テラーノベル
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その後は問題なく進み、私たちは4階への階段があるスペースに辿り着いた。
すでにいくつかのパーティが野営をしているようで、1階のときよりも少し多いように感じる。
「それじゃ、今日はここまでにしますか。
まずは他のパーティの方に挨拶をしてきますね」
「アイナさんが行くならわたしも行きますね。
夕飯の準備に取り掛かれませんし」
「それでは、私とリーゼさんはテントの設営をしていましょう。リーゼさんも良いですか?」
「うん、大丈夫。ぱぱっと済ませちゃおう」
それぞれが役割を決めて、2日目の野営の準備が始まった。
「――こんばんわ」
「あ、アイナさん。無事にここまで来られましたか」
まずはバーナビーさんたちのパーティに声を掛ける。
「はい。最初に少し失敗しましたが、そのあとは無事に何とか」
「あ、あー……。どこで濡れるか分かりませんからね、このダンジョンは。
すぐに服を乾かしていたのは、とても良かったと思いますよ」
バーナビーさんは今朝のことを踏まえながら言った。
少し気まずい雰囲気も思い出したのか、しっかりフォローもしてくれる。
「そうだ! 昨晩ルークがいろいろと教えてもらったそうなので、そのお礼に夕食のお裾分けを持ってきても良いですか?」
「え、本当に!? それは嬉しいなぁ。
私たちは今回10階まで行く予定なんですけど、ほとんどが干し肉で……」
「うちのリーダーは、そこから30のレシピを持ってるけどね!」
私たちの話が聞こえていたようで、バーナビーさんのパーティの一人がそんなフォローをしてきた。
「えぇ、30もですか? 凄いじゃないですか」
「同じものばかりだと、みんな文句を言うんですよ……。
それなら自分で作れば良いのに……」
「あはは……。
ところで、10階まで行くんですね? それも凄い!」
「ふふふ。私たちはそんなに強くないですが、何回も来るうちに敵のパターンを見つけましてね。
このダンジョンに特化した戦いをしながら、何とか10階までは行けるようになったんです」
「なるほど。私たちは今回が初めてなので、5階までにする予定です」
「5階ですか……。
それなら6階も、少し覘いてみると良いですよ」
「何かあるんですか?」
「6階の最初に大きな滝があるんです。
それは見事なものですから、折角であれば見ておいた方が良いですよ」
「滝ですか。こんなダンジョンの中に……」
「ダンジョンは『神の贈り物』と言われることもあるほどですからね。
常識では考えられないことや場所も多いものです。いや、だからこそ面白いと言いますか――」
「リーダー! 準備の手が止まってるよ~!!」
「寝る2時間前には食事を済ませるぞ!」
「……そちらさんも準備があるでしょ……」
バーナビーさんの話が長くなりそうになった途端に、向こうのパーティの面々がツッコミを入れ始める。
「おっと、すまない! それじゃアイナさん、続きは後ほど!」
「あ、そうですね。お忙しいところ失礼しました」
私たちが少し離れると、バーナビーさんは手際の良い手付きで夕食の準備を再開した。
干し肉だけとは言うものの、大きな鞄から調味料のようなものを出して、色々とやっているようだ。
それに感心すると共に、アイテムボックスが無いと大変だなぁ……と、しみじみと感じてしまう。
「でも、何だか面白いパーティですよね。
バーナビーさんは大変そうですけど」
エミリアさんが、楽しそうにそんなことを言った。
確かに見ていて面白いし、結束力もありそうだ。そんなパーティを見ていると、何だか微笑ましくなってくる。
「そうですね。好きなことを、仲良くやるのが一番です。
……さて、バーナビーさんたちにお裾分けしないといけませんし、他のパーティにもぱぱっと挨拶を済ませてしまいましょう」
「はーい♪」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私たちの食事が終わる頃、バーナビーさんのパーティの面々がやって来た。
「アイナさん、みなさん、こんばんわ」
「こんばんわ。あれ、どうかしたんですか?」
「お裾分けありがとうございました。お皿を返しにきたのと、そのお礼にきたんです。
めちゃくちゃ美味しかったですよ!」
「ああ、わざわざすいません。そうだ、ついでに紹介しちゃいますね。
改めまして、私はアイナです。うちのメンバーはこちらからエミリアさん、ルーク、リーゼさんです」
「ではこちらの紹介もさせてもらいますね。
私がバーナビーで、あとはモニカちゃん、ビリー、メイジー殿」
うちもそうだけど、敬称でどんな関係か分かるのが面白いよね。
仕事の場合は敬称を付けないのが基本だけど、ここは仕事の場では無いわけだし。
「よろしくお願いしますね!」
「アイナちゃん、お料理美味しかったから今度一緒にここ潜ろっ」
早速、モニカさんがぐいぐいときた。
この圧力、どこかテレーゼさんを連想させる。
「モニカ……距離を詰めるの早すぎ……」
それにツッコむメイジー殿さん。
確かにこの落ち着きっぷり、バーナビーさんが敬称で『殿』を付けるのも頷ける。
私は敢えてメイジー殿さんと呼ばせて頂こう。もちろん頭の中だけにするけど。
ちなみにもう一人のビリーさんは、リーゼさんに話し掛けていた。
バーナビーさんはルークと話し始めていたから、私とエミリアさんはこの二人と雑談することにしよう。
「ところでエミリアちゃんは、司祭様なんだよね? 可愛い♪」
「あはは、ありがとうございます。モニカさんは……えぇっと?」
「私は盗まない盗賊だよ! 一通りのスキルは持ってるけど、人様のものには手を出さない良い子ちゃん★」
「その代わり、ダンジョンに入り浸ってる……」
盗賊っていう職業もゲームなんかではよく聞くけど……でも、結局は犯罪者なんだよね?
モニカさんの場合はあれかな?
錠前破りをできる鍵の専門家とか、クラッキングの知識を持ったホワイトハッカーみたいなものかな?
技術なんて、使う人の気持ち次第でどうにでもなっちゃうからね。私の錬金術も含めて、だけど。
「盗賊のスキルっていうと、やっぱり罠を見つけたり鍵を開けたりする感じなんですか?」
「そそそ。こういうダンジョン探索には私みたいのがいないとね!
ところでアイナちゃんたちは、宝箱の罠はどうしてるの?」
「私が鑑定で罠を見破って、それでどうにかして開けてる感じです」
「ええ、それはそれで凄いね!?
でも『開けたら中身ごと爆発する罠』みたいなやつもあるから、どうしようもない宝箱も出てきそう」
「そういうのもあるんですか。『水爆弾』という罠なら、今日ありましたけど……」
「ああ、あれは水飛沫が凄いよね。それはどうやって開けたの?」
「ルークが服を抜いでから開けました。他の三人は濡れないように隠れてましたね」
「あはは、なるほど!
そういうダンジョン探索も面白そうだねぇ」
「でも……モニカは途中でキレそう……」
「そうかも!」
そう言いながら、モニカさんは明るく笑い飛ばした。
少し賑やかすぎる感じもするけど、こういう明るい人がいるとパーティも華やぐよね。
何か大きな問題があったとき、ムードメーカーみたいな人が支えてくれる場合も多いだろうし……。
逆に、うちのパーティはみんな良い子ちゃんだから、いざというときには少し脆いかもしれない……?
みんな抱え込み過ぎるというか……って、そういう私もきっとそうなんだろうけど。
やっぱり過酷な冒険を続けるには戦闘の強さだけじゃなくて、心の強さも考えないといけないのかな。
……そんなことをぼんやりと、バーナビーさんのパーティを見ながら考えてしまうのだった。