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「で、どっちが妹なんだ?」
「双子なのであまり関係ない気もしますけど、私の方が妹……ですね」
「えーマジ?それは……えっと……モップじゃなくてキャップじゃなくて……萌えーみたいな」
「……ギャップ萌え、ですか?」「そうそれ!ギャップ萌えじゃーん!!」
「実際ギャップ萌えなんですか?」
「そうじゃないか?なんか姉っぽい雰囲気出てるし」
「そうですか……あ、そういえばこれ、ありがとうございました」
そういって、私は目元を指さす。
視界をクリアにする魔性の道具を。
「『ちょっと理由は言えないんですけど、花芽がかけてた眼鏡を死体から取ってきてくれませんか』なんて、正直怪しすぎるとは思ってたけど、じゃあこのメガネはお前のってことでいいんだな?」
「そうです」
「今まで眼鏡無い状態で矢印避けてたってことかよ。よくなんとかなってたな」
「自分でもびっくりですよ。当たる直前まで矢印がぼんやりとしか見えてませんでしたし」
「お前、素の視力どれくらいなんだ?」
「0,0……4?くらいです」「やば」
「でもよ、お前の眼鏡をなんで花芽がかけてんだ?お前ら双子だし、入れ替わり作戦でもしてたのか?」
「エスパーか何かですか?」「エスパーではないぞ?」「じゃあなんで一発で当てれたんですか……」
「……本当にそうですよ、入れ替わり作戦。その時の名残って言うんですかね。返してもらうのをすっかり忘れてました」
ーー
『二人が揃えば何だって出来るよ!私達、双子なんだから!』
*
私達は、ごく普通の黄落人として生まれた。
両親は貧しいかったから病院にも行けず、私たちを生むとき、親は双子だと知らなかったらしい。
突然分裂した我が子に対し、両親は驚いたそうだが、それでも私たちに平等に愛をはぐくんでくれた。
私達は一卵性の双子。だから見た目はそっくり。
花芽は髪を下ろしてて、私は髪を結いている。
花芽は眼鏡をかけてないけど、私はかけている。それくらい。
でも性格はかなり違っていた。両親曰く、
「花芽はとってもロマンチストね!いっつも夢を追いかけてる。中には実現できない夢もあるかもしれないけど、それを実現させちゃいそうな不思議なパワーがあるわ」
「逆に、指揮は現実的で真面目な感じ。いつもたくさん本を読んで、大人よりも色々なことを知っているかもしれない。自分から何かをしたりとかはないけど、もしそれをしたら100パーセント成功しそうね」
そして、いつもこう言う。
「二人そろえば無敵になれるよ!!」
実際、私たちの仲はとても良かった。
基本、花芽が無理な事を言って、それに私がツッコむことが多かったけど。
でも、花芽の発想はいつも私の思いがけない角度から知らない鋭利な刃物でぶった切ってくるような感じで、私からしてとても興味深いものだった。
花芽も読書家であったが、読んでいるのは物語。
一般に魔法少女と呼ばれるヒーローたちが活躍するものだった。
そして、最近はそれにも飽きたのか外に出かけることが増えてきた。
あんまり毎日外に出てると、黄落人が保護(という名の監禁)されている区域の監視をしている人にこっぴどく叱られる。
だから、私は外に出ないし、両親も仕事以外で外に出ない。
なので、毎日に何かをしに外へ行く姉を、私はあまりよく思っていなかった。
私は大して夢もなかったし、やりたいこともなかったから、とにかく賢くなっておこうと思い、ひたすら参考書を読んで過ごしていた。
そのせいで視力も悪くなっていて、誕生日プレゼントの眼鏡を愛用していた。
それで、時折その知識を家族に披露した時、みんなの驚きと感動が同時に感じられるような視線がとても好きだった。
そのうち、私は「両親は貧しいのにどうして本を持ってるんだろう」というごく当たり前の疑問を持ち、父に質問してみたところ、父から「人間から盗んできたものだ。母がケガで動けなくなっているから、君たちもそろそろそういうことに手を染めなくてはならないかもしれない」
と返ってきた。
私達は両親にとてもお世話になっていたし、母がケガをして全く稼げなくなっていたから経済が終わってることを知っていたので、盗みをすることに何の躊躇もなかった。
最初は本や小銭などちっちゃい物から盗んでいた。
でもそれで経済状況が回復することもなかった。だから、もっと大きく盗みをしよう……というか、もっと大きいことをしようという話になった。
そんなある日、私たちが住んでいる家の近くに、如何にも金持ちそうな女性が通った。
綺麗な薄緑の髪の毛に、首にかかった宝石が光るネックレス。
周りに四、五人の従者を侍らせているその女性を、世間はお嬢様だとか、令嬢だとか呼ぶんじゃないだろうか。
そして、私達双子は珍しく意見が一致した。
「「あの人になりたい!!」」
「でもどうやってやるの?」
「簡単じゃん!近づいてサンプルを取ってきて、それに変身すればいいんだよ!」
「そう簡単に近づけないよ。だって、5人くらい周りに人がいるんだよ。怪しまれるのは目に見えてるでしょ」
「まあまあ待ってなって。私が外に出てたのはこういう時のためなんだよ」
そう言うと、花芽は何か物体を取り出す。
メモリが書いてある容器。先端は鋭くなっていて、刺さると痛そうだ。
容器の中には、赤紫色の液体が入っている。
私は知っている。これの用途と名前を。そして、中の液体も。
「指揮はこれ知ってるでしょ!なーんだ!」
「……注射器、だよね?中に血液入ってるけど、何に使うの?」
「黄落人ってさ、変身したい人に触れば変身できるけど、それ以外に血液を飲んでもいけるんだって!だから持ってきちゃった……”卯人”の血液!」
「卯人?」
「うん、それも知ってるでしょ?」
卯人。
大和人外の一種で、初めて生み出された人外らしい。
単純に人間の感情を薄れさせて、身体能力を向上させた種族。
子どものころから人間の大人レベルの身体能力で、20歳あたりになると超人的な身体能力を誇る。
知能レベルが高く、独自の文化を持っていて、それによっては人間と敵対することもあるが、基本人間の味方。
とはいえ、黄落人保護地域に卯人は入ってこれない筈なのだが。
「卯人自体は知ってるけど、卯人の血液とかどうやって入手したの。居住区域にはいないでしょ」
「迷い込んでた卯人が居たの。知能レベルが低いみたいでね、知り合いの黄落人が半分ペットみたいにして放し飼いにしてたから」
「……え?」
「ちょっと拝借してきた」
「は、え、馬鹿でしょ?!いくら知能が低い個体とはいえ、卯人は卯人、めっちゃ強いし、抵抗されたに決まってる!バレずにできないって、そんなこと!それに知り合いの黄落人の子を……傷つけてきたって……」
「……倫理的にどうなの、って言いたいんでしょ?」
「……そう」
「いいんだよ。どっちみち、私たちが現状を打破するには大きい犯罪をするしかなかったんだもん。それに……指揮は何も悪くないから。私がそういうヤなことは全部する。私が全部背負うからね」
「そ、そんなの」
「私、これでも指揮のお姉ちゃんだから。今までお姉ちゃんっぽいこと何もできなかったから、その償い的な?」
「……」
駄目だよそんなこと。花芽、考えなおしてよ。
そんな言葉が私の頭に駆け巡っていたが、その言葉を口に出すことはなかった。
花芽は注射器を私の腕に当てた。
「注射とか本で読んだだけだなー。やるの初めてだね。多分痛いんだろうな、ごめん、指揮」
花芽から血液を注射された。
当然痛みは凄い。人生初注射だった、というのも大きいだろうが。
でも想像以上に一瞬だった。直前の出来事に比べれば。
「よし、これで指揮も卯人になれるね!これならあのボディーガードも突破できる!」
「ほ、本当にやるの?」
「うん!”二人揃えばなんだって出来るよ、私達双子なんだから!”」
*
桐原指揮としての暮らしは予想以上に楽しかった。
なんせ、私の大好きな本が違法なことをしなくてもたくさんあって、時間を忘れて没頭できる。
何より犯罪行為をしなくてもいい。本当に楽な毎日だった。
でも、従者の一人に変身した花芽の方はというと、自由に外出できるようになったからか、黄落人時代以上に外出の機会が増えた。
そして毎日注射器に血液を入れて帰ってくる。
斬人、ウインドー族、霊歌師、葉月人……日替わりメニューと言う姉を心底恐怖したのは本当だ。
「ねぇ指揮!今日人外を探してたらね、金髪の男に出会ったんだけど、その人がまぁイケメンで!!私一目ぼれしちゃった」
「へぇー……」
「電話の内容も盗み聞きしちゃったんだけど、なんか報酬がどーのこーのとか、依頼があーのそーのとか言ってた」
「あーのそーのは使わなくない?……まあそれはいいとしても、その人神殺し屋なんじゃない?」
「何それ?」
「最近流行ってる闇バイトの一種だよ。神器を殺せばその中の神化人も死ぬでしょ?それを利用して、殺したい神化人の依頼を集めて、その神器を殺すことによって報酬金をもらうみたいな。リスキーな依頼が多いから報酬も弾むんだと」
「へー!そんなこともしてるなんて……かっこいー!!!」
「馬鹿なの???危険なんだよ??」
「いいのいいの!はぁ……もう毎日会いたいくらいには好きになっちゃったよー!」
そんな平和?な会話をした翌日の事。
私達は、あの飛行船に転移される。
*
「何これ……?」
私達二人の前に置かれた看板。
そこには一つの張り紙が。
”楊梅花芽さんはaブースに、楊梅指揮さんはbブースに向かって下さい”
「なんか私達離されちゃうのかな?」
「嫌だね」「ね」
何も生めない会話をしていたら、自動音声が流れだした。
「aブース選択者の皆様は、とびきり楽しい毎日が待っています!衣食住完備の世界で一生を過ごせます!恐ろしい脅威が立ちはだかってきますが、それを排除すべく”ネームドヒーロー”たちがあなた方を守ってくれますよ!!さぁ、最高の人生へ、その第一歩を踏み出してください!!」
「なんか……ゲームみたいだね」
「ね。でも楽しい、とか言ってるし安全なんじゃない?迫りくる脅威をなんちゃらヒーローがうんたらかんたらって話してたしさ!あ、でも……そしたらbって」
「bブース選択者の皆様、おめでとうございます!!貴方達はネームドヒーローに選ばれました!参加者の皆様をお守りいたしましょう、無賃で24時間!楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい労働が待ってる(音割れにより聞き取り不能)!!!!死にに行きましょう!!」
「何これ、嘘……じゃん」
「もし本当だったらヤバいね。明らかに」
「……」
状況が理解できていない。
でも、とにかくbに行っちゃいけない気がする。
私はbに行けって指示されているが。
ただこのゲームみたいな謎の世界は、おそらく私達よりずっと強い。
デスゲームの主催者的ポジションと似ている。
その時、花芽が私に近づき、私の視界を奪った。
具体的に言えば、私の眼鏡を外したんだと思う。
そして、私の頭が重くなった感覚。
するすると私の髪の毛をすり抜けていくひも状の物。
それを花芽がぎこちない手つきで頭の方に付ける。
仕上げに、花芽は私の眼鏡を彼女の耳にかけた。
「どう?私、指揮になれてるかな?これならバレないんじゃない?……って、指揮は今見えないか……」
「え、花芽?」
「双子なんだから髪型と眼鏡くらいでしか私達を区別できないでしょ、多分。交換しちゃえばきっとバレないから。私がbブースに行くからね」
「ま、待って!私が……」
「……じゃあね、指揮!もう二人揃わないかもだけど、いつか揃ったら!”二人揃ったらなんだってできるよ、私達双子なんだから!”」
「あ……」
本来私が逝くはずだった地獄へ、姉は向かっていく。
最期に振り返ると、とびきりの笑顔を見せて姉は地獄への片道切符を使用する。
花芽が私以上に眼鏡の似合う女性に見えたのは、私の視力が少ないからだろうか。
それとも、視界が水でゆがんでいるせいだろうか……