※ポケモンバイオレット(今更)を買った記念にSVの好きなポケモンで話書いたぜ、とても長い
あと超絶久しぶり
「ガメ……。」
カムカメが心配そうに見上げる木の上ではカルボウが両手を伸ばし、リンゴを採っていた。そして合計で4つのリンゴを下へ落とす。
「カボゥ!!」
カルボウも赤いリンゴを両手に抱えて木から飛び降りた。
「カメ!!」
「ボウ!」
2匹がシャクシャクとリンゴを美味しそうに頬張る。
「カルボウ!!カムカメ!!ここに居たんだ、もう!探したんだよー!」
そこへ、走ってやって来たのは2匹のトレーナーのナツハだ。そんなナツハを後目にカルボウは先程落としたリンゴの1つを抱え、ナツハへ掲げる。
「ボウ!」
そんな無邪気なカルボウにナツハも戦意喪失。怒る気も失せてしまった。
「くれるの?……もう…カジッチュの分も採ってくれたのね……はあ、分かったよ。怒らないから勝手に居なくならないでよ?ほんとに心配したんだから。」
「ボゥ。」
「カメシュ。」
「んじゃ、帰ろっか!帰ったらオヤツが待ってるよ〜!」
「カメッ!!!」
「カボウ!!」
3人は仲良く家へ帰った。家に帰るや否や、2匹のカジッチュが出迎え、リンゴを2つ抱えたナツハに飛び付く。
「こらこら、リンゴを採って来てくれたカルボウにお礼言わないとダメでしょ〜。」
「カジュ!!」
「チュチュ!!」
ピョコピョコ跳ねるカジッチュたちに嬉しくなったのか、カルボウとカムカメも飛び跳ねる。
「今、オヤツ持って来るから待っててね〜。」
「あら。お帰りなさいナツハ。どうだった?友達とは。」
「ただいま、ママ!!楽しかったよ!友達とポケモンバトルしたんだけど!カルボウの圧勝!!」
「あら!凄いじゃないカルボウったら。」
キッチンの棚からオヤツのカップケーキを取り出したナツハは皿に乗せ、カルボウたちの元へ向かった。
「はい、ゆっくり食べてね。」
「カジュ〜!」
「カボ!!」
「カメ〜。」
それから1年が経過。
その日はナツハがカルボウを連れて隣り街まで遊びに行っていた。今では進化したカジリガメとアップリューとタルップルは今か今かと2人の帰りを待っている。
「あら…雨ねぇ……傘を持たせてなかったけど、大丈夫かしら?」
途中から天気だった空が曇り、雨が降り始めた。窓からその景色を眺める母もナツハとカルボウを心配する。
「大丈夫よ。あの子らの事だからきっと大丈夫。」
母ら自分にも言い聞かせる様にポケモンの頭を撫でた。
しかし、暫くしてナツハとカルボウは帰って来ない。母も心配なのだろう、忙しなくウロウロしている。すると、
トルルルルゥ…
「あら…。」
突然、母のスマホに電話が鳴る。電話に出た母が窓から遠ざかる。すると、
「え?!!ど、どうしたの??大丈夫??カルボウは??!!今、何処に居るの??!!」
急に声を荒らげた母が頭を抱えた。電話の相手はナツハからだった。何やら慌ただしい雰囲気にカジリガメたちも心配そうに見詰める。
「ガメ……。」
「チュ…。」
「ええ…分かったわ。直ぐにそっちに行くから貴方たちはそのまま帰って来て。」
と、スマホをポケットに戻した母が慌ただしく傘を取り、外へ飛び出した。置いてけぼりのポケモンたちはただただ立ち尽くしていた。
暫くして、外からビチャビチャと走って来る足音が聞こえ、今度はバタンッとドアが勢い良く開いた。先程飛び出した母だ。肩で息をする母はもう一度外へ出る。
「キュゥ…?」
「カメッ!!」
次に家に入って来たのはズボ濡れのナツハだ。しかし、顔はかなり引きつっている。
「ほら、大丈夫だよ。」
「…ッ?!!!」
「?!!!!!!」
パートナーの帰りを喜ぶ暇もなく、母に支えられながら家に入って来るズボ濡れの黒い物体にカジリガメたちは目を疑った。
「ガメッ…??」
「チュッチュ…。」
そのおぞましい見た目に怖がったアップリューたちがナツハの後ろに隠れた。カジリガメは恐る恐るその物体に近付く。
目が合った。凍てつく様な冷たい視線。両手は大きな剣。鎧の様な姿。頭の上でユラユラと燃える炎。
「…カルボウ…?大丈夫??」
そう。
このポケモンはあのカルボウだったのだ。カジリガメがカルボウだったポケモン ━━ ソウブレイズの足に擦り寄る。しかし、ソウブレイズは何も応えない。それは抜け殻の様にその場に立ち尽くしているだけだった。
「一体、隣街で何があったの?」
母が聞く。ナツハは涙を流しながら、当時の状況を話し始めた。
隣街に行くまでは何もなく平凡だった。しかし、帰りになるとポツポツと雨が降り始めて近くにあった廃墟に雨宿りをしていたらしい。しかし、そこで運悪くポケモンハンターと鉢合わせてしまったのだ。そのハンターがヘルガーを繰り出し、ナツハとカルボウを引き剥がした。レベルの高いポケモンに為す術なく押さえ付けられたナツハの目の前でカルボウがポケモンハンターに捕まったのだ。そしてカルボウが連れられて行き、暫くして押さえ付けていたヘルガーがナツハから退く。そのまま、ポケモンハンターの消えて行った茂みへ掛けて行った。その後をナツハは無我夢中で追い掛けた。雨が降る森の中を、滑りそうになる地面に足を取られながらも走り続ける。すると、近くで爆発音がしたらしい。その方向へ走って行くと、またしても開けたところに出た。そこにはポケモンハンターが捕まえたであろう、ボロボロよポケモンたちと檻の数々。中央では黒いポケモンが立っていた。地面に倒れたポケモンハンターとその手持ちのポケモンたち。しかし、そのポケモンはポケモンハンターだけでなく、傷付いたポケモンたちにまで攻撃しようとしたのだ。それをナツハが必死に止めようとした時、そのポケモンが誰なのか漸く分かり、ナツハは絶望した。
それは進化したカルボウだったのだ。
「……私は全然大丈夫なんだけど…さっきからこの子、全く喋らないの……。」
「…………。」
今でもソウブレイズの瞳は強ばっている。きっと先程の事がトラウマになっているのだろう。アップリューやタルップルも心配そうにソウブレイズに近寄るが、ソウブレイズは魂が抜けた様に何も反応しなかった。
「……カジュ…。」
「プルゥ……?」
「ガァメ、ガァメ。」
カジリガメが必死に頭を擦り付ける。カムカメの頃はこうして擦り寄れば、カルボウが頭を撫でてくれた。
「……カジリガメ。」
「…………。」
しかし、今のソウブレイズにはもうカジリガメを撫でられる腕は存在しない。あるのは攻撃する為に特化した剣だけ。
「……………。」
少なからず、ソウブレイズは視線を向けてくれた。今は何を考えているのか、何を思って見詰めているのかは分からないが、少しでも反応してくれた事に嬉しくなったポケモンたちがソウブレイズに寄り添う。
「今日は……休みましょう。カルボウの事は明日にして、貴方も疲れたでしょ?もう寝なさい…。」
「……うん…。」
進化したのはもう変えられない。パートナーとしてカルボウを守ってあげられなかった事にナツハは自分を責めた。
翌日、
「カルボウ、おはよう。大丈夫?」
朝早くから朝食を作る為に起きて来た母がソファに腰掛けて動かないソウブレイズに話し掛ける。微動だにしないが、視線はこちらを捉えた。母はニッコリ笑い、キッチンへ向かう。そして、ナツハもいつもの時間より早く起きて来た。
「皆おはよう。良く眠れた?カルボウ、調子はどう?悪くない?」
1匹ずつ頭を撫でてから、ソウブレイズを見遣る。相変わらず微動だにしない。だが、昨日の夜よりかは緊張が解れている様に見えた。ナツハは優しくソウブレイズを抱き締め、「大丈夫だよ。」とだけ告げた。
「どうしたらいいかな…。」
「カメ…。」
それから昼になり、ソファに腰掛けたまま動かないソウブレイズを見詰めながらナツハとポケモンたちはため息を吐いた。今のところ、ソウブレイズは何も口にしていない。ポケモンフードもオヤツもナツハがソウブレイズの口元に持って行っても微動だにしない。ナツハたちはどうしたら食べてくれるだろうかと考えていた。
「………チュッ。」
「プルルゥ。」
すると、アップリューとタルップル、カジリガメが何やら話をし始めた。
「どうしたの?」
「チュチュ!!」
「ガメ!!ガメ!!」
何か閃いた様だ。アップリューがナツハの服の袖に噛み付いて引っ張り上げる。
「わわ!!服の袖を引っ張らないで!分かった!分かったから!!」
カジリガメとタルップルはソウブレイズを引っ張り、外へ出る。今日は晴天。アップリューが導く様にナツハたちの前を飛んで行く。
「もぉ…何処に行くの?」
ナツハは優しくソウブレイズの腕を引きながら、アップリューたちに着いて行った。
暫く歩いて辿り着いたのはだだっ広い草原だった。所々、リンゴの木が実っている。ここはナツハが幼い頃からポケモンたちと遊んでいた思い出の場所だ。
「……ここ。」
「………。」
「ガメ!!ガメ!!」
「プリュー!!」
そのままリンゴの木の下までやって来る。
前まではカルボウが良く木に登ってリンゴを採っていた。そして皆で分け合って食べていた。
アップリューが赤く実っているリンゴを1個ずつ丁寧に採って行き、皆に渡して行く。その時、初めてソウブレイズが腕を動かした。
「?!!!」
「プル!!」
腕が剣になっている為、掴む事は出来ないが、アップリューが持っているリンゴを見ている様だった。
「リンゴ?食べたいの??」
嬉しさのあまり酸欠になりかけるナツハだが、なんとか言葉を繋げてソウブレイズの様子を伺う。すると、ソウブレイズがナツハの方へ顔を向けた。そしてコクリと小さく頷いたのだ。ナツハやカジリガメたちは泣きそうになるのを堪えて両手で抱えたリンゴをソウブレイズの口元へ運ぶ。今まで何も口にして来なかったソウブレイズがリンゴへ口を近付けて、
シャリ…シャリ…
少しずつだが、ソウブレイズがリンゴを食べている。
「……ッ…!!!」
今度こそ耐えられなかったナツハが涙を流した。
「……ッ、よかっ、たぁ…!!!!」
「ガメェ〜!!!!!!」
「プルゥッ!!!!!」
緊張の糸が取れた様にカジリガメたちもソウブレイズに抱き着く。少なからず、ソウブレイズが驚いた様にも見えてナツハはもっと嬉しくなった。
もう二度と元に戻らないと思っていた。ナツハの前から居なくなってしまうのではないかと、とても怖かった。また一緒に遊べないのだと覚悟して、絶望していた。
「良かったッ…良かったよぉッ…!!!」
「……………?」
ソウブレイズが首を傾ける。感情が戻って来た様に。それが何よりも嬉しくて、ナツハは思いっきりソウブレイズに抱き着いた。
「……ほんとに良かった…。」
「ナツハ、貴方ほんとに言ってるの?!!!!!」
母はかなり驚いていた。それは出て行ったナツハが戻って来るなり、発言した事が原因だ。
「ポケモントレーナーになるってッ…!!!!貴方、アカデミーにも行ってないのに…。」
「大丈夫だよ、ママ。危険な事をする訳じゃないし、ポケモンバトルをしたい訳じゃない。ただ色んな所に行きたいの。ここ以外の遠い場所にも………それに。」
ナツハが後ろを見て微笑む。ナツハの後ろに控えていたソウブレイズが小さく頷いた。その瞳には先程には無かった光が実っている。
「ソウブレイズの心を癒してあげたい。この子がもう一度笑ってくれる様に。また皆で笑い合える様に。色んな景色を見てきたいの。」
ナツハは力強く笑った。
その瞳には堅い決意が実っている。
終わり