前回のあらすじ。俺は、毎月十五日に『心の暴走』状態になるという、モンスターチルドレン(十人)を救うために、一人ずつではあるが俺にしてほしいことを叶(かな)えてやっている。
今のところ、三人を攻略……というか、元に戻してやった。
今は午後十時。朝の三時までに、あと七人を元の状態に戻さなければならないから、一人あたり一時間以内に終わらせなければならない。
さあてと、睡魔《すいま》が襲《おそ》ってくる前に終わらせるとするか!
俺は寝室で眠《ねむ》っていたツキネ(変身型スライム)をおんぶでお茶の間に連れてくると、ツキネが仰向《あおむ》けになるように床にそっと置いた。
「おい、ツキネ。次はお前の番だぞ、起きろ」
「……う、うーん……。兄……さん? あれ? 私どうしてこんなところに。さっきまで寝室で寝《ね》ていたはずなのに……」
「それはな、お前を含《ふく》めた七人分の『心の暴走』をなんとかしないと、俺は一睡《いっすい》もできないからだ」
「なるほど、そういうことでしたか。つまり、今は兄さんとイチャイチャしても大丈夫ってことですね?」
「ん? ま、まあ、そうだな。それで? お前は俺に何をしてほしいんだ? 耳かきか? それともハグか?」
「ハグですー。私は今、猛烈に兄さんとハグしたいですー。ほーら、兄さん。早くこっちにおいでー」
ツキネが両手を広げると、彼は彼女を膝の上に乗せた方がより密着できると思った。
数秒後、彼はそれを実行に移した。
「はぁ……俺は赤ん坊かよ、まったく。じゃあ、俺の膝《ひざ》の上に乗せるぞ……っと。えーっと、これでいいか?」
「わーい! 兄さんの顔が目の前にあるー。でもー、私がかわいいからって、あんまりジロジロ見ないでくださいね?」
「はぁ? そ、そんなことするわけないだろ?」
「えー、そうなんですかー? 兄さんは、私のこと嫌《きら》いなんですかー?」
「いや、別にそんなことは……ない……ぞ」
「えー、本当ですかー?」
「あ、ああ、本当だ」
「あっ、今、一瞬|躊躇《ためら》いましたね?」
「い、いや、決してそんなことは……」
「ほら、やっぱり。もしかして、照れてるんですかー?」
「そ、そんなわけあるか! というか、お前まだ寝《ね》ぼけてるだろ?」
「いえ、全て演技です」
「は?」
「あははははは! 兄さんってば、鳩《はと》が豆鉄砲をくらったような顔してますー」
「え? あー、そういうことか。今までのは全部、演技だったのか」
「はい、そうですよー。ムギュー!」
「こ、こら! いきなり抱《だ》きつくなって!」
「ふふふ……兄さんは照れ屋さんですねー」
「う、うるさい」
「どうですか? 私の体。いつもの人間の肌《はだ》とは違いますけど」
「どうって……お前は変身型スライムなんだろ? 全身水色の幼女に変身する必要あるのか?」
「……何言ってるんですか? これが、私の真の姿ですよ?」
「えっ? じゃあ風呂場で見た、ブヨンブヨンとした『ド○クエ』風のスライムは、なんだったんだ?」
「あれは、私の第三形態です」
「じゃあ、第一と第二は?」
「第一形態は『ウズラの卵』ぐらいの大きさで、第二形態は『野球ボール』ぐらいの大きさです」
「じゃあ、今は第何形態だ?」
「第四形態です」
「じゃあ、なんでいつも『橋本 かな子』さんの姿に変身しているんだ?」
彼女は、このアパートの管理人。しかし、それ以外は何も分からない。ただし、家賃《やちん》はちゃんと取りに来る。
「私が兄さんの世界に行った時、初めて出会った人が彼女だったからです」
「そうだったのか。えっと、じゃあ、かな子さんの姿になってる時は、第何形態だ?」
「え? あー、えーっと、他人に変身している時は、そういう名称では呼ばれません」
「へえー、そうなのか」
「はい、そうです。あっ、ちなみにそのことを知っているのは今のところ兄さんだけです。だから……その……せ、責任とってくださいね?」
「そう……だな。じゃあ、お前の願いを叶《かな》えてやるよ。何か俺にしてほしいことはないか?」
「兄さんにしてほしいことですか?」
「ああ、そうだ。性行為とキス以外なら、なんでもありだ」
「そう……ですか。じ、じゃあ……私をもっと抱《だ》きしめてください」
「ん? そんなのでいいのか?」
「はい、お願いします」
「そうか。じゃあ、行くぞ」
俺は、ツキネ(変身型スライム)をギュッ! と抱《だ》きしめた。すると。
「えへへ、兄さーん」
ツキネはそう言いながら、俺の胸に頭を擦《こす》り付けてきた。
「そんなにいいのか? これ」
「あー、なんだかクセになっちゃいますー♪」
「……まるで聞いちゃいねえ」
「えへへへへー、すりすりー」
「まったく、ツキネはいつからこんなに甘えん坊になったんだろうな……よーしよし、ツキネはかわいいなー」
「えへへー、もっと頭を撫《な》でてくださーい」
「はいはい、分かったよ」
「んふふー。兄さーん、だーいすきー」
おい、誰か! どうしてツキネがこうなったのか俺に教えてくれー!
俺は心の中でそう叫《さけ》んだが、結局ツキネ(変身型スライム)が満足して眠《ねむ》るまで頭を撫で続ける羽目になった。
____ツキネ(変身型スライム)が眠《ねむ》りにつくと俺は寝室までツキネを運んだ。
その時、ふと、ツキネの目の色って変わってたっけ? と思った。
説明しよう。『心の暴走』状態の時のモンスターチルドレンの瞳(ひとみ)は、赤、青、緑、黄、黒が五分割された色に変わるのだ!
しかし、ツキネの満足そうな寝顔を見ていると、そんなことは、どうでもよくなってきた。
俺がツキネの頭を優しく撫《な》でると、ツキネ(変身型スライム)は「えへへ、兄さーん」などと寝言《ねごと》を言いながら、気持ちよさそうに寝息を立てていた。
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