君は酷い人。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ガヤガヤとした音の止まない夜
髪を染めた未成年が煙草を吸って道の真ん中に溜まっている。
「そーいや莉犬は髪染めんの?赤とか似合いそうなのに」
ピアスをじゃらじゃら付けブリーチで傷んだ髪を晒した男は俺の髪を触りながら言った。
名前も覚えていない。顔もはっきり認識していない。俺にとって背景の1部でしかないそいつ。
髪を触る仕草が大嫌いな
あいつ
と重なってその手を払い除けた。
「染めないよ。赤って色落ち早いし。」
「落ちた後の色綺麗じゃないし」
「俺これでも優等生だから」
「へーお前が優等生ねw」
「何ボケ?笑った方が良かった?」
低脳で下品な奴ら。
この輪の中にいながら常にこいつらを見下す性格の悪い俺。
「てか莉犬ピアスの穴すげぇよなそれ全部自分で開けたのかよ」
「…別にいいでしょなんでも」
ため息を零して吸いかけの煙草を再び口に入れた。
こんな姿大学の奴らが見たら驚くのだろうか。
嘘で塗り固めた自分。
どちらが嘘か分からないけれど。
こんなゴミのような自分。
…髪を触られてフラッシュバックしたあいつ。
あいつは今何をしてんだろうか。
「..俺帰るわ」
吸いかけの煙草を足で踏んずけて煙を消した。
自分のことを分かっていながら自分に優しくなれない。
あいつの事を考えたら気分が落ち込むことくらい分かっていたのに。
「…さいあく」
自分の家へと足を向かわせた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
自分の家に近づいてふと自分の部屋へと目線をあげた。
一人暮らしをする俺の部屋の前に見えた人影。
俺の家に何も言わずに来るやつなんかあいつしか居ない。
嫌な予感がして踵を返しコンビニへ向かった。
そういえば煙草がさっきので無くなった所だったし
丁度いいからついでに買ってしまおう。
その間に帰ってくれることを願って。
いらっしゃいませーとやる気の感じられない声が聞こえ一直線にカウンターへと向かう。
「24番…6つ」
「24 6つですねー少々お待ちください」
煙草を6つカウンターへと渡されてお金を払った。
いや。
払おうとした。
「あの、こいつ未成年なんで」
「それキャンセルで」
お金を掴む腕を強く掴まれた。
その背後から聞こえた声の正体など分かりきっている。
何度も聞いた
聞きたくも無かったその声。
定員の声も聞かず、俺の声も聞かず腕を引かれそのまま店の外へと連れ出された。
強く掴まれた腕が痛い。
「お前何してんだよ」
俺の嫌いな低い声。
前を歩くそいつの表情は見えない。
「…おまえには、かんけーない。」
反抗したくて絞り出した声が震えている。
「…なぁお前本気でそれ言ってんの?」
「関係ないわけないだろ」
俺の手を引いて前を歩く君。
「…なんで」
「なんでって、大事な…幼なじみが道踏み外そうとしてたら止めるべきだろ」
その返答は何時まで経っても腑に落ちない。
俺と違って授業はサボる癖に。
俺と違って校則は守らない癖に。
変なところで正義感に溢れてる。
まるでヒーロー気取り。
「いい迷惑。ほっといてよ」
「何度も何度もしつこいよ」
「俺もう未成年じゃない」
「でもまだ20歳行ってないだろ」
煙草を買うところを止められたのは今日が初めてだけど
煙草を吸っている時に何度か鉢合わせている。
吸うのを辞めない俺
何度も止めに入る君。
「たかが幼なじみじゃん。」
「ほんと迷惑」
「ていうか何しにきたのこんな時間に」
「…泊めて」
呆れてため息が出た。
今日はとことんついてないらしい。
「….ほんと迷惑。…入って」
毎度断れない俺はどこまでも弱い。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「風呂は?」
「入ってきた」
「いつもそうだと助かるんだけど」
週に数回突然家にやってきて、泊めてとせがむこいつ。
たまに泊まらずに帰る日もあるけれどこいつの俺の家に来る殆どの目的は泊めてもらうことだ。
こいつから離れたくて家から遠い大学を選んで進学して一人暮らしまでしたのに
こんなに頻繁にこられたんじゃあ意味が無い。
「ねぇりいぬ」
「何」
「煙草吸うの辞めて」
「むり」
「おまえには関係ない」
「俺にはある」
「しつこい」
「困ったらすぐそれ言うねりいぬ」
「追い出すぞ」
「そう言って追い出さない癖に」
「じゃあもう二度と部屋にあげてやんない」
「できんの?」
「できるよ」
「だって俺お前のこと嫌いだから」
「そう。俺は好きだよ」
「…嫌い」
「…そっか」
あぁほんと大嫌い。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
シングルベッドに2人無理やり入って寝る。
初めて俺の家に連絡もなく押しかけてきた日
勝手に来たのだから床で寝ろとと言っても嫌だの一点張りで
じゃあ俺が床で寝るというのもダメだと駄々をこねられた為こいつが来た時はいつも同じベッドで寝るようになった。
嫌いな匂いがして落ち着かない。
「りいぬ」
「….なに」
「好きだよ」
背後から腕を伸ばして肩に顔を埋めるそいつ。
なんだか今日はいつもに増してしつこい。
もう返答するのすら億劫で聞き流した。
「…ねぇ。無視しないで」
「..名前呼んで」
あまり聞かない弱々しい声。
こいつらしくない。
俺を抱きしめる手が震えていた。
「…なんなの。ほんとに」
「…好きだよ。りいぬ」
俺たちの関係に名前なんてない。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
物心ついた時から隣にはいつもさとみがいた。
俺を光へと導く姿は兄のようで、
時より見せる甘えたような姿は弟のようで
同い年の隣の家に住んでいる子。
親が知り合いだったとか仲がいいとかではなかったけれど、
家も隣で子供が同い年であれば必然的に関わる時間は増えていく。
毎朝学校に一緒に手を繋いで行って。
土日はどちらかの家にお泊まりをする。
そんな当たり前だった日常は少しづつ別の形へと姿を変えた。
ずっとなんて無いし当たり前のことだって時が経てば当たり前では無くなる。
だからこれは仕方の無いことで、誰も悪くない当然の結果だった。
あまりにも性格の違いすぎる俺たち。
真面目な俺と不真面目な君。
それでいて明るい俺とどちらかと言うとクールな君。
友達が多くなっていった俺と俺だけと関わり続ける君。
交わす言葉は減っていく。
君が隣にいることが減っていく。
君が居ない日常が当たり前になって行って
それでも俺もさとみも1日1日を生きている。
さとみは俺にとってただの友達で幼なじみでそれ以上でも以下でもない。
でもふとした瞬間さとみが居ないことが寂しくなる。
今何してんのかなとかここさとみと行きたいなとか。
高校1年の夏。
さとみくんに告白された。
思いもしてなかった言葉。
大事な大事な幼なじみ。
付き合うなんて考えたこともなかったけれど好きだと言われて気が付いた。
あぁ俺も好きだったんだって。
その日俺たちは幼馴染から恋人になった。
今までとは違う理由で手を繋いだ。
初めて誰かとキスをして
身体を重ねた。
幸せだったんだ。
幸せだった。
ずっとなんてないこと分かってたのに何処かでずっとを信じていた。
ある日俺たちが付き合っていること恋人関係なことクラスのやつらにバレた。
男同士。
友人のぎこちなくなった距離が苦しい。
それでもさとみくんが居るならいいと思った。
そう頭に言い聞かせた。
いつからかさとみのことを好きな女の子から嫌がらせを受けるようになった。
物を隠されたり教科書に落書きをされたりさとみから貰った物を捨てられたり。
髪にまで気を使っていた歩く姿勢も綺麗な美人で可愛いと有名な女の子。
さとみくんはかっこいいから隣に並んだら映えそうな。
言われた
「ずっとさとみくんが好きだったのにさとみくんにお前なんかに興味無いって言われたの。なんでってそれでも振り向いて貰いたくて頑張ったのに…さとみくんの好きな人が、相手が幼馴染なんてずるい」
「私だって幼馴染になりたかった。幼馴染だったら私だって付き合えたのに。私の方がずっと好きなのに」
「捨てられてしまえばいいのに」
「あなたたち2人とも酷い人」
もう疲れてたんだと思う。
俺もこの子も。
泣いていた。
突き飛ばされてぶつけた背中が痛い。
ただ付き合っただけ。
でも痛いのは嫌い。
この子のことは許せた。どんだけ逆恨みでもさとみくんのこと心から好きだったんだって知っているから。
けれどこの子に便乗した周りのヤツら。
俺を嗤う声が脳に響く。
我慢強かったはずだったのに。
どうもさとみくんが関わると上手くいかない。
別れろって言われるんだもん。
気持ち悪いって言われるんだもん。
さとみくんと居たって誤魔化せないくらい言葉は俺を蝕んだ。
高二の冬俺から別れを告げた。
もう限界だった。
引き止める君の言葉を無視して
悲しさを誤魔化した顔をしてみせた君を無視した。
3年になって受験やらなんやらで忙しくなって行った。
時間なんて作ろうと思えばいくらだって作れたはずだけど俺は只管にさとみくんから逃げた。
クラスの違う俺とさとみくんだったから案外逃げられるもので、次に会ったのは2人とも進路の決まった頃だった。
あの日と同じ。君に別れを告げた日と同じようなコート無しでは寒くて凍えてしまいそうな。
そんな日。
煙草を吸っていた俺と 君。
さとみくんの酷く傷ついたような顔が頭から消えない。
なんでそんな苦しそうな顔をしているのか分からなかった。
言葉を発しようとしてけれど何か詰まったように口を閉じた君。
1分ほど目が合っていたように思うけれど分からない。
1分も経ってなかったかもしれないしもっと経ってたかもしれない。
言葉も交わさないまま俺はその場を逃げた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
煙草を吸い始めた理由なんて単純だった。
誰ともキスをしなくなったその口はいつも寂しさを孕んでいたから。
飲み物を買いに入ったコンビニでふと目に映る煙草。
気がついたら買っていた。
224番。さとみくんの誕生日の番号の煙草。
未成年なのに、案外買えてしまうものなんだと他人事のように思ったりして
初めて吸った煙草はよく分からなかった。
どう吸うのが正解なんだと首を傾げながら口に咥えたまま息を吸い込んで
上手く吸えなくてむせたりして。
これ吸えてんのかななんて。
口寂しさが消えるなんてことも無くてただただ虚しさだけが心に残って。
それでも誤ちに走ることで自分の心を誤魔化した。
吸う頻度が増えていく
一日に消費する数が増えて行く。
捨て場所に困った空箱が部屋に積み重なっていく。
その分だけさとみくんが居ない日常が当たり前になっていく。
俺から手放した幸せ。
未練がましく泣くのなんてお門違いだって分かってる。
仕方の無いことだって言い訳を繰り返した。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
会いたくなかった。
自分が過ちを犯している姿を1番見られたくなかった人。
ねぇなんで何も言わないの。
なんで泣きそうな顔をしているの。
君が言葉に詰まった分俺も言葉を飲み込んだ。
離れた距離がもどかしい。
今までは容易に触れられていたのに。
耐えきれなくて逃げ出した。
もうあの頃の、さとみくんの恋人だった俺は何処にも居てはいけない。
もうすぐで進学の為に引越し。
これで終わり。
…そう思っていたのに君は家までやって来た。
俺の親に家を聞いたとわざわざ電車で1時間かかる俺の家まで。
その後も何度も何度もやってくる君。
呆れが勝っていく。
何がしたいのか分からない。
元恋人の元へとこんな頻繁にやってくるだなんて正気の沙汰じゃない。
幼馴染だからと言う癖に。その言葉を言う時何処か言いたくなさそうな君。
好きだよと眉を下げながら告げられる度フラッシュバックする嘲笑う声。
主語のないその言葉はどの好きを指しているのか分からないまま。
….分からないふりをしたまま
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ねぇりいぬ。今日デートしよ」
「…は?」
朝学校に行く支度をしようと起きた俺にそいつは言った。
「今日普通に授業あるだろお前」
今日は平日。
授業だって普通にあるしなんならこの時間俺の家に居てはさとみは自分の授業に間に合わないのに。
いつもならもう居ないのに。
「いいから早く支度して」
今日は必修科目も無いし休んだところで影響はないけれど、
なるべく授業は休みたくない。
けれど俺が断り切れる訳もなくさとみと出掛けることになった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
一緒に出かけるのなんて本当に久しぶりだった。
「どこ行くの」
「内緒」
ただひたすらにさとみの行きたい所に付き合わされて
普段歩かない距離を歩かされてクタクタで
それでも何処か楽しくて
ゲーセン。
ファーストフード店。
服屋。
そんなオシャレとは言えない行先。
けどどこか覚えのあるデートコース。
日が傾く。
君の影が伸びる。
夕日に重なる君。
どうしようもなく綺麗で悔しい。
「りいぬ」
「なに」
「りいぬは俺の事嫌い?」
「名前も呼びたくないくらい嫌い?」
逆光で顔が見えない
嫌い
嫌い
大嫌い
いつもは口からすらすらと出てくるのに声が出ない。
だって本当は
「俺聞いたんだよ…」
「りいぬが嫌がらせされてたって。俺と付き合ったせいで」
「最初はほんとに嫌われたんだって思ったよ」
「気づかないうちになにかしちゃったんだって」
「…でも違った。…ねぇ俺はずっと好きだよ」
「りいぬが好きずっと」
「ずっと」
手が伸びてきて頬に触れる
割れ物を扱うようなその手はあの時と何ら変わらない。
「気づかなくてごめん」
「泣かせてごめん気づつけてごめん」
「もし間違いに堕ちるなら俺も一緒に堕ちるから俺を置いていかないで」
俺の肩に顔を埋めるさとみ
肩が濡れて君が泣いてることを知る。
「…なんで..」
「なんでよ…」
ここまで愛されていい理由がない。
なぜ謝られているのかも分からない。
頬に触れたままの手に自分の手を重ねた
「俺が諦められなかった」
「りいぬ以外に好きになれる人なんていない」
「好きだよ」
日が落ちる
影が消える
「酷い人」
揺れる瞳を見つめた。
結局嫌いになんてなれなかったんだ。
好きで好きでどうしようもなかった。
「お互い様だ」
唇が重なった
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ねぇりいぬ煙草辞めて」
「関係な」
「ある」
「….」
「辞めないとキスするぞ」
「すればいいじゃん」
「誘ってる?」
「さぁ」
久しぶりにこういうの書いた(ˆ꜆ . ̫ . ).♡
リアルが忙しくて更新遅くなってごめんなさい😖՞ ՞
少しづつ更新していきます
コメント
4件
やっぱりりあさんの書き方も内容も全部好きで今回のも最高に良かったです…🥹🫶🏻
えぇめちゃくちゃ好きすぎます…🥹🤍大好きな赤くんのことをずーっと一途に愛し続けた桃くんも、過去の辛い思い出で変わってしまったけど結局桃くんを忘れられてなかった赤くんも、お互いがお互いを求めてて大切にしててすごく良かったです😭最高でした!!りあさんノベル書くの上手すぎます天才です🫶🏻桃くんの行動一つ一つめちゃくちゃ伝わってきて尊かったです!!