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めちゃくちゃ素敵! 書くのすごい上手いね、ほんと尊敬する!!
ただ1人、会いたい人がいた。多分だけどもね。
誰がためかも忘れたラブレターがいつまでも引き出しの中に入っていた。まるで紙屑のようでもずっと捨てられなかったんだ。
たまにそれを確認してはため息をついて研究に勤しむ。私はただそっと心の奥底に閉じ込めた願いを叶えられずにいるまま、研究をして何年も何年も過ごしている。
追い求めたかったんだ。
side Daisu Arisugawa
幻太郎と手を組んだ。
仲間という証であり、余……ではなくて俺自身への知らせ方だ。
幻太郎は盗賊を辞める訳では無い、単純にそのチームに入ることを辞めるだけだそうだ。もし他になにか理由があって盗賊をしているならば悪い事をしたとしか思えないからな。
『あのチームから抜けていいのか?』
『はぁ?何を今更言ってんだ、俺はただ試しに来ただけだよ…と言っても初日に帝統が来なかったらずっとチームの一員だったかもしれない』
『なんでだ……?説得は一応できたんだ、入っていてもできただろう?』
『裏切りたく、ないんだ』
どこか遠くを見るように幻太郎は言った。
復讐なんて兄が本当に望んでいるものなのか分からない、もしかしたらそんなことせず俺といること、もしくはチームにいて安全に暮らしていた方が兄が安心するかもしれないとの事だった。
だからこそその願いを、本物かは分からないけれど裏切らないようにしたいと語った。
その思いを尊重するかのように俺はチームに入ることを辞めると伝えに行こうとする彼に行ってらっしゃいと言った。
その瞬間弾けたような笑顔で彼は行ってきますと言った。
もう少し落ち着いたやつだと思ってたがそうでもなかった。大人になりきれなかった子供かのような笑顔はこちらまで微笑ませるようなものだった。いや、大人もまた子供なんだろう。
互いの願いは方向性が違うかもしれない、でも目標があることに何ら変わりはなかった。きっと彼の退屈を殺すためには盗賊になることはちょうど良かったのかもしれない。
暗くなった夜の星空に手を伸ばす。
どことなく疲れてしまった。無理も無いかもしれないがそこまで動いたりはしてないと思ってるし、きっと頭の回しすぎだな。
壁に背中を寄せながらため息を着く、幻太郎はまだだろうか。もしかして言い合っているのだとか?だとしたら着いていけば良かったかもしれない。だが壁に背中をつけて休憩している現状況だと疲れが勝り立ち上がるのは困難だ。
動きたくない、それが心の本音だ。
どうしたものかこんなもので願いを叶えさせることなんてできるのか。体力が大分無いな。剣道やらなんやらやらされてたから体力がついてると思ってたんだけどな。
流星群、いつか見たあの頃と同じようなそんな流星群母と手を伸ばし願いを星に込めたあの時。言葉ではきっと優等生を演じた。だが心はきっとやんちゃな劣等生だ。
その時の思い出をそっと記憶から辿る。
『お母様は何を願うのですか?』
『生きやすい世界、とかですかね』
母はただ偽善を語った。
『余は立派な王になることです』
無理やりでも笑顔を作りそう言った。母の前では母が絶対だったから。
だが心では勉強の日々で作れぬ、仲間や友が欲しいと願っていた。
暗闇の中、皆が灯りを消し流星群を楽しんだ。ひとつ、ふたつ、みっつと流れゆく星々はまるで過去の俺の心を魅了した。
目が離せずにいる流れるその星はただ、何も考えないで落ちてゆく。その終わりが来る時まで流れて流れて消えてゆく。
それに必死で腕を伸ばしていた。
今でも尚、ね。
酒でもあれば美味しく飲めただろう。客がやっていた時のようなワイワイと飲む酒は飲んだことがなかった。
月見酒はきっと、なんて思ってもそんなものないしな、どこかで飲んだ酒の味でも思い出す。余計に飲みたくなってしまうな。
またため息をついた。こんなことをしていていいのだろうか、いや自分で決めた道なんだ。
コロンとサイコロを転がした。
『おーい!!』
手を振って来るのは幻太郎だ。
その片方の手には何か持ってきている。
『酒!』
こちらの様子がうかがえたのだろう。何を持ってきたのか聞かなくとも言ってくれた。
『な、なんであるんだ?』
不思議に首を傾げそう問う。するとまさかのチームのリーダーが燃料と酒、ツマミをくれたようだ。
『優しくて助かったよ』
『酒が上手くなる月だからな』
『俺も思った……流星群か』
瞳に映るのは綺麗な流星群、流れる星をそっと見つめ口を開ける。その青年はまるで過去の自分を見てるかのようだ。
『おっ、ほらほら!酒!交わそうぜ!』
『あ、そうだな』
ちょうど飲みたいと思っていたし、という気持ちと酒を交わすという仲間らしい事、それが嬉しかった。
すると小さな袋から杯をだした。おとと、と声を漏らしながら幻太郎は酒を注いだ。ほらよ!とニカッと笑う。
ツマミも出てきた。なんだろうと思えば焼き鳥やらそこらだった。この星は船が壊れているというのになぜそんないいものがあるのだろう?
あぁ、多分客のつてだな。盗賊なのだから予想がつく。
『魚もあるぞ…♪』
その言葉はとても喜びに満ちており、幻太郎はぺろっと舌を出した。
その言葉に甘えこちらも好きなツマミを貰った。杯を交しグビっと酒を飲んだ。ツマミも酒の種類にあっており流星群を見ながらという贅沢な酒だった。
まるで今日出会ったとは信じ難いな、なんたってやってることがやってることだからな。
子供の頃流星群に願ったことが叶った気分だ。今の居心地は悪くない。疲れていたことが酒で少し和らいだ感覚だ。不思議だな。
にしても、やはり流星とは綺麗なものだな。つい見とれてしまう。目が釘付けされてそこだけしか見れないほどに。
『綺麗だな』
『ああ』
互いに見とれながらそんな言葉を交わし合う。
『でも俺はあまり星は好きじゃなかったな』
『何故だ?』
『星にいくら願おうと兄は帰ってこなかった……なんて理不尽にも程があるな』
ハッとした、俺は子供の頃願った思いが現在叶っているようなものだった。星に願いと思いを馳せたからだった。
それでも叶わない人だって当たり前にいる。そしてそれが当たり前になってしまえば誰しもが皆星に願いを込める。
『安心しろ、神も同じく理不尽だ』
『ははっ、面白いことを言うな』
だがしかし、今現在ここで笑っている青年。幻太郎の笑顔はきっと本物だった。
流星群ではなくとも、きっとどこかでひとつの星が流れている。