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qn×or
あいつさえ居なければ。
ちょっと長め、
⚠自傷有
教室に、新しい風が吹いた。
それは、春の終わり。教壇の前に立つその“転校生”は、まるでテレビドラマの主人公みたいだった。
「はじめまして、おらふっていいます! よろしくお願いします!」
屈託のない笑顔。明るい声。誰もが自然と「わあ…」と漏らしてしまうほどの存在感。
その瞬間、クラスの空気が――変わった。
おんりーは窓側のいちばん後ろ。教室の“死角”に座っていた。
いつも通り、静かにノートを開き、時間が過ぎるのを待っていた。誰とも喋らない。誰からも話しかけられない。それが「日常」だったし、それでよかった。
けれど、その日だけは違った。
「おんりーくん! よろしくね!」
あの子が、声をかけてきたのだ。
不意に、強く心臓が鳴った。驚きではない。もっと重くて、苦しい何か。喉の奥に、鉛みたいな塊が落ちた。
「……ああ」
曖昧に返すと、おらふくんはにっこり笑って、今度は前の席の女子に話しかけ始めた。
それだけのやりとりだった。
なのに、おんりーの胸の奥で、小さな何かが「ひび割れた」ような感覚が残った。
その日の昼休み、教室がざわついていた。
「おらふくん、めっちゃいい人じゃない?」
「うん、話しやすいし、なんか明るくて安心する~」
女子も男子も、おらふくんの話ばかり。
(どうせいつもみたいに、すぐ飽きられる)
おんりーはそう思いながら、誰もいない廊下を歩いて、図書室へ向かった。
――けれど、そこにも、あの子はいた。
「おんりーくんも、本読むの?」
にっこりと、あの“笑顔”が向けられる。
その時、なぜか分からないが、手にしていた本が、ずっしりと重く感じた。
最初の一週間、クラスは浮かれていた。
「明るい転校生」というのは、いつの時代も歓迎される。
けれど今回は少し違った。おらふくんは、ただ明るいだけじゃない。
誰とでも話す。空気を読むのが異様に上手い。
先生にも物怖じせず、時には冗談を飛ばして笑いをとる。
いつの間にか、「中心」にいるのが当たり前になっていた。
そして――なぜか、おんりーの“居場所”だったはずの場所に、彼が先回りするようになった。
「え? 図書室、好きなんだー。静かでいいよね」
おんりーが黙って本を棚に戻そうとした時、隣にいたおらふくんが話しかけてきた。
彼は「偶然来た」ふうに言うが、毎日時間も場所も、ピンポイントで鉢合わせる。
「……偶然だよな?」
そんな言葉が喉まで出かけて、飲み込んだ。
それが悪意なのか、ただの社交性なのか。
判断がつかない。
けれど、ふとした瞬間、おんりーは感じていた。
――息が、詰まる。
日曜。
おんりーは一人で書店へ出かけた。静かに並ぶ文庫本の棚。人混みの雑音も、気にならない。
その時だった。
「……あれ? おんりーくん?」
振り返ると、いた。
おらふくんが、笑っていた。
「まじで偶然だねー!誰かに会うなんて思ってなかった! ここ、僕もよく来るんだよ!」
おんりーは言葉を失った。
胸の奥で、重くて黒いものが、じわりと広がる。
「また……お前か」
でも、口には出せない。出したら、全部が壊れそうで。
代わりに、小さく笑った。
笑った“ふり”をした。
その夜、独り呟いた。
偶然なんて、そんなに何度も続かない。
でも、誰に言えばいい?
言ったところで、信じてもらえるわけがない。
はじまりは、些細なことだった。
プリントが机に配られていなかった。
誰かが配り忘れたのか、それとも最初から“なかった”のか。
教科書が廊下に落ちていた。
理由はわからない。でも、誰に見せても「うっかりなんじゃない?」の一言で終わった。
気づけば、おんりーは「浮いていた」。
いつもと変わらない日々のはずなのに、周囲の会話のテンポが変わった。
教室で目が合うと、すっと逸らされる。
話しかけようとすれば、「あ、ごめん」と言って誰かが立ち上がる。
机の上に、謎の消しカスの山。引き出しの中には――なぜか、ゴミが詰められていた。
誰がやっているのか、証拠はない。
でも、それが“偶然”じゃないことだけは、肌でわかった。
そして昼休み、教室へ戻る途中で、なんとなく胸騒ぎがした。
嫌な予感がして、靴箱に駆け寄ると――
おんりーの上履きがなかった。
代わりに入っていたのは、くしゃくしゃになった紙切れだった。
震える手で広げると、そこには――
「いらない子。しね。」
筆跡は、潰れていて読み取れなかった。
その瞬間、頭の奥がじんじんと痺れた。
言葉が、出なかった。世界が遠のくように、音がぼやけていく。
「――あれ? どうしたの?」
声がした。
振り返ると、そこにいた。
笑顔で、おらふくんが立っていた。
彼は足元を見て、そして、おんりーの手元の紙に目を留める。
その目が、細くなった。
おんりーは動けなかった。
「……なにこれ。ひどいじゃん」
頭では“隠さなきゃ”と思った。けれど体は動かず、紙を落としたまま立ち尽くしていた。
「ね、先生に言おっか。僕、見てたから。証人になるよ」
おらふくんは、やさしい声でそう言った。
……やさしい声で。
その瞬間、おんりーの背中を、氷のような寒気が走った。
違う。
違う、ちがう、ちがう。
これは“やさしさ”なんかじゃない。
(お前は……最初から、見てたんだろ?)
口に出せなかった。
言ったら、終わる。自分が壊れる。
「……いい」
おんりーは震える声で、それだけ言った。
「大丈夫。慣れてるから」
おらふくんは、目を見開いて、そして――また、笑った。
「そっか。……でも、我慢しすぎないでね?」
その笑顔が、優しくて優しくて、気持ち悪かった。
おんりーは、心の中で呟いた。
「……あいつさえ、居なければ」
最近、ノートの文字がうまく書けない。
字が震える。まとまらない。
先生の話も頭に入らない。
目の前の風景が、まるでテレビの砂嵐みたいに、かすれて見えることがある。
僕の変化には誰も気づきやしない。
気づいても、気づかないフリをする。
それがこの教室でのルール。
その日もまた、プリントがなくなっていた。
机の中に入れておいた英語の課題も、見当たらなかった。
誰かが持っていった? 捨てられた?
分からない。
ただ、クスクスと笑う声が、後ろから聞こえた気がした。
放課後。
金工室には、誰もいなかった。
おんりーはカバンを机に置いたまま、じっと机の上の彫刻刀を見つめていた。
気がつくと、ゆっくりと人差し指の腹に押し当てていた。
ほんの少し、力を入れる。
たったそれだけで、指にうっすらと線が入る。
(……これくらいなら、誰にもバレない)
もう一度、ぐっと押しつける。
今度は少しだけ、痛みがあった。
でも、それは“安心”に近かった。
(全部……俺のせいなのか?)
鏡の前に立って、自分の顔を見つめた。
目の奥が、虚ろだった。
自分の顔なのに、どこか“自分じゃない”ような気がして、そっと目を逸らした。
その瞬間、心の奥からまた、あの声がした。
「――あいつ、さえ、居なければ」
雨が降っていた。
窓を叩く雨粒が、リズムを刻むように響く。
その音が心地いいのか、不快なのか――おんりーにはもうわからなかった。
今日も誰にも話しかけられず、笑い声の輪には入れず、ただ、時間が流れていくのを耐える。
それが日常だった。
昼休み。トイレの鏡をふと見ると、自分の目の下にクマができていた。
細くなった顔。カサついた唇。
「誰だこいつ」って思った。
そんな時だった。
放課後。プリントを職員室に届けるよう頼まれたおんりーは、誰もいない廊下を歩いていた。
ふと、階段下の物陰から声がした。
「……ねえ、それ、やりすぎじゃない?」
声の主は、おらふくんだった。
足が止まった。
「だってさ、ほら、あの子さえ黙ってれば大丈夫でしょ?」
もうひとつ、知らない女子の声。
軽く笑う声も混じっていた。
「それに、おらふくんが話しかけるから、私らが嫌な気持ちになってたわけだし」
「そうそう。“正義マン”って感じ。ちょっとウケるよね」
心臓が、一瞬止まった気がした。
「まあ……いいんじゃない? 僕はさ、見てるだけだし」
その言葉が、トドメだった。
“見てるだけ”。
その無害な言葉に、すべての毒が詰まっていた。
足が震える。手が冷える。呼吸が浅くなる。
おらふくんは、知ってた。
全部、知ってて――笑ってた。
その日の夜、ノートには、黒いシャーペンの跡がページを埋め尽くしていた。
言葉じゃなかった。
ただ、線。ぐちゃぐちゃの、線。
でも、その中に一言だけ、残されていた。
「あいつは知ってた。」
なんで助けてくれない。
悔しくて、悲しくて。
その日だけは腕を切った。
はい…
長くてすみません🙇!
いじめってまじでしんどいよ()
後ほど意味がわかってくると思うので…
では!おつら!✌!
コメント
1件
いじめはね、やっぱりね....うん、ダメだよね((語彙力 おんりーチャン(´;Д;`)