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白鳥さんに連れられて歩いて行くと、辿り着いた先は住宅街の外れに建っている三階建てのビルの前。
一階は空き店舗のようで何もテナントが入っていないようなのだけど、二階と三階は明かりが点いているので何かテナントが入っているようだけど、特に看板などは出ていない。
一体何のお店なのか不思議に思いながらも彼に続いて階段を上っていく。
そして、三階までやって来ると白鳥さんがドアの鍵を開けて扉を開けた。
すると、
「ただいま戻りました!」
そう一際明るい声で挨拶をしながら中へ入って行く白鳥さんを前に私はどうすればいいのか分からぬまま、その場に立ち尽くしていると、
「航海、何だ、その後ろの女は」
ドアを開けた先にはソファーがあり、こちらを正面に座る一人の男の人が私の姿を見るなり白鳥さんに尋ねた。
「ああ、実はここへ戻る途中にすれ違ったんすけど……色々訳ありっぽくて。放っておけなかったんで連れてきました」
「はあ……。お前な、犬猫を拾って来るのとは訳が違うんだぞ?」
「いや、そんなの分かってますよ? 平気ですって、アニキには迷惑掛けないようにするんで」
「……その言葉、忘れるなよ。おい女、ひとまず中へ入れ」
「は、はい……失礼します」
白鳥さんとの会話を終えると、アニキと呼ばれた男の人は私に中へ入るよう言ったので、私は素直に従って中へ入る。
部屋には他にも数人の男の人が控えていて、各々何か作業をしているのか私には目もくれなかった。
「お前、名前は?」
「……並木、愛結です」
「歳は?」
「……二十歳、です」
「その傷はどうした?」
「……こ、れは……その……」
「――男か?」
「…………」
「――まあいい。航海から俺らのことについて、何か聞いてるのか?」
「……い、いえ……」
「そうか。分かった。おい航海」
「はい」
「コイツはお前のとこで面倒見るつもりなんだな?」
「ええ、そのつもりですけど」
「……今のお前の部屋じゃ、セキュリティが甘い。マンションの方を使え」
「え? いいんすか?」
「ああ、構わねぇ。そろそろお前にも部屋をやろうと思ってたからな。丁度いい機会だ、今日からそっちに住め」
「ありがとうございます、アニキ!」
二人がそんな会話を交わすと、アニキと呼ばれた男の人が白鳥さんに鍵を手渡した。
会話の内容から、白鳥さんは今住んでいる場所から別の場所へ引っ越しをするようなのだけど、こんな夜中に、引っ越しを? と私の頭はハテナマークが飛び交っている。
「よし、愛結、行くぞ」
「え?」
「それじゃあアニキ、失礼します!」
「え、あ、あの……」
白鳥さんは勝手に話を進めて私の手を引いて挨拶をすると早々に部屋を出てドアを閉めた。
「あの、白鳥さん……行くって……」
「新しい部屋だよ。俺もようやくマンション住まいに昇格したんだぜ!」
「?」
貰った鍵を嬉しそうに見せながらはにかむ白鳥さん。
マンション住まいに昇格とは、一体?
訳が分からない私をよそに、階段を降りていく彼の後を追いかける。
そして、ビルを出た彼は裏手にある駐車場に停まっている一台のセダンタイプの車の前までやって来ると、
「ほら、乗って」
助手席側のドアを開けた白鳥さんに乗るよう促された私はコクリと頷いて席に着く。
そして、それを見届けた彼は運転席側に回り込んでドアを開けると、席に着いてエンジンを掛けた。
「あの、白鳥さん――」
「その“白鳥さん”っての止めない? 俺、苗字で、呼ばれんの嫌いなんだよ。航海でいいから」
「えっと……それじゃあ、航海さん?」
「うーん、何か堅苦しいんだよな、それ」
「……それじゃあ、航海くん……は?」
「まあ、さん付けよりはいいな。じゃあそれで。ま、とにかくマンションに行こうぜ。詳しい話はそれからだ」
結局、何が何だか分からぬままに車へ乗せられた私は彼の言うマンションまで連れて行かれることになった。