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スキルは、十五歳の誕生日に発現する。この国では、それが人生を決める。
剣聖、炎帝、雷神――
S級スキルを得た者は、その瞬間から英雄候補だ。
逆に、E級や用途不明のスキルを得た者は、戦いの舞台から降りる。
俺のスキルは、《保存》。
発現の瞬間、周囲は静まり返った。
「……保存? 何を?」
教官が端末を操作しながら眉をひそめる。
「対象の“状態”を保存可能。詳細不明。攻撃性能なし。強化補正なし。」
ざわめきが起きる。
「外れだな。」
「倉庫番向きか?」
「戦闘は無理だろ。」
俺は小さく息を吐いた。
(なるほど。そういう扱いか。)
別に構わない。
目立たないのは、むしろ好都合だ。
◆
数か月後。
俺はC級ハンターとして登録された。
評価は最低限。戦闘記録も平凡。
今日も都市外縁に発生した小規模ゲートの処理任務。
同行は三人。
炎系スキル持ち、身体強化型、風操作。
典型的なバランス編成だ。
「お前は後方支援な。」
炎の男が言う。
「了解。」
ゲート内部は薄暗く、湿った空気が肌にまとわりつく。
最初の魔物はすぐに現れた。
狼型、二体。
炎が焼き、風が切り裂き、身体強化がとどめを刺す。
俺は何もしない。
ただ、視る。
(なるほど。出力はこの程度か。)
炎の軌道。
踏み込みの癖。
魔物の反応速度。
全部、記憶する。
いや――
保存する。
俺のスキル《保存》は、“物”をしまう能力じゃない。
状態を、そのまま固定する。
たとえば今。
炎の男が放った、最大出力の一撃。
その瞬間を、俺は保存した。
彼は気づかない。
何も失っていないからだ。
ただ、“あの瞬間の炎”が、俺の中に残った。
◆
最奥部。
想定外が待っていた。
B級クラスの個体。
黒い甲殻を持つ人型魔物。
「は? 情報と違うぞ!」
炎が弾かれる。
風が散る。
身体強化型が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
肋骨が折れる音がする。
魔物が跳んだ。
炎の男に迫る。
(死ぬな。)
俺は一歩踏み出す。
保存――解除。
次の瞬間。
空間が歪んだ。
炎の男が放った“最大出力の炎”が、魔物の至近距離で再現される。
轟音。
黒い甲殻が砕ける。
だが、倒れない。
魔物がこちらを向いた。
初めて、俺を見る。
(ああ、バレたな。)
魔物が腕を振り下ろす。
速い。
避けない。
俺は数日前に保存しておいた。
“無傷の自分”。
衝撃が体を貫く直前。
保存――解除。
世界が一瞬巻き戻る。
俺は一歩後ろに立っている。
魔物の腕は空を切る。
「な……?」
炎の男が呆然とする。
俺は静かに、もう一つ解除する。
さっき保存した、“魔物の踏み込み”。
その瞬間の加速。
それを、自分に上書きする。
地面が爆ぜた。
俺の身体が、魔物の懐に入り込む。
最後に解除するのは――
“身体強化型が叩き込んだ、全力の拳”。
俺の拳に、その状態を保存。
そして放つ。
黒い甲殻が内側から砕けた。
魔物は崩れ落ちる。
沈黙。
炎の男が震えた声で言う。
「……今、何をした?」
俺は首を傾げる。
「運が良かっただけだ。」
嘘ではない。
俺のスキルは、派手じゃない。
強化でも、創造でもない。
ただ、“最高の瞬間”を溜めて、好きな時に使うだけ。
◆
帰還後。
報告書にはこう書かれた。
『不明な要因によりB級個体撃破』
俺の評価は、変わらない。
C級のまま。
それでいい。
夜。
屋上で一人、空を見上げる。
今日、保存したものを思い返す。
炎の頂点。
怪物の加速。
自分の無傷状態。
そして――
魔物が最後に見せた、わずかな恐怖。
(これも、使えるな。)
足音がした。
振り向くと、黒スーツの男が立っている。
「君のスキル、“保存”だったね。」
笑っていない目。
「S級の観測網に、少しだけ引っかかった。」
面倒だな、と俺は思う。
目立たないはずだったのに。
男は続ける。
「我々は“表のS級”とは別に、“裏”を集めている。」
風が吹く。
「興味はあるか?」
俺は少し考えるふりをして、答えた。
「……裏の実力者、ってやつですか?」
男の口元がわずかに上がる。
「そうとも言う。」
悪くない。
どうせなら、徹底的にやるか。
表では凡人。
裏では、最高の瞬間を操る影。
俺は静かに笑った。
「条件次第で。」
その夜。
都市のどこかで、新たなゲートが脈打った。
まだ誰も知らない。
“外れスキル”が、
世界のルールを書き換え始めていることを。