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「回復は安定してできそうですか?MPのような概念は特にないと衣川さんからお聞きしましたが」
「だっ……大丈夫、だと思います」
「ではお願いします。……そうなれば、保険も出来ましたし、攻める一方ですね」
「マジで?あの矢印余裕で当たりそうなんだけど?」
「天竺さん、実際どれくらいのダメージですか?」「走れるくらい」「なんか当てにならないな」
「じゃあ行けますね!!」「いけないいけない」「全員の本業が盗賊だと思うなよ」
「あの男が特殊だっただけで、矢印自体は非常に強力だ。当たったら歩行はおろか、動くことすら出来なくなるぞ」
「マジかぁ」「お前なんで動けてたんだよ」
「じゃあ行けますね!!星斗くん、もう当たってもいいから溜めて下さい!!」「無理無理無理!!!」
とはいえ、このまま防戦一方だとジリ貧なのも事実だとは思う。
でも単純に攻撃を受けたくない自分がいるのだが、攻撃できるのは現状俺だけっぽいし。
溜めてる間に攻撃を食らったらリセットな気がするので、肉壁の人海戦術でいくしかないのだろうか。
それをやるにしては人が少なすぎないか……?
「当たったらタメがなくなるかもしれないんだけど、いいのか?」
「じゃあ当たっちゃダメですね!!」「なんなんだお前……」
「分かった、とりあえず一旦指揮とmessiahで星斗に来る矢印曲げといてもらうだろ?んで、そのうちに小指も星斗のそばにいてもらう。で、俺様が走り回ってればいいんじゃねぇか?」
「平気なんでしょうか……」「小指は回復役として被弾したら困るし、今一番無傷が求められてるのは星斗だろ?指揮とmessiahに細心の注意払ってもらえれば大丈夫だ」
「……馬鹿みたいな顔しといて作戦は思いつくのか」「盗賊だからな、土壇場の力は人一倍ある。……一言余計だぞ?」
「そうと決まれば話は早いですね。被弾を避けるために、やっちゃいましょう」
さっきまで怪我があったのが嘘みたいに、天竺は逃げ足の速さを発揮する。
そのくせ、彼の事だ、これからの走りに備えて長距離用の速度で走っているだろうし、少なくとも全力疾走ではない筈なのだが、もうめちゃくちゃ早い。俺の短距離の記録レベルのスピードを維持して走っている。
その間にも、矢印は俺の方へ向かってくる。それを指揮やmessiahがまげて、俺の均衡は保たれる。
時折、二人でも間に合わない矢印が来ることもあったが、それを防ぐのは小指で、おそらく低レベルな火属性魔法で攻撃をして、方向を変えている。
さあ、俺が撃てるのも秒読みになってきた。
一瞬天竺に当たったらやばいと思ったが、奴は俺のレーザーの範囲を知っているらしく、それに当たらない位置でシャトルランのような動きをしている。
引き返すタイミングで矢印が来たら食らうんじゃないかとも心配したが、そんな心配いらないくらい超早い。
バグの能力で頑張れば攻撃できそうだし、割とこいつ一人で倒せるんじゃないだろうか……
実際、前に壁をぶっ壊したのを反省し、試し打ちをしていない。仮に床が抜けたりしたら、俺達はそのまま落ちてしまうからだ。
もし俺の火力アップ条件を達成していたら、もっと強い火力を叩き出せると思うと、嬉しいような、怖いような感覚だ。
床が抜けないことを祈りながら、俺はレーザーを放った。
「……溜まった」
「絶対当たんねぇ位置にいるから、いつでも撃っていいぞ」「純粋にすげぇな」
「中々やるではないか。さぁ、撃ってみよ!!」
右手から放たれた光線は、しっかりと黄楽天の元へ向かった。
驚いたのは、明らかにhappy戦よりも火力と範囲が上がっている事。
happy戦以降に、何らかの火力アップ条件を達成したということなんだろうが、条件が全く見えてこない。
また、レーザーを撃った後少し炎が残ったりすることもあるのだが、その残留時間も多少伸びているように感じる。
あれがあると継続してダメージを与えられるほか、火傷になりやすかったりして地味に助かることがあるかも、と戦闘前に指揮に言われたのを今更思い出した。
矢印の更新がぴたっと止まり、炎で黄楽天側の状況が分からなくなった。
しばらくして炎が消えると、左半身が真っ黒に火傷した黄楽天が居た。
左目のあたりを抑えながら、少しおかしい発音で俺達に向けて話し出した。
「……面白い、何て面白いんだ、諸君!!一発でほぼすべてを持っていく攻撃力、素晴らしい!!200回目が近いと言うのに、ここまで私を苦しめたのはこれで2回目だ!!ふふ、これなら、ここまで強いなら……!脱出もありえるやもしれんな……」
「おっ、マジ?」「さっきまで走ってたとは思えないくらいスムーズに会話に参加してる……」
「まぁ、その夢も今後潰えるさ。さぁ喰らうがいい、我が渾身の最期の攻撃を!!第二神力・示相転解!!」
黄楽天はそう叫ぶと、なんと槍を自身の体に突き刺した。
みるみるうちに体から血液があふれ出す。と同時に、自身の血液がまるで一滴一滴命を持ったかのように動き出し、その血によって四桁の数字で出来たタイマーが作られた。
10:00と表示されている。
そして、タイマー分に使われなかった血液たちが矢印となって黄楽天の周りに集まった。
「自爆技みたいなもんかよ……!なんか勝ち逃げされたみたいでムカつくぜ」
「ラストスペル的な攻撃だよな、耐久する系」
「そのネタ誰に伝わるんだよ……」
「タイムリミットは10分だ、諸君らが10分耐えれば、第一ラウンドは勝利……といった所か。だが、第二第三ラウンドまで諸君らは戦い、いずれも勝利せねばならん。さぁ、地獄の10分をせいぜい楽しむがいい!さらばだ!」
黄楽天は盛大に高笑いをすると、静かに体が崩れ去った。
ここから、彼女の言う地獄が始まる。
「おいなんだこの矢印!!壁に当たっても崩れねぇんだけど?」
「液体だから衝撃を受けても崩れないんですかね、これは手ごわそう」
「しかも、壁に当たったら分裂して二つになってるぞ……!」
「マイ〇ラのスラ〇ムみたいになってるな」「分かりやすいのか?それ……」
この手のやつは、大体最初は楽で、数が増えてきて大きさもそこそこある中盤が一番きついと相場が決まっている。
そして、その法則は適応されてしまった。
残り 7:00
「おいお前ら走れ走れ走れ!!!止まるな!!」
「もうそろそろ限界ですって!!」「知らん!走れ!」
「止まったら一気に5つくらいもらうんじゃねぇか、これ……」
「指揮、曲げる仕事はどうしたぁぁぁ!!」
「曲げるのも全力疾走だと難しいんですよ!きっとmessiahさんなら分かってくれるはず!!」
「分かる!!マジわかる!!」
テニス部高1とかいう、運動に優れてそうな俺でもかなりきつくなってきた。
小指に関しては走るのが無理すぎて風魔法で自分をぶっ飛ばしている。
レベルが上がって風魔法も使えるらしいが、全体攻撃はまだまだ先らしい。
なので、現状一番疲れてないのは小指と天竺。それ以外はかなり限界が近い。
指揮とかに関しては戦闘慣れしていないし、お嬢様感漂う感じだから走るのも苦手そうで、10分間全力疾走はきついみたいだ。
「全体攻撃……小指くん全体攻撃……」
「む、無理です!さっき急に風魔法使えるようになったので!!」
「もう火でもいいから全体攻撃……」「おかしくなっちゃってませんか!?」
「かなりきついな……ってあっぶな、当たるところだった」
危うく頭を下げて、矢印を食らうのを避けることに成功する。
とはいえかなり危ない。全力疾走しながら矢印に注意しないといけないわけだし。
「今何時??」
「何時ってなんですか……タイマーは後……5分ですね」
5:00
「5分?!あと半分もあんの??」
「お前らにとっては、もうそろそろ限界なのか。大丈夫か?一人くらいなら担いで走れるぞ」
「3人できる?」「ふざけてんのか?」
「……誰やってもらう?」
「誰が一番きつそうかってことなら……指揮さんじゃないですか?」
そう言われて指揮の方を見ると、彼女はかなり疲れていて、周りが見えていないのかふらふらしている。
そして、「あ……」という声を漏らすと、急に倒れた。
「指揮!!」
全員が彼女に駆け寄ろうとしたとき、矢印が一斉に指揮の方を向く。
そういえば、矢印にはホーミング機能に近しいものがあったんだっけ……
案の定、細切れにされた20個くらいの矢印が指揮に突き刺さる。
その時、ほんの一瞬だけ、指揮のほんのり緑がかった髪の毛が綺麗な栗毛色に染まったように見えた。
そこから、俺達の視界は真っ黒に染まり、何故かしばらくの安寧を得た。
*
「……手間かけさせやがって」
凄まじい量のダメージを食らった時、本当に死を覚悟した。
肉体的な死ではなく、”桐原指揮としての精神的な死”を。
私に駆け寄ってきた皆は、気づけば全員昏倒していて、その周囲には黒い四角が立ち込めている。
私に声をかけたその男の方を見つめると、彼は呆れたようにこちらを見つめ返す。
「バレバレなんだよ」
「……この四角は?貴方がやったんですか?」
「とりあえずお前のことを隠してやろうと思ったら、気づいたらこうなってた。思えば、自分の代償が何なのかわかってなかったけど……自分で制御できないこと、かもな」
「……じゃあ、私の正体に」
「気付くわ、”同種族”なめんなよ。勘のいい奴なら、人間でもわかるかも」
「そんなに分かりやすかったでしょうか」
「指揮に似てない。お前本当は指揮じゃないんだろ」
「……」
「俺様はただの一般黄落人だから、毎日盗みを働いて生計を立ててたわけだけど、たまーに風の噂でそんなことしなくても稼げてる黄落人がいるって聞いた。人間界の名門・桐原家のご令嬢二人に変装して、そのままバレずに毎日を送ってる黄落人の姉妹がいるっていう噂を」
「……そう、です」
「ま、黙っといてやるから大丈夫だって。ただ、本当にヤバくなったらお前も正体を明かす時が来るかもな」
「正体を明かしたところで、何にもならないと思うんですが」
「卯人形態くらいにはなるかもしれねぇぞ?今回みたいに走らされる時は人間形態じゃきついだろうし」
「その可能性はありますか」
「把握しといてほしいのは、俺様の能力に頼るのはガチでどうしようもない時だけ。半分直感だけど、多分この能力を自分で制御するのは出来ない気がする。お前はたとえ正体が桐原じゃなかろうと、頭脳は本物だろうし」
「把握しました。……黄落人は種族的に頭がいい人が多いらしいですよね」
「へー。本とかで知ったのか?」
「はい」
「本が読める家に産まれたかったぜ、マジで。……あのさ、あくまで興味本位なんだけど、お前の本名って何?」
「黄落人の、ですか?」「そう」
「……楊梅指揮です」