【掲示板スレッド:最近チーター狩られてる件について Part3】
(前スレ >>950 あたりから話題が尽きずに移動)
1: 名無しイカ (20XX/09/17 00:01:15)
前スレ落ちたので立てました。
ここ最近チーターが減ってるって噂、やっぱマジっぽいので情報交換よろしく。
2: 名無しタコ (20XX/09/17 00:02:40)
スレ立て乙。
てか減ってるんじゃなくて「狩られてる」ってマ?
3: 名無し (20XX/09/17 00:04:03)
マジらしい。
俺の知り合いが遭遇したんだと。血痕と弾痕あったって。
普通に殺されてた。
4: 名無し (20XX/09/17 00:05:55)
うわ、ガチで狩人いるのかよw
リアルの世界でリアル殺し屋とか怖すぎ。
5: 名無し (20XX/09/17 00:07:22)
4
でもさ、正直ありがたくね?
チーターって普通に迷惑だったし。
6: 名無し (20XX/09/17 00:08:10)
ありがたいっちゃありがたいけどよ。
「チーターを狩る奴」って、チーター以上にヤベー存在だろ。
7: 名無し (20XX/09/17 00:09:45)
俺は支持するわw
自警団も役に立ってないだろ?やっぱ狩ってる側のがカッコイイじゃん。
8: 名無し (20XX/09/17 00:11:31)
いやいや、現実で人殺ししてるのと変わんねーからw
正義気取ってるだけの危ない奴だろ。
9: 名無し (20XX/09/17 00:13:02)
でもさ、現に街からチーターが消えてるのは事実なんだよな。
この数日で2、3体は確認されてるって聞いた。
10: 名無し (20XX/09/17 00:15:44)
うちの近所でも見たわ。
でかい穴あいてて、床に銃弾転がってた。
なんか冷や汗出た。
11: 名無し (20XX/09/17 00:17:59)
あーそれ俺も噂で聞いた。
チーターが頭吹っ飛ばされてたとかいうやつ。
12: 名無し (20XX/09/17 00:19:16)
おまえら詳しすぎwww
ソースどこよ?
13: 名無し (20XX/09/17 00:20:40)
知り合いの知り合いだが……まあ信じるかどうかは任せるわ。
14: 名無し (20XX/09/17 00:22:10)
俺は信じる。
てかチーターどもがピタッと大人しくなってんの、異常すぎる。
15: 名無し (20XX/09/17 00:24:44)
……なあ、それより気になることあるんだが。
「幻覚見せるチーター」の話、知ってる奴いる?
16: 名無し (20XX/09/17 00:25:31)
はいきた。
都市伝説乙www
17: 名無し (20XX/09/17 00:26:50)
いや、マジなんだって。
仲間が実際に遭遇したらしいんだ。
相手が何人にも見えて、銃撃っても全部スカ。
で、気づいたら背後に立たれてたって。
18: 名無し (20XX/09/17 00:28:15)
それラグとかワープ系じゃね?
ラグの奴は残像出るし。
19: 名無し (20XX/09/17 00:29:40)
いや、違うって。
同じ姿が複数同時に動いてたらしい。
残像じゃなくて完全に「分身」。
20: 名無し (20XX/09/17 00:31:12)
やべぇだろそれwww
てかもうチーターって何でもありだな。
21: 名無し (20XX/09/17 00:32:50)
でもさ、もし本当に「幻覚」なら?
銃弾避けるのも、幻影に撃たされてるだけかもしれねぇ。
22: 名無し (20XX/09/17 00:34:19)
そう考えると、狩ってる奴でも詰むんじゃね?
姿見極められないでハメ殺される。
23: 名無し (20XX/09/17 00:36:44)
てことは次に死ぬのは「狩人」の方かもなwww
24: 名無し (20XX/09/17 00:38:00)
うーん……でも狩人って相当手練れだろ?
ラグだの透明だの仕留めてきたんだろ?
幻覚くらいどうにかすんじゃね?
25: 名無し (20XX/09/17 00:40:33)
まあ、見てみたいわw
幻覚チーター vs 狩人。
絶対どっちか死ぬ。
26: 名無し (20XX/09/17 00:42:50)
25
見世物じゃねえw
でも確かにどっちも化物だな。
27: 名無し (20XX/09/17 00:44:12)
俺は狩人に賭ける。
だってチーターは所詮不正。
でも狩人は本物の実力。
28: 名無し (20XX/09/17 00:46:59)
なんか熱く語ってる奴いて草。
でもまあ……見えない敵と戦うとか普通無理だよな。
29: 名無し (20XX/09/17 00:49:20)
本当に「幻覚」が現実なら、そいつは中ボスクラスだな。
30: 名無し (20XX/09/17 00:52:11)
やめろw
ゲーム感覚で語るなwww
31: 名無し (20XX/09/17 00:54:33)
てか今もどっかで戦ってたりしてな。
狩人と幻覚チーター。
……街の片隅で。
32: 名無し (20XX/09/17 00:56:02)
それ考えるとちょっと怖いな。
俺らがこうしてレスしてる間に誰か死んでるかも。
33: 名無し (20XX/09/17 00:59:41)
まあ俺らはモニター越しに眺めてるだけだしw
関係ねー関係ねー。
34: 名無し (20XX/09/17 01:01:13)
お前ら呑気すぎる。
……明日から外出るとき気をつけろよ。
35: 名無し (20XX/09/17 01:03:44)
34
は?お前ホラー映画見すぎ。
チーターなんて元からイカでもタコでもねーしw
36: 名無し (20XX/09/17 01:05:12)
35
いやでもチーターの死体って普通に「イカタコの死体」なんだろ?
俺、それが一番ヤバいと思うんだが。
37: 名無し (20XX/09/17 01:07:28)
チーターは元イカタコ説なw
改造でああなってんじゃねーの。
38: 名無し (20XX/09/17 01:09:44)
元イカタコだとしたら……狩ってる奴も人殺し確定じゃん。
39: 名無し (20XX/09/17 01:11:11)
結局「正義」なんてないんだよ。
不正者も殺し屋も、ただの怪物。
40: 名無し (20XX/09/17 01:13:55)
39
いや、不正者いなくなって街が平和になってんだから正義でよくね?
41: 名無し (20XX/09/17 01:15:33)
そのうち「狩人」が調子乗って一般人も狩りだすに100ペリカ。
42: 名無し (20XX/09/17 01:17:20)
おまえらマジで震えて眠れwww
43: 名無し (20XX/09/17 01:19:44)
てか「幻覚チーター」ってさ、ほんとに存在するの?
ソース少なすぎ。
44: 名無し (20XX/09/17 01:21:30)
ソースは俺の友達(震え声)
45: 名無し (20XX/09/17 01:23:00)
44
はいはいワロス。
幻覚見てんのはお前の友達の方だろ。
46: 名無し (20XX/09/17 01:25:22)
でも「見えてるのに当たらない」ってのは結構ガチだと思う。
俺も似た体験したことあるし。
47: 名無し (20XX/09/17 01:27:58)
え、kwsk
48: 名無し (20XX/09/17 01:30:40)
3日前だな。
裏路地歩いてたら、目の前にフード被ったやつが立ってた。
そしたら一瞬で4人くらいに増えやがったんだよ。
で、どれが本物かわからんうちに気絶してた。
気づいたら全身傷だらけで放置されてた。
49: 名無し (20XX/09/17 01:32:44)
それただの集団リンチじゃね?w
50: 名無し (20XX/09/17 01:34:55)
いや違う!
本当に「同じ姿」が増えたんだって。
51: 名無し (20XX/09/17 01:37:22)
怖すぎワロタ。
てかよく生きて帰ってきたな。
52: 名無し (20XX/09/17 01:39:40)
幻覚チーター=幻影旅団説。
53: 名無し (20XX/09/17 01:41:11)
52
漫画混ぜんなwww
54: 名無し (20XX/09/17 01:43:28)
まあでも幻覚って本当に厄介だよな。
攻撃当たらねーし、位置も読めねー。
狩人でも詰むんじゃね?
55: 名無し (20XX/09/17 01:45:00)
そこで出てくるのが「もう一人の狩人」だろ。
56: 名無し (20XX/09/17 01:47:29)
え、狩人って一人じゃないの?
57: 名無し (20XX/09/17 01:49:55)
違うっぽい。
最近の死体見てる奴が言うには、傷跡のパターンが違うんだと。
銃痕だけじゃなくて刃物も混じってるって。
58: 名無し (20XX/09/17 01:52:31)
二人組とかデュオ狩人かよw
アニメかよw
59: 名無し (20XX/09/17 01:55:22)
だとしても心強くね?
狩人二人 vs チーター全体。
燃える展開。
60: 名無し (20XX/09/17 01:58:00)
でもお前ら気づいてる?
「狩人同士が鉢合わせたら」ってこと。
61: 名無し (20XX/09/17 02:01:13)
あー……考えたくねえな。
同じ獲物狙って、お互い誤解して殺し合い……。
62: 名無し (20XX/09/17 02:03:50)
その隙に幻覚チーターが漁夫る、と。
63: 名無し (20XX/09/17 02:05:28)
完璧なシナリオじゃんwww
64: 名無し (20XX/09/17 02:07:55)
てか狩人って何者なんだろうな。
元軍人?傭兵?
65: 名無し (20XX/09/17 02:10:44)
ただの一般人がこんなことできるわけねーよな。
66: 名無し (20XX/09/17 02:13:29)
まあ正体不明だからこそ「狩人」なんだろ。
67: 名無し (20XX/09/17 02:16:11)
幻覚チーターも正体不明。
不正vs不明の化け物バトル。
68: 名無し (20XX/09/17 02:18:44)
67
字面だけで映画一本撮れそうw
69: 名無し (20XX/09/17 02:21:55)
お前ら面白がりすぎ。
リアルで人死んでんだぞ。
70: 名無し (20XX/09/17 02:24:20)
でもこの街じゃ日常茶飯事じゃん。
もうみんな感覚麻痺してんだよ。
71: 名無し (20XX/09/17 02:27:31)
まあでも狩人の動き早すぎね?
この一週間で何体も消されてる。
72: 名無し (20XX/09/17 02:30:40)
二人いる説で説明つくな。
73: 名無し (20XX/09/17 02:33:55)
それか本当に組織かもな。
「不正者狩り」とかいう裏ギルド的なやつ。
74: 名無し (20XX/09/17 02:37:00)
厨二ネーミングやめろw
75: 名無し (20XX/09/17 02:40:44)
いや、でもアリじゃね?
裏で情報共有して動いてるなら、チーターも対応できんだろ。
76: 名無し (20XX/09/17 02:44:21)
もしマジなら、そいつらに接触してみたいわ。
安全守ってもらえそうじゃん。
77: 名無し (20XX/09/17 02:48:19)
いや逆に巻き込まれて死ぬぞw
78: 名無し (20XX/09/17 02:52:00)
でもなんか憧れるよな、狩人って。
影のヒーロー感ある。
79: 名無し (20XX/09/17 02:56:44)
幻覚チーターと戦って無事に帰ってきたら、もう伝説だな。
80: 名無し (20XX/09/17 03:01:11)
狩人 vs 幻覚、決着ついたら誰かここにレポ頼むわ。
時刻は既に夜更け、街のざわめきも遠のき、窓の外にはぼんやりとしたネオンの光が滲んでいるだけだった。
机の上に置かれた端末の液晶だけが淡く輝き、そこから発せられる青白い光がアマリリスの横顔を照らしていた。彼は椅子に背を深く預け、細い指で画面をスクロールしながら、匿名掲示板に溢れる書き込みを追っていた。
「また狩られたチーターが出た。」
「やっぱり噂は本当だったんだ。」
「幻覚を操るやつにやられたらしい。」
「狩人が現れてる。」
そんな言葉が乱雑に並んでいる。軽口も多い、煽り合いも多い。それでも読み解いていくと確かに共通した断片が浮かび上がる。狩られた不正者が最後に残した叫び。
目の前に立っていた敵が次の瞬間には背後にいて、攻撃を繰り出そうとしても視界が歪み、まともに当てられなかったこと。どこか現実感を欠いた声で
「幻覚を見た。」
と言い残して消えたこと。
アマリリスは表情を変えず、ただ瞳だけを画面に向けていた。けれども胸の内では冷たいざわめきが広がっている。
幻覚。
攻撃手段としても、撹乱としても極めて厄介だ。狩るべき存在であるチーターがそんな力を得ているとすれば、街はこれまで以上に混乱に巻き込まれるだろう。
彼の思考は瞬く間に演算を重ねていった。幻覚を破るには何が必要か。視覚を信じない。匂いや音、空気の揺れといった副次的な感覚を拾う。それでも相手の能力がどの程度の規模で作用するのか未知数である以上、確実な対策は立てられない。だからこそ確かめなければならない。
指先が画面の端に触れ、スクロールは止まった。最後の投稿に視線を落とす。
「港湾区の倉庫で目撃。」
「笑い声と共に空気が歪む。」
「真っ正面から見ていたのに、次の瞬間には背後を斬られていた。」
それだけが書かれていた。投稿者が本当に現場にいたのか、それともただの嘘なのかは分からない。それでも、行く価値はある。アマリリスの瞼がわずかに伏せられ、次の瞬間にゆっくりと開いた時、その決意は凍りついた鋼のように硬く光っていた。
端末を閉じ、机の隅に静かに置く。椅子を引いて立ち上がると、背筋が自然に伸びた。ベッドの横に掛けてあった黒い外套を手に取り、音を立てぬよう肩に羽織る。布が肌を覆うと同時に、彼の気配はまるで闇に溶けるかのように沈んだ。
外套は彼にとってただの防寒具ではない。夜に潜むための第二の皮膚、狩人としての顔を覆い隠す仮面のようなものだ。
窓辺に歩み寄り、外を一瞥する。遠くのビル群には看板のネオンが瞬き、下層の通りではまだ酒場帰りのイカやタコが群れて騒いでいる。その喧噪は届かぬはずなのに、夜風が運んでくるのか耳にかすかに残響する。だが彼には関わりのない世界だ。彼の視線はもっと奥、光の届かぬ路地の影や、立ち並ぶ倉庫群の暗がりへと向けられていた。
アマリリスはゆっくりと窓を閉じ、鍵を確かめる。一度室内に戻り、腰のホルスターを確認する。短剣が一振り、手首に装着した薄刃が一つ。必要最低限、しかし確実に命を奪える装備。それらを確認すると、彼はドアに手をかけた。
外に出た瞬間、冷たい空気が頬を撫でた。夜の街は昼間の喧噪を捨て、別の顔を見せていた。遠くでバイクのエンジン音が響き、どこかの屋上から音楽が聞こえる。舗道は雨上がりのように濡れて光を反射し、歩くたびに足音が吸い込まれていくようだった。
アマリリスの足取りは迷いなく、一定のリズムを刻んで進む。路地を抜けると、彼の影は看板の光に伸び、また闇に溶けた。頭上には高架線が走り、列車が遠くで鈍い音を立てている。
街の中に散らばるすべての音を彼は聞き分ける。誰かの靴音、遠くの叫び声、酒瓶の割れる音。その中から異質なものを探すためだ。幻覚を操る敵は、必ずどこかに痕跡を残すはず。
そのために彼は耳も目も、皮膚の感覚すらも総動員していた。やがて彼は人気の少ない地区へと足を踏み入れる。ビル群の光も薄れ、代わりに鉄の匂いと油の臭気が漂ってきた。
港湾区、倉庫が並ぶエリアの入口だ。無数のコンテナが積み上がり、夜風にきしむ音が響く。遠くで波が岸壁を叩く音が低く響く。その全てが彼の五感を研ぎ澄ませる。
アマリリスは歩みを止め、暗がりに溶け込むように立ち止まった。背後の街の光はここまで届かない。闇の帳の中で、彼の存在は消える。端末で見た情報が正しければ、この先に幻覚のチーターが潜んでいる。彼は呼吸を整えた。
吐く息が白く揺れ、夜気に消える。冷静、冷徹。感情は一切混ぜない。ただ狩る。それだけ。そしてアマリリスは、闇の中に足を踏み入れた。
外の音が遮られると、そこは異様な静寂の箱庭となった。錆び付いたドラム缶が転がり、古びた看板の一部が外から漏れる風に揺れて軋んでいる。彼は膝を軽く曲げ、腰を落として構えを整えながら、周囲の物音に神経を張り巡らせた。
自分の吐く息が濃く白く見えた気がしたが、それすら幻覚かもしれないと疑う。幻覚のチーターは敵の認識を狂わせ、ありもしないものを見せると同時に、本来あるものを隠す。つまり、見える景色全てが罠の可能性を孕んでいるのだ。
アマリリスはまず、物理的な痕跡を探し始めた。幻覚は視覚を騙せても地面に刻まれた靴跡や壁に残る引っ掻き傷までは消せない。彼は路地のアスファルトに視線を落とし、光を反射する水溜まりに注意深く目を凝らす。そこには微かに乱れた飛沫の形跡があり、何かが勢いよく通り抜けたことを示していた。照明に照らされた痕跡は、一見ただの染みのように見えるが、形を辿ると足跡が交差する軌道を描いていた。まるで意図的にかき消そうとした跡。しかし、完全に消し去ることはできなかったようだ。
(やはり……いるな。)
アマリリスは心中で呟き、銃口を僅かに持ち上げた。背筋に粟立つような感覚。視界の端で、街灯の光が揺らめいた。いや、それは光ではなく、影が微かに揺れたのかもしれない。目を凝らしても掴めない。幻覚にしてはあまりにも自然で、だが確かに不自然。
彼はすぐに背を壁につけ、呼吸を整えた。額に汗が滲み、手の平が湿る。幻覚の効果範囲が既に自分を包み込んでいるとしたら、すでに一歩遅れている可能性もある。しかし怯んでいては死ぬだけだ。冷静に状況を分析しなければならない。彼は指でトリガーを撫でるように触れながら、脳裏で可能性を整理した。幻覚のチーターは相手の五感に干渉する。耳に届く音や目に映る像は信用ならない。逆に信用できるのは触覚と匂い。足音は捏造できても、地面の振動は誤魔化しにくい。匂いは偽装できても、風の向きと強さの違和感は幻覚に頼る者ほど疎かにする。
アマリリスはしゃがみ込み、指先で路地の埃をすくい、風の流れを読んだ。右から左へと冷たい風が抜けていく。その中で一瞬、逆方向に空気が渦を巻いたように感じられた。直後、耳の奥で声がした。
「見えてるか?」
誰かの低い囁き。だが振り返っても誰もいない。喉が鳴りそうになるのを必死で抑え、銃を構え直す。声がした方向へ銃口を向けると、街灯の明かりに照らされたはずの壁が、なぜか闇に沈んでいた。濃すぎる影。そこに、誰かが立っている気配。しかし瞬きをした途端、それは消え、ただの壁に戻っていた。幻覚が実際に始まったのだ。アマリリスは奥歯を強く噛み締め、わざとゆっくりと呼吸を繰り返す。
「幻覚は殺せない。殺せるのはその背後にいる奴だ。」
幻覚を打ち消すには、現実の痕跡を探し続けるしかない。彼は銃を両手で構え直し、体を小刻みに動かしながら歩を進めた。その瞬間、視界の隅で何かが動いた。路地の奥に人影が二つ現れ、一瞬で消える。追いかけるか? いや、罠かもしれない。彼は反射的に銃を構え直すが、すぐに考えを修正する。幻覚は敵の誘導だ。冷静に、冷静に……。
心臓が鼓動を打つ度に、全身に血が巡り、神経が研ぎ澄まされていく。地面を踏む度、靴底の感覚を細かく記憶する。わずかな段差、亀裂。全てを脳裏に焼き付け、幻覚による偽装と比較する。次の瞬間、空気が揺らぎ、目の前に突如として影が現れた。チーターの輪郭。だが、半透明に透けており、背景が重なって見える。アマリリスは即座に引き金を引いた。銃声が路地に響き、硝煙の匂いが充満する。だが弾丸は壁を貫くだけで、影は霧散した。
幻影。
反動で肩に衝撃が走り、耳がキンと鳴る。次々に現れる幻影。三つ、四つ、五つ。彼の周囲を取り囲むように現れては消える。銃を撃つべきか、温存すべきか、判断が迫られる。幻覚は相手を消耗させるためのもの。銃弾を無駄撃ちすれば本体と対峙した時に不利になる。だが無視すれば背後を突かれる可能性もある。
額を汗が伝い、顎を濡らす。目の前でまた一体が躍りかかった。その刹那、アマリリスは敢えて撃たなかった。幻影は腕を振り下ろすような仕草をしたが、触れる寸前に掻き消えた。風だけが残った。やはり幻覚。だが、風が動いた、つまり本体は近い。
アマリリスは息を吐き、決断した。煙弾を使うしかない。幻覚を遮断するのは不可能でも、視界全体を煙で覆えば、虚像と現実を一時的に区別できる。煙の中で確実に動く気配を撃ち抜けばいい。彼は腰のポーチに手を伸ばし、冷たい金属の筒を掴んだ。煙弾。親指が安全ピンにかかる。だが投げるのはまだだ。タイミングを誤れば無駄になる。
周囲の幻影は次第に濃さを増し、笑い声すら混じり始めた。頭の中をざわめきが支配する。「お前は誰も守れない。」
幻覚だ。アマリリスは奥歯を噛み砕かんばかりに力を込めた。心の奥に残る冷静さだけを頼りに、彼は煙弾を構え、次の瞬間を待った。
煙を放つ前の一瞬、世界全体が歪んで見えた。目に映る街路が波打ち、壁が溶け、頭上の空がインクのように垂れてくる。幻覚の力が最大限に発揮される瞬間。アマリリスは息を止め、腕を振りかぶった。
世界は一層混沌に包まれた。街路の光は揺らぎ、壁の影がうねり、頭上の空が墨のように垂れ下がる。煙の粒子は路地を覆い、視界を奪うと同時に幻覚を一層濃くした。銃を握りしめ、腰を落とし、指先で地面の微細な振動を読み取る。
幻覚は視覚を騙すが、物理的な影響は偽装できない。足元のわずかな震え、空気の流れ、湿ったコンクリートに触れる靴底の感触、全てが実体の存在を示していた。煙の中で、チーターは輪郭が薄く光るように見えたり消えたりする。幻覚は複数に分かれ、あたかも周囲に潜むかのように錯覚させる。
銃を構え、息を整え、体を小刻みに揺らしながら前進する。視界の端で一瞬、微かな動きが走る。反射的に銃口を向け、トリガーに指をかけるが、撃つのはまだ早い。煙が濃すぎて、虚像に弾を撃っても無駄になる。アマリリスは踏み込み、距離を詰める。視覚に頼らず、感覚を全て研ぎ澄ます。息づかい、空気の揺れ、振動。それらが実体を示す唯一の手がかりだった。チーターは煙の中で旋回し、体を半透明にして幻覚を増幅させる。周囲にもう一体の影が現れ、実体を隠す。
アマリリスは一瞬の迷いもなく判断した。動くのは片方、触覚と風の流れが示す位置に間違いはない。腕を振り、銃を撃つ。銃声が濃い煙の層を切り裂き、衝撃が肩に走る。煙に阻まれ、反動が増幅されるが、地面の振動で確かに当たったことを知る。チーターは背を弾ませるように小さく揺れ、幻影の一部が霧散した。
その隙にアマリリスはさらに踏み込み、煙の流れを読んで進路を取る。前方の闇の中で、幻覚が交差し、光と影が渦を巻く。目の前のチーターは透明化したかのように見え、壁や路地の影と重なる。だがアマリリスは躊躇しない。手首の感覚、空気の動き、振動、匂い。全てがチーターの位置を示していた。
煙の中で一歩、また一歩と進み、突然現れる幻覚を銃で切り裂く。何度も錯覚に惑わされ、無駄撃ちもしたが、それは計算の内だった。幻覚の存在は本体を消耗させるためのものであり、こちらも神経を研ぎ澄まし、反応速度を上げる必要がある。アマリリスは煙の中で立ち止まり、片膝を地面につけ、銃口を微調整する。
背後の幻影が跳ねるが、視界の揺れだけで判断する。体を低く保ち、地面の振動を感じながら、チーターの次の動きを予測する。やがて、微かな空気の揺れでチーターが急に距離を詰めてくることを感じ取った。瞬間的に踏み込み、銃口を向け、引き金を引く。
銃声が連続で響き、煙に混ざった空気が揺れる。チーターは跳躍し、影の中で回転する。半透明の体が煙と重なり、捕らえがたい。だがアマリリスは冷静に足元の振動を読み、銃弾の軌道を調整する。左から右へ、右から左へ、動きに合わせて微妙に角度を変え、ついに光の一瞬が弾丸に反応した。衝撃がチーターの体に伝わり、地面に接触した瞬間、鋭い咆哮が煙を突き抜ける。
「ぐっ…ぐああぁぁ……!!」
影の中に残る輪郭が僅かに揺れ、そして沈黙した。息を整えながら、アマリリスはゆっくりと前進し、膝を地面につけて煙の中を見渡す。チーターは崩れるように地面に伏せた。幻覚が消え、周囲の路地は静まり返る。銃を腰に戻し、手首の汗を拭う。まだ完全に安全ではないが、煙がチーターの幻覚を抑えた間に決定打を与えたのだ。彼は息を整え、ゆっくりと立ち上がる。冷たい夜風が煙を払い、空気の感覚が元に戻る。手の感覚で地面の湿度と振動を確かめ、もう一度周囲を見渡す。幻覚の残滓は微かに漂うが、本体は動かない。アマリリスは拳銃を握り直し、静かに路地を進み、倒れたチーターの体を確認する。
半透明だった体が、ようやく実体を取り戻すように黒光りする。鋭い爪、ひしゃげた筋肉、そして冷たく湿った体表。すべてが現実であることを確認し、胸中で一度小さく息を吐く。
幻覚は消え、煙も散り、路地は元の静寂を取り戻した。アマリリスはゆっくりと立ち上がり、夜の港湾区の倉庫街を背に、次の行動を考えながら歩き出す。街灯の光が彼の影を長く伸ばし、冷たい空気の中で確かな足取りが響いた。煙弾と銃火の残り香、戦闘の緊張感、そして勝利の手応え全てが彼の中で静かに整理され、次の狩りへの準備となった。
夜の街を抜け、港湾区の倉庫群を後にするアマリリスの影は、街灯の下で長く伸び、まるで次の戦いへの予告のように揺れていた。
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