数十体のカース・スケルトンたちがこちらへと一斉に襲い掛かってくる。
数体程度なら大したことはないのだがこの数は少し厄介である。
「フォースフルブリーズ!」
俺は3体だけ残してそれ以外の骸骨たちを強風で吹き飛ばす。
この魔法は攻撃力は全くないが対象を後退させるのにとても役立つのだ。
「さて、行くぞ!」
俺は手前に取り残された3体のスケルトンを一瞬で撃破する。
先ほど復活して強化した個体も含めて3体分の骨が辺りに散らばる。
それを見ていたジェラが勝ち誇った表情を浮かべながらこちらへと語りかける。
「だから言っているでしょう。スケルトンたちは倒しても何度でも復活し、さらに強くなっていくのですよ!たとえ個別に倒していったところでそれは変わりませんよ」
ああ、もちろんそんなことは分かっている。奴にとって今の俺は無駄なことをしている愚かな奴にでも見えているのだろう。まあ今はそう思っておいてもらった方が好都合だ。
そんなことを言っているうちにも先ほど撃破した個体たちが強化されて復活してきている。
ではこれを繰り返していくとしようか。
……..
….
…
..
.
「本当に愚かなことだ。まあ正直、ここまで耐えていることは称賛に値すると褒めてあげましょうか。何を考えているかは分かりませんが、もうあなたに待っているのは強化されたこのスケルトンたちに蹂躙されて惨めにも死んでいく未来だけですよ」
目の前のスケルトンを撃破しては復活し、さらに強化されたスケルトンたちをまた撃破していく。その繰り返しがこの短い時間の間に何度も行われている。今では召喚されたばかりの頃とは比較にならないほどのステータスにまで強化されたカース・スケルトンを相手にしている。
しかしそれでも俺には余裕がある。
それにもうちょっとなのだ、俺の考えが正しければもうすぐで…
「はああああぁぁぁぁ!!!」
俺はもう何度目か分からないが目の前のスケルトンたちを倒す。
そうして後方へと押しやっていたスケルトンたちに向かって魔法で再度押し返す。
《経験値が一定を超えました。レベルが上がりました》
ついに俺の予想が正解だったと証明された瞬間だった。
思わず俺は口角が上へと上がる。
「ふん、とうとう本当に頭が変になったようですね。自身の死が近づいて全てがおかしくなりましたか?」
まだ俺の目的に気づいていないジェラは哀れみの目でこちらを見つめる。
さて、どちらが憐れなのか時機に分かるだろう。
そう、俺は奴の召喚したカース・スケルトンたちでレベリングが出来るのではないかと考えたのだ。しかしすべてのスケルトンを相手して強化されていってしまうと万が一にもセラピィやお嬢様を危険にさらしてしまうために倒す個体を絞っていたのだ。
それに加えて鑑定した時にスケルトンたちは特にスキルを持っておらず、従属状態であると表記されていたことからこいつらが有している不死じみた能力は術者由来であると考えた。その証拠にジェラのステータスを見てみたところほんの少しずつではあったが魔力が減っていっていたのである。
スケルトンたちを従わせるために常に魔力を消費しているということはこいつらの復活には限度があるということだ。それにスケルトンが強くなれば強くなるほどそれを従属させるために必要な魔力量もまた増えていくだろう。その代わり、俺が強くなった個体を倒した時に得られる経験値量は増えていくという訳だ。
つまりはこの先、俺が今のこのLv.70以上にまで強化されたカース・スケルトンたちを倒せば倒すほど俺はレベルがどんどん上げっていくがジェラは多くの魔力が消費されていつか底を尽くということになるだろう。
まあ、こんな戦法を取れるのは俺みたいにバカみたいな高ステータスの奴ぐらいだろう。もしこいつらの相手がマリアさんだったなら、ジェラの魔力切れが起こるまで倒し続けるなんてことは到底出来なかっただろう。今回ばかりは相手が悪かったな。
《経験値が一定を超えました。レベルが上がりました》
《経験値が一定を超えました。レベルが上がりました》
《経験値が一定を超えました。レベルが…
《経験値が一定を超えま…
《経験値が…
《…
「くっ、一体どうなっている…?!なぜこれほどまでに強化されたカース・スケルトンを相手に戦えているのですか!!!」
カース・スケルトンのレベルが100を超えたあたりでついにジェラが声を荒げ始めた。先ほどまであれほど余裕に満ち溢れていたのがまるで夢だったかのように今では焦りと困惑で顔をゆがませている。
「こうなれば…我が骸たちよ!!!全力をもって目の前の男を殺せ!!!!!!」
ジェラの命令と共にすべてのカース・スケルトンに大量の魔力が流れ込んだ。スケルトンたちのステータスを確認すると超強化された個体だけではなくその取り巻きたちもステータスが大幅に上昇していた。
俺はジェラのステータスを確認して状況を把握する。
なるほど、自身の残りの魔力をほとんどスケルトンたちの強化へと使ったようだ。
「…そろそろ潮時だな」
最後の力によって強化、いや奴らの様子から察するに『狂化』された23体ものカース・スケルトンたちが一斉にこちらへと突撃してきた。数もそうだがスピードも攻撃力も今までとは比較にならない強さになっていた。
そこで俺は自身に身体強化魔法を施してステータスを大幅に底上げすることにした。大量レベルアップによって大幅に上昇したステータスに加えて、身体強化魔法による上昇分も加わって俺のステータスは狂化カース・スケルトンたちをも大幅に上回っていた。
そして奴らがこちらへと辿り着くまでの刹那の間に俺は全てのカース・スケルトンを撃破する。
倒されたスケルトンたちは復活しようと辺りに散らばった骨たちが動き始めたが途中で力を失ったかのように元の形に戻ることなく地面に骨が散らばっていった。もう今のジェラにはカース・スケルトンたちを留めておくだけの魔力が残っていなかったのだ。
「ど、どうしてだ…!私が、この私が負けるなど….決してありえない!!!」
「いや、お前の負けだよ。魔力が尽きた今、お前に出来ることは何もない」
ステータスを見ても分かるがジェラは完全に魔法戦闘に特化している。
そんな奴が魔力なしで何かできるかと言われれば、火を見るよりも明らかだろう。
「くっ、貴様だけは…貴様だけは絶対に許さんぞ!!!我が命に代えても我々とマモン様の邪魔となる者は生かしておくものか!!!!!!」
そう叫ぶとジェラは懐から怪しげな魔力のこもった飴玉ほどの紫色の魔力水晶を取り出した。するとその禍々しい黒い靄を発している魔力水晶を躊躇なく呑み込んだ、
「ふっふっふ、この手段は使いたくなかったが仕方がない。マモン様!どうかこの私にこの邪魔者を排除できる力をお貸しください!!!!!」
まさか、あれはもしかしてマモンの魔力の一部か?!
だがしかしマモンの魔力は特殊で普通では制御できないのではなかったのか…?!
いや、そうか。奴は制御する気がないんだ。
しかし暴走した魔力は一体どうなるんだ…?
俺はすぐさま常識提供に魔力暴走の結果を尋ねる。
《制御を失った膨大な魔力は強大なエネルギーが行き場を失い、周囲を巻き込んだ大爆発を引き起こします》
ちっ、俺の想像通りか。
奴はわざと魔力を暴走させて自らの命と引き換えに俺を始末するつもりのようだ。
「そうはさせるか!!!」
俺はすぐさま奴の息の根を止めるために走り出す。
魔力水晶の魔力を奴が全て吸収する前に殺せば暴走は起らないはずだ。
「邪魔をするな!!!!!!」
するとジェラは残りカスの魔力を使って魔力弾を放ってきた。今の俺に直撃しても特に足止めにもならないほどの魔法であったが、俺はその魔法を無視することが出来なかった。
「くそっ!!!」
その魔法は俺に対して向けられたのではなく後ろにいるセラピィとセレナ様に対して向けられていたのだ。セラピィが防御魔法を展開しているが奴の放った魔力弾は貫通性能に特化していたため、直撃すれば少なからずダメージを負ってしまうだろう。
すぐさま俺はジェラに向けていた足を止め、反対方向へと走り出す。
一瞬にして魔力弾を追い越してセラピィたちと魔力弾の間に割り込んだ。
魔法を展開している余裕がなかったため俺は魔力弾を生身で直接受け止める。
もちろん俺自身にダメージなど全くなかった。
すぐに振り返って後ろの二人を確認したが、どうやら無事のようだ。
二人とも心配そうな顔をしていたので俺は笑顔で一言だけ伝えた。
「大丈夫」
そう二人に告げ、俺は全力で防御魔法を展開する準備をする。奴が魔力水晶の魔力を完全に吸収し終える前に息の根を止めれるかが不確定である以上、俺は二人の安全を第一にしなければいけない。これが俺の役目だからだ。
俺は持ちうる知識を総動員して魔力暴走による大爆発に耐えられる防御を構築しようとする。
するとふとその時、俺はあることに気づく。
そして構築しようとしていた魔法を中断させた。
「…後は頼みました」
次の瞬間、魔力暴走しかけていたジェラの胸から一筋の刃が突き出した。
その刃は確実に奴の心臓を捉えており、大量の鮮血が噴出した。
「な…こ、こんなところで….おわ、る…わけに…は….」
急所を確実に捉えられたジェラはその場に倒れ込んだ。
幸いにも魔力を完全に吸収し終える前に命を落としたようだ。
「ユウト様、遅れて申し訳ありません」
「ナイスタイミングです、マリアさん」
ジェラの背後にはボロボロのメイド服を着たマリアさんが佇んでいた。
本当に最高のタイミングで来てくれたものだ。
これでようやく終わりか~!
思った以上に大変な夜になったものだ。
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