんかガッチさん崩れ落ちてんだけど。」
「うっしー、一回吹っ切れたからって形勢逆転しすぎて、完全にガッチさんを手のひらで転がしてるねw」
キヨがニヤニヤしながら、手近にあったお菓子を口に放り込む。
「あんなにうっしーの事、天然で振り回してたガッチさんが今はうっしーの言葉一つで茹でダコだもんな。……マジで最高に面白いわw」
「うっしーも幸せそうだしね。ガッチさんを見る目が、もう完全に好きな人のそれだし。」
二人の視線の先では、牛沢が少し眉を下げ満足そうに笑いながら、真っ赤な耳をしたガッチマンに「…ちょっと、うずくまってないでガッチさんも準備して 」と話しかけている。
「……うっしーのせいじゃん…… 」
ガッチマンの小さな反論は、牛沢の低い笑い声にかき消されていった。
帰宅後。
ガッチマンはキヨとレトルトを通話に呼び出し、魂が抜けかけたような顔で口を開いた。
「……あのさ。二人には言っておかなきゃと思って。……うっしーのことなんだけど」
ガッチマンは、これまでの経緯をポツリポツリと話し始めた。
玄関先で牛沢に聞いた事。告白されたこと。その流れで今日、手の甲にキスをされたこと。
「……ずっと、気づいてなかったんだけどさ。 ……俺も未だに信じらんないんだけど……うっしー、俺のことが、好き、らしくて。
……それで、俺も、多分……もしかしたら、その……」
そこまで言って、ガッチマンは言葉を詰まらせ、真っ赤な顔をしてうつむき黙り込む。
その様子を、事情をすべて把握しているキヨとレトルトは、薄笑いを浮かべながら聞いていた。二人は無言で二人用のチャットを開き、会話を交わす。
(……やば、うっしー告白したの!?しかもガッチさんもうっしーのこと好きだって!)
(まじかぁ……。あのうっしーが、ついにガッチさんの心を射止めたんだ……すご)
二人は内心で拍手喝采を送っていたが、表面上はあくまで、初めて聞いた相談役の顔を取り繕う。
「へーえ! うっしーがねぇ! 意外だわー(棒)」
「……で、ガッチさんはどうしたいの? 返事すればいいじゃん、そのまま自分の気持ちで」
レトルトが至極当然の答えを突きつける。
しかし、ガッチマンは「そうだけどさ……」とさらに深く唸った。
「……でもさ、よく考えてよ。……俺がうっしーの将来を、人生を、こんな形で背負っちゃっていいのかなって。
一般人とは言え俺らは活動者で、その中で男同士で付き合っていくのもきっと難しいだろうし……。
俺と付き合うことで、うっしーが何か損をしたり、後悔したりするんじゃないかって……」
ガッチマンの中で、自身の優しさと真面目さが足枷になっていた。
自分の気持ちよりも、まず相手の人生を案じてしまう。それが彼の美徳であり、今の恋を阻む最大の壁だった。
それを聞いたレトルトが、ふっと柔らかく笑いながら、口を開く。
「ガッチさん。……うっしーはそういう、ガッチさんの真面目すぎるところも含めて、全部好きだから告白してきてると思うけどね。損とか得とか、そんなんで動くような男じゃないでしょ、うっしーは」
「そうだよガッチさん。第一、うっしーがあんな必死になってんの、ガッチさん以外で見たことないし!
告白してきてる時点で、本人が『背負わせろ』って言ってるようなもんなんだから、甘えちゃえばいいんだよ」
二人の言葉に、ガッチマンは顔を上げた。
『世界で一番』
あの時、牛沢が放った言葉の重みが、二人のアドバイスによって、より鮮明な実感を伴って胸に響く。
牛沢にとって自分が、唯一の「世界で一番」の人間なのか。
「……そう、なのかな。……うっしー、後悔、しないかな」
「しないね。断られる方が、うっしーにとっては一生の後悔になると思うよ」
レトルトの最後の一押しに、ガッチマンはゆっくりと深呼吸をし、拳を握りしめた。
赤かった顔は、今は決意の色を帯びている。
(…………俺も、……うっしーの事……。
将来なんてわかんないけど、 ……うっしーが、いいって言ってくれるなら。)
「……わかった。俺、……ちゃんと、うっしーに言ってくる」
「おっ、言ったな! 頑張れよ、ガッチさん!」
「報告、楽しみにしてるからねぇ」
二人の応援を受けながら、ガッチマンは通話を切り席を立った。
その足取りは、先ほどまでの迷いに満ちたものとは違い、真っ直ぐにうっしーという光へと向かっていた。
自宅を出たガッチマンは、冷たい夜風を頬に受けながら、迷うことなく牛沢の自宅へと向かう。
心臓の音がうるさすぎて、歩く振動がそのまま鼓動に響く。
マンションの入り口。震える指で呼び出しボタンを押した。
「……はい、あれ?ガッチさん?」
インターホン越しに聞こえてきた、少し意外そうな牛沢の声。ガッチマンはモニター越しに視線が合っているような気がして、思わず俯いてしまった。
「……あ、うっしー。夜中に、急に来てごめん。……あの、……返事、したくて」
一瞬、沈黙が流れる。
「今出る。そこで待ってて」という短い返事の後、数分もしないうちにマンションの入り口から、上着を羽織った牛沢が姿を現した。
牛沢の表情には、いつもの余裕はない。不安と、微かな期待。彼もまた、この瞬間のために心臓を削るような緊張を抱えているのが、ガッチマンには痛いほど伝わってきた。
「ちょっとガッチさん、緊張しすぎでしょ。肩、上がってるよ」
ガチガチに固まったガッチマンを見て、牛沢は少しだけ、いつものように茶化すように笑った。
それでも黙りこくるガッチマンを見て、牛沢は優しく声をかける。
「……少し、歩こうか」
「うん……」
二人は並んで、静かな住宅街を歩き始めた。
街灯が等間隔に、二人の影を伸ばしては縮めていく。
言葉を探しては飲み込み、唇を噛むガッチマン。牛沢はそんな彼を急かすことも、自分から話題を振ることもせず、ただ一歩一歩、ガッチマンの歩幅に合わせて静かに歩みを共にしていた。
この数日間、どれだけ翻弄されただろう。どれだけ、自分の心が友達という枠を超えて熱くなるのを感じただろう。
公園の入り口に差し掛かったところで、ガッチマンがふっと歩みを止めた。
「……うっしー、あのね」
絞り出したような声。ガッチマンの顔は、街灯光の下で、はっきりとわかるほど赤く染まっていた。
牛沢はゆっくりと立ち止まり、ガッチマンの方へと向き直る。
「うん?」
牛沢の返事は、どこまでも優しく、真剣だった。
彼はそれ以上、何も言わない。ガッチマンが自分の言葉で、自分の意志で、その心を吐き出すのを、ただ静かに、真っ直ぐな瞳で待ち続けている。
「……うっしーが告白してくれてから……俺、ずっと考えてた。……俺なんかでいいのかなって、活動のこととか、将来のこととか、色々考えちゃったんだけど……」
ガッチマンは、ギュッとコートの裾を握りしめた。
「……でも。……うっしーに『好きだ』って言われて、嫌だって思わなかったのは……。嬉しいって思ったのは……俺も、……うっしーのことが、好き、だからなんだと思う」
そこまで言って、ガッチマンは勇気を振り絞って顔を上げた。
「……うっしー。……もし、……もし本当に俺でいいなら。……よろしくお願いします」
夜の静寂の中に、ガッチマンの精一杯の告白が溶けていった。
牛沢の瞳が、一瞬だけ大きく見開かれる。
いつも饒舌な男が、言葉を失ったようにガッチマンを見つめていた。
静かな散歩道。二人の間を、冷たい風ではなく、お互いの体温を感じるような熱い沈黙が満たしていく。
ガッチマンの震えるような告白を、牛沢は全身で受け止めていた。
けれど、あまりにも現実味がなかったのか、牛沢は少し掠れた声で、確認するように問いかける。
「……こんな言い方するの、多分良くないんだろうけど。……TOP4のバランスとか、今の関係を壊さないようにって、気を使って告白を受け入れてくれたわけじゃない……?だってほら…ガッチさん優しいから」
「え!?ち、違うよ!!」
ガッチマンは、食い気味に叫んだ。
普段は穏やかな彼が、これほどまでに必死に否定するのは珍しい。
「本当に、嬉しかったんだよ! ……気がつくのが、かなり遅れちゃったけど。……多分、俺もずっと好きだったんだよ、うっしーのこと!……今も、本当に、好きだから返事して……。変に気を遣ったとか、そんなんじゃないから……!」
真っ赤な顔をして、下手くそでもなりふり構わず想いを伝えようとするガッチマン。
その必死な瞳、震える唇、自分に向けられた純粋すぎる熱量。
「…………っ」
愛おしさが、そして長年抑え込んできた想いが、濁流のように溢れ出す。
牛沢はたまらず、ガッチマンを抱きしめた。
「わっ……!? う、うっしー!?」
「…………一生、後悔させないから。
改めて…ガッチさん、俺と付き合ってください。」
耳元で、重く、震えるような声が響く。
いつもの牛沢からは想像もつかないような、剥き出しの誓い。
ガッチマンは、その行動と力強さに驚き、目を丸くして固まった。
だが、背中に回された牛沢の手の震えを感じた瞬間、自分への愛がどれほど深いものだったのかを、今度こそ心の底から理解した。
「……っ。……うん、……よろしくお願いします……。」
照れくさくて、顔を牛沢の肩に埋めながら、ガッチマンもまた、腕を牛沢の背中に回した。
街灯の下、寄り添い合う二人の影。
後輩の特攻から始まったこの騒動は、十年以上の友情を、恋愛へと変えて、静かに幕を下ろした。
(……やっと、やっと捕まえた…ガッチさん。)
牛沢の腕に込められた力が、さらに一段と強くなる。今にも泣きそうな気持ちをぐっと抑え込む。
二人の新しい物語は、冬の澄んだ夜空の下、ようやく本物の熱を帯びて始まったのだった。
静まり返った公園の入り口で、牛沢が少しだけ名残惜しそうに体を離した。
「……もう終電ないでしょ。うち来なよ」
「えっ!?!? ……そんな、付き合ったばっかで、ま、まだ早いでしょ!!」
ガッチマンは、文字通り飛び上がらんばかりに驚き、真っ赤な顔で狼狽え始めた。さっきまでの感動的な空気はどこへやら、彼の脳内では「付き合う=家=……!?」という極端な変換が猛スピードで行われていた。
そんなガッチマンの様子を見て、牛沢は一瞬きょとんとした後、堪えきれずに吹き出した。
「あはは! ガッチさん、何想像してんの? 家くらい今までも散々来てたでしょ。……何、期待してんの?」
「き、期待なんかしてないよ!! 違う、そうじゃなくて……!」
「いいから。ほら、行こう」
牛沢は意地悪そうに笑うと、ガッチマンの右手をしっかりと、指を絡めるようにして握った。
「寒いし。……風邪引かれたら、俺が困る」
「……うっ、……うん……」
有無を言わせぬ力強さで手を引かれ、二人は来た道を戻り始める。
繋がれた手。そこから伝わる牛沢の確かな体温。
今まで友達として何度も家に行き、並んでゲームをして、酒を飲んできたはずなのに。
(……どうしよう。二人きりで、うっしーの家……。……俺、心臓もつかなぁ……)
ガッチマンは、自分の心臓の音が牛沢に聞こえてしまうのではないかと気が気ではなく、頭の中はモンモンとした妄想と緊張でパンク寸前だった。
対照的に、前を歩く牛沢の背中は、いつになく誇らしげに見えた。
(…………っしゃ!!)
牛沢は、ガッチマンに見えないところで内心、盛大なガッツポーズを決めていた。
十年以上、喉から手が出るほど欲しかった「恋人」という称号。
そして今、自分の手の中に収まっている、少し震える、愛おしいガッチマンの手。
(……ようやく。ようやく、捕まえた……)
ニヤケそうになる口を抑える。
牛沢は、心の中で幸せを何度も噛み締め、繋いだ手に少しだけ力を込めた。
夜の住宅街を、不器用なほど真っ赤な顔をしたガッチマンと、満足げな笑みを隠しきれない牛沢の影が、ぴったりと寄り添うようにして消えていった。