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恋はするものではなく落ちるもの。まさにその通りだと、最近は身に沁みて感じる。俺たちの活動において、恋愛は禁止されてはいないが、良く思われないことも多い。だからできるだけ恋愛はしたくないし、同じグループのメンバーを好きになるなんてあってはならないことだ。
恋はするものなんだとしたら、俺は、こんな報われない恋はしたくない。落ちてしまった、という言い方の方がしっくりくる。
動画撮影の休憩時間、俺の視線は勝手に大好きなあの人を追っていた。あの人、やなとは俺の視線に気付いたのか、ふわりと笑って近づいてくる。
「おさでいどうしたの?」
「やなとさーん!この後ご飯行こうよ!」
俺はいつものようにやなとを見つめていた言い訳を並べた。ご飯に誘うとやなとは、えー、なんて最初は渋るが最終的にはやれやれと言って受け入れることを俺は知っている。最初は行かないと言っていたやなとは案の定、お願いし続けると、
「もー、仕方ないなぁ」
と了承してくれた。なんだかんだで、話を聞きつけた他のメンバー数人でご飯に行くことになった。
数時間後、いつの間にかだいきりと飲み対決になり、二人で酔い潰れていた。
「これ、どうする?」
やなとが困ったようにらおに話しかける。
「んー、だいきりはここから家近いから何とかなるんじゃない?」
「確かに!じゃあ俺送ってくよ!だいちゃん立てる?」
そう言ってだいきりの肩にやなとが手を添える。俺は胸がムカムカして、何だかやりきれない気持ちになる。酔いが回っているのもあり、少し思い切ったことを言った。
「ねぇ、やなと〜、おれ今日帰るの大変だから、やなとの家行ってもいいー?」
それを聞いたやなとはこちらへ振り向いて、だいきりの肩から手を離す。
「えー、どうしようかな?」
そう言って笑うやなとを見て俺は、これは泊まれるパターンだ!と思い全力でお願いする。
「お願い!やなと!俺ここからじゃ帰れないの!お願い!お願い!」
そう言ってやなとに抱きつく。
「ふふっ、いいよ。てか、おさでいめっちゃ笑顔じゃん!」
「ん?やなとの家泊まるのたのしみでー!」
やなとは少し機嫌の良さそうな声で
「ふーん?」
と返した。
その会話を一部始終聞いていたらおは、何かを察したのか気を遣うように、
「じゃあ、俺がだいちゃん送っとくわー!」
と言ってそそくさとだいきりを連れて去っていった。
俺はルンルンでやなとに抱きつき、こっそり匂いを嗅ぐ。バレたら本気で嫌がられそうだが、バレなきゃセーフだ。
「おさでい近いってー!」
なんて文句を言われるが、本気で突き放さないあたり、嫌なわけではないのだろう。それが嬉しくて思わず口角が上がる。
「やなとも嫌なわけじゃないんでしょ?」
「嫌じゃないけど、暑苦しいの!」
もー、と頬を膨らませて言うのもとても可愛らしい。俺は「嫌じゃない」という、やなとの言葉を噛み締める。流石にこれ以上はうざがられそうなので、不本意だがやなとから離れた。
家に着くとやなとは俺を風呂場に案内し、先に入っていいよ、とタオルと前に泊まった時に置いていった俺の服を渡した。
やなとの家のお風呂だ!なんてちょっとドギマギしながら風呂を済ませ、服を着て風呂場から出る。
廊下を歩いている時、誰もいないのかと思うくらい物音がしなかったので少し不安になりやなとの名前を呼んだ。
「やなと?」
返事はなかった。どこに行ったのだろうとリビングへ続くドアを開けると、ソファの上で寝ているやなとの姿があった。今日の撮影はダンス企画だったのもあり、やなとはだいぶ張り切っていた。きっと疲れが溜まっていたのだろう。
俺は、一歩、二歩、と起こさないようにそっとやなとに近づいた。しばらく寝顔を眺める。すぅすぅと可愛らしく寝息を立てるやなとを見て、自然と笑みが溢れる。自分の欲が抑えきれずに俺はやなとの頬に触れた。やなとの体温、そして呼吸が直接手に伝わってくる。今ならバレないのでは、と邪な考えが頭に浮かぶ。俺はやなとの顔に自分の顔を近づけた。
すると、やなとの目がうっすらと開いた。俺は急いでやなとから離れた。
「、ん、?おさでい、?」
「あ!や、やなと起きた?めっちゃぐっすりだったね!」
なんて、俺は何もしなかったフリをして顔に笑顔を貼り付けた。やなとは笑って、
「んー、疲れてたみたい」
と返すので、俺はバレてないみたいとフッと胸を撫で下ろす。
「あ、俺お風呂入ってくるね」
そう言ってやなとは少し眠たそうに目を擦りながら風呂場へと向かっていった。
俺はやなとがいなくなった後、一人で反省会をしていた。危なかった。やなとが起きなければあのままキスをしていたかもしれない。俺はそんな自分が怖くなった。このままでは、いつか「好き」を言い訳にしてやなとを傷つけてしまう、と。
俺はやなとに必要以上に近づかないと心に決めた。やなとを傷つけないために、そして、今の関係を壊さないために。
yn視点
おさでいは距離が近い。同じソファに座る時はぴったりとくっついて座るし、何かと抱きついてくるし、パーソナルスペースにどんどんと入ってくる。でも、それを許してしまう俺も案外おさでいに甘いのかもしれない。なんなら、ほんのちょっと嬉しいとさえ思ってしまうのだから。
でもある日、突然おさでいの距離感が変わった。おさでいを家に泊めた日、俺が少しソファで眠って起きた後から少し違和感があった。いつものおさでいより少し遠い気がした。少し違和感はあったけどその時はまだ気にしていなかった。
朝起きるとおさでいは既に俺の家から出ていっていた。いつもなら朝ご飯まで食べていくのに。
そんな些細な違和感は少しずつ確信へと変わっていった。
ある日、俺がおさでいに話しかけると、必ず一歩下がって距離をとることに気づいた。他のメンバーには普通なのに、なぜか俺にだけ距離をとる。それに気づいた後からどんどん別の事も気になっていった。
ソファに腰をかける時、人一人分空けて座るようになった。
並んで歩こうとすると、何かと理由をつけて他のメンバーのところへ行き、並ばないようになった。
ご飯に誘われなくなった。前はあんなにしつこく誘われていたのに。俺から誘っても来てくれなかった。
俺にスキンシップをとる事も無くなった。おさでいは手を伸ばしかける事はあっても、何かに気づいたようにして引っ込めた。
些細なことかもしれないけれど、沢山のことが積み重なって、大きな溝が出来ていったような気がする。
距離を取られている。俺は明確にそう気づいた。
気づいてからはとても苦しかった。俺、何かしちゃったかな、そんなことばっかり考えた。
話そうと思っても話しかけると理由をつけてすぐに何処かへ行ってしまった。
どんどん、どんどん不安になって、中々眠れない日々が続いた。その時に気がついた。俺、おさでいが好きだったんだ。
このままじゃいけないと思い、ある日勇気を出しておさでいに聞いてみた。
「ねぇ、おさでい?」
「ん?やなと?どうしたの?」
なんて言う声は前と同じなのに、俺から一歩距離を取り、目線を逸らす。それだけで俺の胸は張り裂けそうなほど痛んだ。
「その、なんで最近、距離あるの?」
不安を紛らわそうと笑顔を作ろうとした。きっと上手くは作れていなかったと思う。
おさでいはハッとしたような顔をした後、苦しそうな顔してこう言った。
「ごめん、言えない。でも、やなとのせいじゃないから!ほんと、ごめん。全部俺の問題。」
俺は何も言えなかった。全然信頼されてないんだな、もしかして嫌われちゃったかな、と言う考えが脳を支配した。
おさでいは重い足取りで部屋から出ていった。
俺は苦しくて、苦しくて、呼吸も出来なかった。どこがダメだったんだろう。それさえ分からない自分が嫌だった。
その日から、食事を摂ることも上手く出来なかった。配信中もボーッとしてしまう時間が増えた。リスナーのみんなにも心配をかけてしまっていた。
ダンスレッスンの日、久しぶりに会ったメンバー達にとても心配された。おさでいも心配してくれたが、距離は前と変わらず、目も合わなかった。
限界だったのだろう。踊ってる途中に何度も目眩がして、上手く踊れずに練習を何度も止めてしまった。
メンバーの提案で少し休憩をとることにした。
「みんな、ほんとにごめん。」
と謝っても、みんなすごく心配してくれて、気にすんなって言ってくれて、だからこそ本当に申し訳なかった。
その日の終わり、みんなが帰り始めた頃、俺はおさでいを呼び止めた。
深呼吸をして、自分を落ち着かせてからゆっくり話し始める。
「その、俺のダメなとこ、教えてほしい、」
そう言うと、おさでいは少し戸惑ったような表情を見せた。
「え、やなとにダメなところなんか一つもないよ。」
そう優しく言ってくれる。でも、その優しさが今は辛い。
「じゃあ、、なんでっ、」
「なんで、俺から距離取るの?」
ずっと悩んでたことを口にする。おさでいは、またこの前みたいに苦しそうな表情をした。
「それは、、全部俺のせいだから。」
「話すのは、むり?」
そう聞くとおさでいは首を縦に振った。
「そっ、、か」
目が熱くなった。頬に涙が伝う。急いでおさでいに見られないように、手で顔を覆った。それでも、今まで溜めてきた物が全部溢れ出るように流れ出てきた。
「、え?や、やなと、?」
おさでいは酷く困惑したように、手をあたふたさせ、何か言おうと口をハクハクさせた。
俺は、これ以上嫌われたくない。と思い、おさでいから離れようと体の向きを変え、逃げようとする。するとおさでいがぎゅっと俺を抱きしめた。
「やなと、やだ、いかないで、」
そう言って、力を込めて抱きしめられる。
俺はびっくりして、押し返そうとするが、おさでいが近づいてきてくれたのが嬉しくて、安心して、上手く手に力を入れることが出来なかった。
「お、おさでい?」
行動の意図が知りたくて、名前を呼ぶ。
「やなと、、なんで、、、泣いてる、の?」
言ったら嫌われるかも、なんて考えが頭に浮かんで何も言えなくなる。
すると、おさでいが口を開いた。
「俺が、、距離取ったから?」
俺は、小さく頷いた。また、おさでいが恐る恐る尋ねた。
「もしかして、最近調子悪そうだったのも、そのせい?」
「、、うん、嫌われたかもって、不安だった」
俺は自分の気持ちを慎重に言葉にして伝えた。
すると、おさでいは俺を精一杯の力で抱きしめた。
「ごめん、やなと。俺、やなとのこと、傷つけた。」
おさでいの鼻を啜る音が聞こえた。
「いいよ、でも、なんで距離取ったかだけ教えてほしい、」
俺達は一度お互いから離れた。でも、距離は前の近かった頃に戻っていた。
今日、初めておさでいと目が合った。
「俺がやなとの家に泊まった日、俺、やなとに、、キス、しそうになった。」
「それが、自分でも怖くて、やなとをいつか傷つけてしまうんじゃないかって。俺、やなとが好きだから。」
おさでいはそう言って、気まずそうに俯いた。
俺は、一瞬、意味が理解出来ずに思わず聞き返した。
「え、?おさでい、今、なんて?」
「俺、やなとが好き。」
自分で顔が赤くなっていく感覚が分かった。俺は思わずおさでいを抱きしめた。
「俺も好きだよ。おさでいのこと。」
次は、おさでいが驚く番だ。
「、、え、?」
「や、やなと?それ、ほんと?」
俺はおさでいに気持ちがちゃんと伝わるように、抱きしめる腕に力を込めて、もう一度言った。
「ほんと。おさでいが好き。大好きっ。」
おさでいは俺を強く抱きしめた後、俺の瞳を愛おしそうに見つめてキスをした。
お互いに、体温を感じ合う。長くて、幸せな触れ合い。
キスが終わった後、おさでいは口を開いてこう言った。
「俺と、結婚してください!」
「え!?」
思っていた展開より、ちょっと早くて思わず声を上げてしまう。
「ダメ、だった?」
なんて、おさでいが子犬のように見つめてくるので思わず胸が高鳴る。
「いいに決まってる!想像してた段階すっ飛ばされたからびっくりしただけ!」
と、笑ってみせるとおさでいも安心したように微笑んだ。
おさでいが俺の涙を手で拭った。俺も、真似するようにおさでいの涙を拭う。そして、お互いに見つめ合った後、もう一度キスをした。
それから、俺たちの距離は元に、いや、それ以上に近くなった。何回かメンバーに茶化されることもあったけど、前のような事は繰り返さない、と二人で約束した。きっとこれから、二人の距離が変わる事はなく、数年後に愛を誓い合う事だろう。
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