side Daisu Arisugawa
その星でいちばん大きいのは余の国だった。
だからこそ取り締まるのは余の国の母だ。そこで争いが起きあの星はおぞましいことになった。
再建の日を夢見るが、仲間たちも母も。
……もし母が生きていて逃げているだけなら?なんてバカげてる。考えるだけ無駄だ。
目の前にいる幻太郎は不思議そうな顔をする。
その瞳は怒りではなかった。
兄を実験台にされ殺された幻太郎の瞳は怒りでは無い、悲しみもあるのだろうが「不思議」という3文字だ。
『怒らないのか……?』
『お前に怒って復讐してどうする』
呆れた、と言わんばかりにため息を疲れるがこちらは反論した。
『でも余は王だ』
『元……な?』
確かにそう言われればなんとも言えない。
『なぜ、不思議そうな顔をするのだ?』
『いや……なんで争いなんて、と改めて思っただけだ』
いつか聞かれる日が来るとは思ってた。だがこんなに早く来るなんて思ってもいなかった。
「仲間だろ?」と誰かに囁かれたような気がした。
『余の母偽善な感情で幸せと言える世界を作ろうとした』
『猛毒は?』
『きっと、余が反対すると分かっていたんだろう』
なんで周りまで巻き込んだんですか、母様。心の奥深くでそうやって問う。
返事は返ってくるわけがなかった。
でも、「あなたを大切にしているから」なんて言い訳を言うのだろうか?と予想だけはできた。
想像するだけで反吐が出る。ここまでしておいて大切だなんて馬鹿げてる。
『幻太郎の兄まで巻き込んですまない』
『掘り返しても意味が無いだろ?その時には戻れない、もう過ぎ去ったことなんだ』
今度はこちらが泣きそうだ。
正論が目の前で連なっていく。
『よくそんな言葉を知っているな』
『俺の兄が本を書いていたからな、ずっと読んでた』
にこりと微笑む幻太郎の表情は心からの笑顔で人の心を温めた。
花が飛ぶように無邪気な笑顔がとても美しかった。
『えーと、帝統……でいいよな?』
『ああ、構わない』
そうやって次はこちらが笑顔を向けた。
そこからのことはきっと簡単だ。
船の燃料、どこの星へ向かうか、そうやって互いの願望を叶えようとする。
幻太郎は退屈を殺すため。
余はあの星を再建するため。
方向性が違えどそれはれっきとした2人の願望だった。
最初は誰だって他人、そんな中これから先2人で道を歩むことによって仲間と呼ぶようになる。
人間はそうやっていつも生きてきたのであろう。
警戒していたものがいつしか仲間となる。
不思議でしょうがない時があった。とんだ手のひら返しだと幼き頃は思っていたからだ。
警戒し、もしかしたら相手を傷付けかもしれない、そんな過去が一緒に未来へと歩んでゆくうちに友へとなるなど、虫が良すぎでは無いかと、そう心では思っていた。
話を聞き目の前で泣かれ、復讐したい相手は自分。
そんな怖いことは無いはずなのに、きっと誰しも離れた方がいいと思うだろうに、そんな中でもこうやって仲間だからな、なんて言えてしまえた。
言ってしまった。
もしこの絆という糸が切れたとき、その時はきっとどちらとも目的など達成できないだろう。
人は隣に誰かがいなければ生きては行けない。
それを余たちが示している。
空想上の話なんてなんの意味もないだろう。
だってもしああだったらとか、こーだったらとか、変えられない過去と見えない未来を変えたり見ようとしたりなんてこと、きっと時間の無駄なんだろう。頭では理解していた。
でも架空の人物を信じているこの世界の奴らはきっと時間の無駄なんて思っていないのだろう。
神なんて存在するのか分からない。
きっと誰かが勝手に造って勝手にそれを信じている。
あーすればこの神は願いを叶えてくれる、とかこーすればこの神はお怒りになる、とか。
でもそれはきっとその人のせいにしたいだけなんだと大人になって理解した。責任をその者に負わせたいだけなんだと。
だけども勝手にそれを押し付けてくるやつだっていた。
それが宗教だろう。
その神を信じていれば救われる。なんて戯言だろう。
確かに仏教も宗教の一種、全てが全て悪い訳では無い。
そんな分からない、空想上の世界に余は賭けているんだ。この命を。
『考え事か?』
黙り込んでいた余を気にかけてくれたのだろう。
幻太郎がそっと話しかけてきた。
『ああ、少しな』
『帝統の夢は?』
『あの星の再建……なんて正直バカげているがな』
『明るいことを考えるのはいいことだ』
一言ずつ慰めるかのように、励ますかのような言葉が選ばれ連なっていく。
『暗いことを考えて動かないより、明るいことを考えて動いた方がとても有意義な時間となる』
どこか思い馳せた瞳で幻太郎は言った。
周りがうるさくも感じた夜中。どこかで星が降り。ここではとある2人が話し合う。
耳を塞ぎたくなるような過去からの言葉。
自らが理解しているからか目の前に過去の自分が現れ否定されているような気分になる。
バカげているな──────
虫の声ですら鬱陶しく感じてしまうほどに静かな夜の街、頭の中でのノイズは鳴り止まない。
それをすくいあげてくれたのが今目の前にいる盗賊だ。
不可思議なほど結末があるこの世の中で、笑みをこぼす二人の男。
きっと明日もどこかで星が流れる。
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