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映画のイベント。レッドカーペットの両脇には、観客と報道陣がずらりと並び、フラッシュの光が絶え間なく点滅していた。耳に届く歓声やカメラのシャッター音に、〇〇は思わず息を整える。映画祭の緊張感と華やかさに、少し心が踊る。
〇〇「すごい……」
廉「大丈夫、堂々としていれば誰も文句は言わないよ」
〇〇は頷きながら、少し背筋を伸ばす。スカートの裾が風で揺れ、足元のハイヒールが滑りそうになる。思わず廉の腕に手をかけてバランスを取る。
〇〇「わっ……ありがとう」
廉「気をつけろよ、ここで転んだらニュースになるぞ」
〇〇は軽く笑って頷く。周囲のフラッシュが眩しく、観客の歓声がさらに大きくなる。緊張の中でも、〇〇の表情はしっかり笑顔を作る。
階段の途中で足元が少しもたつくと、廉がすぐに手を差し伸べて支える。〇〇は慌てず、自然に手を引かれるまま階段を降りる。
〇〇「ありがとう……」
廉「大丈夫、ちゃんと支えてる」
観客に手を振ると、歓声がさらに大きくなる。ファンの手が前に伸び、スマホのライトやフラッシュが光るたびに、〇〇は軽く会釈し、笑顔を返す。手を振る仕草は自然で、ぎこちなく見えないよう意識している。
〇〇「こんにちはー!」
観客「キャー!」
〇〇「ありがとう、嬉しいです!」
何度も手を振りながら、歩幅を調整する。スカートの裾が少し引っかかる瞬間があり、その度に廉が横で手を添えて支える。〇〇は「ありがとう」と軽く言いながらも、視線は前方に向け、周囲の視線を気にせず自然体を保つ。
歩きながら、〇〇は自分の姿勢や笑顔を確認する。フラッシュの光が眩しくても、笑顔を絶やさず、両手を振るタイミングも意識する。観客の歓声に応える瞬間、まるで舞台に立っているような高揚感が胸に広がる。
〇〇「ありがとうございますー!」
観客「キャーッ!」
〇〇「嬉しいです、ありがとうございます!」
レッドカーペットを歩き終えると、メディア用のフォトセッションが始まる。カメラマンの数はさらに増え、光が一斉に飛ぶ。〇〇は両手を軽く広げ、笑顔でポーズを取る。何度もカメラの方向を意識し、自然に手を振る。
〇〇「はい、ポーズ!ありがとうございます!」
廉「〇〇、顔上げて、笑顔忘れずに」
〇〇「うん、わかった」
〇〇の手は、フラッシュごとに軽く振られ、観客の視線を楽しむように向けられる。フラッシュの光が眩しくても、表情は柔らかく、緊張感を感じさせない。歩き方、立ち方、手の振り方——どれも自然で観客に笑顔を伝える動作になるよう心がける。
階段を降りてステージに上がると、歓声がさらに大きくなる。〇〇は手を広げて両側の観客に応え、軽く頭を下げて挨拶する。
〇〇「みなさん、こんにちは!ありがとうございます!」
観客「キャーッ!」
〇〇はその声に応えるように、また手を振る。自然に、まるで長年この舞台に立っていたかのように振る舞う。
フォトセッションでは、映画「消えてゆく君のために、僕は笑っていよう」のポスターを背に、〇〇は廉と並んで立つ。カメラマンがシャッターを押すたびに、〇〇は軽く笑顔を作り、手を振る。時折、フラッシュの光に目を細めながら、観客にしっかり視線を向ける。
〇〇「ありがとうございます!嬉しいです!」
廉「いい笑顔だ、〇〇」
〇〇は軽く頷き、胸の奥の緊張を忘れるように微笑む。
レッドカーペットを歩き終え、控室に戻ると、少し肩の力を抜くことができる。〇〇は笑顔を保ちながらも、足元のヒールの感覚や、周囲の視線に注意を払う。北斗の存在は頭に入っていない。目の前の人々や報道陣、歓声だけに意識が集中している。
控室の中で、〇〇は軽く深呼吸をする。今日の登壇は成功だったと自分を褒めるように、自然な笑顔を保つ。手を振る練習もしてきた甲斐があったと感じながら、次のフォトセッションや取材に備える。
ーーーー
〇〇side
〇〇は北斗の存在にまったく気づかず、心はレッドカーペットや観客、カメラ、フラッシュの光でいっぱい。少しつまずきそうになった瞬間は廉に支えられるが、意識は完全に外界に向けている。手を振る、微笑む、挨拶する——その一つひとつを自然にこなすことで、華やかな舞台を楽しんでいる。
緊張もあったが、舞台に立つ高揚感がそれを上回り、笑顔を作るのは簡単だった。視線やフラッシュ、歓声に応えることで、自然体で振る舞うことができた。北斗の視線や事故キスのことは頭にない。ただその場その場で全力で応え、舞台を楽しむ。
ーーーー
北斗side
北斗はレッドカーペットの端に立ち、フォトセッションの列の中で観客や報道陣の動きを見渡す。隣にいる高畑充希との距離感を保ちながら、カメラに向かって自然に笑顔を作る。
心の中では冷静を装う。周囲のフラッシュ、観客の歓声、取材陣の質問——すべてを仕事として処理する。〇〇の存在は頭には入っていないはずだ。だが、何度か視界の端にちらりと映る〇〇の姿に、気づかないふりをしても、心の奥でわずかに動揺する自分に気づく。
「堂々としてるな……」
誰も気づかないその一瞬。〇〇がつまずきそうになった時、廉が手を添えて支えていたのも見えた。北斗は心の中で、自分があの場にいたらどうしていたかと考えながら、少し胸がざわつく。
ステージに上がり、観客に手を振る〇〇を遠目に見て、北斗は内心で「笑ってるな」とつぶやく。しかし、声には出さず、表情はいつも通り。仕事として自然に振る舞う〇〇を横目に、北斗は冷静を装う。
フォトセッションで〇〇が廉と並んでポーズを取る姿を見ると、北斗の胸に小さな締め付けが走る。あいつは、楽しそうだな——心の中で微かに思う。自分の心臓が少し早まるのを感じながらも、北斗は視線を逸らす。
「いや、関係ない……ただの仕事だ」
自分にそう言い聞かせるが、〇〇が笑うたびに、耳元に残るような温度の感覚を覚える。先日の楽屋でのあの言葉も思い出すが、それは心の奥にそっとしまう。誰にも見せない表情として、冷静な顔の裏に潜める。
北斗は完全に意識していないふりをしながらも、〇〇の一挙手一投足が少し気になり、視線を完全にはそらせない。仕事をこなすプロとして振る舞いながらも、心の中では小さく波立つ海のように、〇〇の笑顔や動きを反芻している。
ーーーー
廉side
廉は〇〇のすぐ横を歩き、階段やレッドカーペットでの歩行をサポートする。〇〇が少しヒールで足を滑らせそうになると、すぐに手を添えて支える。
廉「大丈夫、転ぶなよ」
〇〇「ありがとう」
その瞬間、廉の心の中では、〇〇が楽しそうに手を振る姿と、観客の歓声に応える姿を冷静に見守る。〇〇が無理なく笑顔を作れるように、必要なサポートをタイミングよく行う。
フォトセッションでは、〇〇と並ぶ位置に立ち、ポーズを取る際も目線や立ち位置を調整する。〇〇が自然に笑顔を作れるよう、軽く肩や手を添えて微調整する。
廉は心の中で、〇〇が一人でも堂々としている姿を見て少し安心する。先日の出来事も頭の片隅にはあるが、今は完全にサポート役に徹する。〇〇がつまずきそうになった瞬間に手を差し伸べることも、自然に、何事もなかったかのように行う。
「〇〇、表情大丈夫か」
声は出さずとも、眼差しで確認する。〇〇は笑顔を作りながら、観客に手を振る。その姿に、廉は心の中で小さく微笑む。安全に、自然に振る舞えるように支える。それが自分の役目だと、再確認する。
観客や報道陣のフラッシュに目を細める〇〇を横で見ながら、廉は心の中で「よし、順調だ」と思う。〇〇が自分の支えに依存することなく、自然に動けることを確認すると、少し肩の力が抜ける。
そして、フォトセッションの終わりに、軽く〇〇の肩をたたきながら、階段を降りる際も手を添える。〇〇が安心して笑顔を作れるよう、常に目を配る。これが廉にとって、〇〇への優しさの形であり、支える役目そのものだった。
ーーーーーニュース記事ーーーーーー
東京国際映画祭(TIFF)開幕:豪華キャストが登壇、会場熱気に包まれる
第36回東京国際映画祭が本日開幕し、話題作のキャストたちがレッドカーペットに登場した。主演の姫野〇〇と永瀬廉が登壇した映画『消えてゆく君のために、僕は笑っていよう』には多くのファンが集まり、歓声とフラッシュが絶え間なく飛び交った。姫野は華やかな衣装で笑顔を見せ、会場に手を振りながら歩く。途中、つまずきそうになった際には永瀬が手を添え、観客から拍手と歓声が上がった。
一方、松村北斗は『秒速5センチメートル』の登壇で落ち着いた佇まいを見せ、高畑充希と共に舞台に立つ。静かな存在感と安定感で会場を引き締め、ファンの注目を集めた。
フォトセッションでは、姫野と永瀬、松村と高畑がそれぞれ並び、会場は華やかな雰囲気に包まれた。観客や報道陣からは「美しい!」と歓声が沸き起こり、カメラのフラッシュが一斉に光る。姫野がつまずきかける場面では廉が支え、会場は笑いと歓声に包まれた。
今回の映画祭では、主演作品のキャストたちが自然体で登場し、レッドカーペットからフォトセッションまで盛況となった。姫野と永瀬、松村それぞれの魅力が存分に発揮された登壇となり、観客を熱気で包み込んだ。
ーーーーーーーーー
楽屋は静かで、少しだけTIFFの余韻が残っている。〇〇は座って手元の書類をなんとなく見ているふりをしながら、気持ちを整理していた。
ドアが開き、廉が入ってくる。
廉「〇〇、ちょっといい?」
〇〇「うん、どうしたの?」
廉は少し緊張した様子で立ち止まる。〇〇は特に意識せず、普通に答える。
〇〇「……あのさ、この前のことだけど」
廉「……うん」
〇〇「キス、あれって意思があってのことだよね?」
廉は少し肩を落とし、静かに頷く。
廉「うん、ちゃんと意図してやった」
〇〇は小さく息をつき、肩の力が抜ける。
〇〇「そっか……ありがとう、ちゃんと聞けて」
廉「……こちらこそ、確認してもらえて安心したわ」
二人は少し沈黙する。お互いに余計な言葉は必要ない。ただ、あの時のキスは意思があったと確かめるだけで十分だった。
〇〇「なんか、誤解とかなくてよかった」
廉「そうだな、もう隠す必要もない」
それだけの会話で、二人の間にある緊張は少し柔らかくなる。〇〇は微笑み、廉も小さく頷く。
楽屋は静かに、でもほんの少し温かい空気に包まれたまま、二人だけの時間が流れていった。
〇〇「……あのさ、返事、もうちょっと待っててほしいんだ」
廉「ん?」
〇〇「なんか焦らしてる感じになっちゃって……ごめんね」
廉「そっか……しゃーないな、待ったるわ笑」
〇〇「ありがとう」
〇〇は視線を逸らし、軽く笑う。廉はじっと見つめながら、少し首を傾げる。
廉「ほんならな……せやけど、今度の休み、〇〇と一緒におらん?」
〇〇「え?」
廉「〇〇とゆっくり過ごしたいねん、休みの日くらい」
〇〇「うん、そだね!」
〇〇が微笑むと、廉もにっこり頷く。
静かな楽屋に、ほのかな安心感が漂う。
廉「ほんなら、休みの日、何したいんや?」
〇〇「最近、めっちゃ忙しくてさ……ゆっくりしたいなぁ」
廉「そっか……ほな、外出るんじゃなくて、家でおる感じでええんか?」
〇〇「うん!お家でゆっくりしたい」
廉「ええな、それ。〇〇と二人でゆっくり過ごすん、楽しみやわ」
〇〇「私も///」
〇〇は少し照れながら微笑む。廉もにっこり笑い、自然と距離が近くなる。
二人きりで過ごす時間のことを想像して、なんだか少しだけ心が温かくなる。
廉「なぁ〇〇、次の休みいつや?」
〇〇「んー、まだ仕事のスケジュール確認してないから……」
廉「ほんなら、決まったら教えてや。ほんなら俺ん家でゆっくりしよや」
〇〇「うん、わかった!」
廉「せやったら、予定合わせて、飯も何もしよ。ゆっくりできるように準備しとくわ」
〇〇「楽しみだね」
こうして二人は次の休みの日、廉の家で過ごす約束をすることになった。
ーーーーーーーーー🌙
北斗side
TIFFが終わったその日の夜。
華やかなレッドカーペットの余韻がまだ残るまま、4人は個室でご飯を囲んでいた。
慎太郎「いやー、今日の歓声すごすぎたって」
樹「ほんと耳やられるかと思ったわ」
風磨「北斗も落ち着いてたよな」
北斗は水を一口飲み、静かに答える。
北斗「まぁ、ああいう場は慣れてきたし」
しばらく映画の話や裏話で盛り上がる。
樹「てかさ、今日〇〇やばくなかった?」
慎太郎「あー、わかる。登場した瞬間の声量」
風磨「レッドカーペット、完全に持ってったな」
北斗は箸を止めない。
でも、話はちゃんと聞いている。
慎太郎「今日まだ仕事あるって言ってなかったっけ?」
風磨「さっきマネとちょっと話したけど、今頃もう終わってるはず」
樹「え、じゃあ呼ぶ?」
慎太郎「いいじゃん、来れるなら」
一瞬、北斗の動きが止まる。
風磨「電話するわ」
北斗は何も言わない。止めもしない。
プルルル……
数コールで繋がる。
〇〇『もしもし?』
風磨「おつかれー。今さ、北斗、慎太郎、樹、俺で飯食ってんだけど」
〇〇『え、なにそれ楽しそう』
慎太郎「スピーカーにして!」
風磨がスピーカーに切り替える。
樹「今仕事終わったんだろ?来いよ」
〇〇『えー、どうしよ……』
慎太郎「今日くらい合流しなよ!」
少しの間。
〇〇『……場所どこ?近いなら行く』
風磨「よっしゃ。送るわ」
電話が切れる。
個室の空気が少し変わる。
慎太郎「来るってよ」
樹「急にテンション上がるな」
風磨がちらっと北斗を見る。
風磨「北斗、平気?」
北斗は淡々と。
北斗「別に。普通に飯食ってるだけでしょ」
でもグラスを持つ手は、ほんの少しだけ力が入っていた。
数十分後。
個室の前で足音が止まる。
コンコン。
ドアノブがゆっくり回る。
ーーーー
〇〇side
撮影終わりの控室。
衣装を着替え終えて、やっとソファに沈み込んだ瞬間、スマホが震える。
画面には 風磨 の名前。
〇〇「もしもし?」
風磨の軽い声が聞こえる。
風磨『今な、北斗、慎太郎、樹、俺で飯食ってんだけど』
〇〇は少し笑う。
〇〇「なにそれ、絶対うるさいじゃん笑」
向こうから慎太郎の声が遠くに聞こえる。
慎太郎『スピーカーにしろよ!』
〇〇はくすっと笑う。
樹『今日仕事終わったんだろ?来いよ』
〇〇は少しだけ天井を見る。
正直、疲れてはいる。でも――
〇〇「えー……どうしよ」
本音は、少しだけ顔を出したい。
風磨『今日くらいいいしょ』
ほんの数秒考えてから。
〇〇「……場所どこ?近いなら行く!」
送られてきた住所を確認し、立ち上がる。
〇〇(ちょっとだけ顔出すだけ。ほんとにちょっとだけ)
バッグを持ち、控室を出る。
ーーーー
店 ― 4人side
電話が切れた瞬間。
慎太郎「来るってよ」
樹「マジで来るんだな」
風磨はスマホを置き、北斗を見る。
北斗は水を一口飲んでいるだけ。
風磨「……北斗」
北斗「なに」
樹「このままだと、ほんとに取られるぞ」
空気が少しだけ静まる。
慎太郎「今日のTIFF見ただろ。廉と並んでたとこ」
北斗は表情を変えない。
北斗「仕事でしょ」
風磨「仕事でも距離近かったけどな」
樹「歓声もすごかったしな。あれ見て何も思わないなら嘘だろ」
北斗は少しだけ視線を落とす。
北斗「……思わないわけじゃない」
慎太郎「じゃあ動けよ」
風磨「マジで言うけど、あいつ鈍いぞ。でも、誰かが本気でいったら普通に持ってかれるタイプだぞ」
樹「北斗が何も言わなきゃ、そのまま流れる」
沈黙。
北斗は箸を置く。
北斗「……今はいい」
慎太郎「よくねーって」
風磨「今日呼んだのはな、別に冷やかしじゃねぇからな」
樹「自分の気持ち、ちゃんと自覚しろよ」
北斗は小さく息を吐く。
北斗「分かってるよ」
その声はいつもより少しだけ低い。
慎太郎「来たらどうすんの?」
北斗「……普通にする」
風磨「それが一番怪しいんだよ」
全員、少しだけ笑う。
でもその笑いの奥には、本気の心配がある。
樹「ほんと、このままだと廉に取られるぞ」
北斗は何も言わない。
ただ、ドアの方を一瞬だけ見る。
その時――
コンコン。
個室のドアがノックされる。
4人の視線が一斉に向く。
一瞬で個室の空気が変わる。
慎太郎「来た」
樹「急に静かになるなよお前ら」
風磨がニヤッと笑いながら「どうぞー」と声をかける。
ドアがゆっくり開く。
〇〇「おつかれさまー」
ラフな私服に着替えた〇〇が顔を出す。
TIFFの華やかな姿とは違う、少し力の抜けた雰囲気。
慎太郎「ほんとに来た!」
樹「おつかれ、スター」
〇〇「やめてよそれ!!」
笑いながら入ってくる。
北斗は一瞬だけ目を合わせる。
ほんの一瞬。
〇〇「北斗もおつかれ」
北斗「おつかれ」
声はいつも通り。
でも心臓は少しだけうるさい。
〇〇が席を見回す。
テーブルは四人が横並びと向かいで座っている配置。
一席だけ空いている。
問題は――どこに座るか。
慎太郎がわざとらしく言う。
慎太郎「ここ空いてるよー?」(北斗の隣をトントン叩く)
樹「いやいや、こっちでもいいよ?」(自分の隣を示す)
風磨は黙って様子を見る。
〇〇は少し笑いながら、
〇〇「なんでそんな必死なの笑笑」
そして自然に――
北斗の隣に座る。
「ちょっとだけだからね」と言いながら。
慎太郎がすぐに樹と目を合わせる。
樹(来たな)
風磨はグラスを持ちながら平然と。
北斗は表情を変えない。
でも。
近い。
思ったより近い。
香水でもなく、シャンプーの匂い。
TIFFの時とは違う、素の匂い。
〇〇「なに話してたの?」
慎太郎「北斗の恋バナ」
北斗「してない」
即答。
〇〇「え、なにそれ!!」
樹「なんでもないなんでもない」
風磨がわざとらしく話題を変える。
風磨「TIFFどうだったよ」
〇〇「緊張したー。でも楽しかった」
楽しそうに話す横顔が近い。
北斗は横目で見ないように、正面の皿を見る。
(取られるぞ)
さっきの言葉が頭の奥で響く。
廉の名前は出ていない。
でも、浮かぶ。
レッドカーペットで並んでいた姿。
歓声。
(仕事だろ)
そう自分に言い聞かせる。
〇〇がふと北斗の方を見る。
〇〇「北斗は?」
「今日どうだった?」という意味。
北斗「普通。舞台挨拶って感じ」
〇〇「絶対嘘。緊張してたでしょ」
笑う。
距離が、近い。
慎太郎が小声で樹に。
慎太郎「普通に隣座ってるし」
樹「無意識が一番怖い」
風磨はグラスを置く。
風磨「北斗」
北斗「なに」
風磨「ちゃんとしろよ」
〇〇「え、なにが?」
全員が笑ってごまかす。
でも北斗の中ではごまかせない。
(今はいい、って言ったよな)
自分で言った言葉。
でも。
隣で無邪気に笑っている〇〇を見ると、
“今は”でいいのか分からなくなる。
〇〇「なんかみんな今日変じゃない?」
慎太郎「気のせい!」
樹「平常運転!」
風磨「北斗が静かなだけ」
〇〇「いつもじゃん」
そう言って、何も知らない顔で笑う。
北斗は小さく息を吐く。
(このままだと廉に取られるぞ)
また、言葉がよぎる。
隣にいるのに、距離がある。
言えば変わるかもしれない。
言わなければ、このまま。
〇〇が箸を取りながら、ふと北斗に近づく。
〇〇「それ取って」
肩が軽く触れる。
一瞬。
心臓が跳ねる。
北斗「……はい」
平静を装う。
慎太郎はそれを見逃さない。
慎太郎(終わってるな、これ)
樹(完全に好きだろ)
風磨は静かに笑う。
夜はまだ長い。
でも――
北斗の中で、何かはもう、静かではなかった。
料理も進んで、空気もだいぶ和んだ頃。
樹がわざとらしく言う。
樹「そういえばさ」
慎太郎「ん?」
樹「今日、廉いなかったな」
その名前が出た瞬間。
北斗の指が止まる。
〇〇は普通に答える。
〇〇「今日別の現場じゃなかった?」
風磨「TIFF終わり、連絡取ってないの?」
〇〇「取ってないよ?なんで?」
自然すぎる声。
でも北斗の胸の奥はざわつく。
慎太郎「廉さー、今日の〇〇見てたらしいぞ」
〇〇「え、なんで知ってるの?」
風磨「言ってた」
嘘でも本当でもない曖昧な言い方。
北斗は水を飲む。
(やめろ)
聞きたくないわけじゃない。
でも、聞きたいわけでもない。
〇〇「ふーん」
本当にそれだけ。
深い意味はない顔。
でもそれが逆に怖い。
その時。ーー
〇〇が立ち上がろうとして、
「あっ」
足が椅子に引っかかる。
体が傾く。
反射的に北斗が腕を伸ばす。
支える。
思ったより近い。
顔と顔の距離が一瞬で縮まる。
静止。
時間が止まったみたいに。
慎太郎「うわ」
樹「映画かよ」
風磨は黙って見ている。
〇〇「ご、ごめん」
慌てて離れる。
北斗「気をつけて」
声が低い。
心臓はうるさい。
〇〇は何もなかったみたいに笑う。
〇〇「ほんと最近疲れてるのかも笑」
でも北斗は違う意味で限界だった。
触れた腕の感触が残っている。
隣にいる。
でも遠い。
樹が小声で。
樹「マジで言うぞ」
風磨「うん」
慎太郎「このままだと」
三人同時に小さく。
「廉に取られるぞ」
北斗は目を閉じる。
そして。
ゆっくり開ける。
隣で笑う〇〇を見る。
今はまだ、言えない。
でも――
“今は”がいつまで続くのか。
それだけは、もう分からなかった。
店の空気は少し落ち着いていた。
〇〇は何も知らない顔で水を飲み、ふと何気なく言う。
〇〇「そういえばさ」
全員がなんとなく見る。
〇〇「今度、廉の家行くことになったんだよね」
――止まる。
空気が。
慎太郎の箸が止まり、
樹がゆっくり顔を上げ、
風磨は目だけ北斗を見る。
北斗は、動かない。
〇〇「次のオフ、ゆっくりしたいって言ったらさ、家で過ごそうって」
無邪気。
何の計算もない声。
慎太郎「……二人で?」
〇〇「うん。外出られないし」
その“うん”が、やけに軽い。
北斗の喉がわずかに動く。
風磨があえて聞く。
風磨「泊まりとかじゃないよな?」
〇〇「は!?違うし!」
顔を赤くして否定する。
でもそれが逆にリアル。
樹「へぇー」
慎太郎「家、ねぇ」
北斗は静かにグラスを置く。
音が、やけに大きく響く。
〇〇「なにその反応」
慎太郎「いや、なんでも」
風磨「楽しみなんだ?」
〇〇は少しだけ照れて、
〇〇「まぁ……ゆっくりできるのは嬉しい」
その言葉。
北斗の胸に刺さる。
(家)
(ゆっくり)
(嬉しい)
全部が重い。
慎太郎がわざとらしく明るく言う。
慎太郎「北斗どう思う?」
急に振られる。
北斗は数秒黙る。
〇〇が見る。
何の警戒もない目で。
北斗「……別に。いいんじゃない」
それだけ。
声は普通。
でも、手は強く握られている。
樹が小さくため息。
風磨は静かに言う。
風磨「北斗」
北斗「なに」
風磨「ほんとにそれでいいのか」
〇〇「え、なにそれ?」
また分かってない顔。
北斗は一瞬だけ〇〇を見る。
言えるタイミングだった。
でも。
言わない。
北斗「俺が口出すことじゃない」
静かな声。
〇〇は少し首をかしげる。
〇〇「そっか」
その一言で終わるはずだった。
でも。
北斗は、グラスを置く。
今までで一番はっきりした音。
全員が見る。
北斗「よくない」
空気が凍る。
〇〇「え?」
慎太郎も樹も風磨も、息を止める。
北斗は〇〇を見る。
逃げない目で。
北斗「よくないって言ってる」
〇〇「……なんで?」
静かな声。
北斗「家、行くんでしょ」
〇〇「うん」
北斗「簡単に言うなよ」
その声は低くて、少しだけ震えている。
風磨が小さく「やっとか」と呟く。
〇〇「なんでそんな言い方するの」
北斗は一瞬目を閉じる。
そして。
北斗「俺は嫌だ」
はっきり。
全員が固まる。
〇〇の目が揺れる。
〇〇「……え?」
北斗「嫌だって言ってる」
言った。
ついに。
慎太郎が小さくガッツポーズ。
樹は息を吐く。
〇〇「それってどういう……」
北斗「分かんないならいい」
強く出たはずなのに、最後で少しだけ逃げる。
でも。
〇〇はじっと北斗を見る。
その視線に、迷いはない。
〇〇「……私、北斗に嫌って言われるの、嫌なんだけど」
空気が変わる。
北斗の眉がわずかに動く。
〇〇「なんかさ、北斗に言われると一番刺さる」
無意識。
計算ゼロ。
風磨が小声で。
風磨「今のは選んでる」
樹「完全に」
慎太郎「本人だけ気づいてない」
〇〇「なんで?」
北斗はゆっくり言う。
北斗「……俺がどう思ってるか、本気で分かんないの?」
その瞬間――
ブブッ
スマホが震える。
〇〇のスマホ。
画面が光る。
“廉”
最悪のタイミング。
全員が見る。
〇〇「あ」
北斗の視線が落ちる。
風磨「出るの?」
〇〇は数秒迷う。
そして――
画面を伏せる。
〇〇「あとでかけ直す」
その一言。
北斗の呼吸が止まる。
慎太郎が目を見開く。
樹が小さく「マジか」と呟く。
風磨は静かに笑う。
北斗を見る。
〇〇は北斗の方に向き直る。
〇〇「で?」
完全に向き合う体勢。
無意識に、廉より北斗を選んだ。
北斗はそれに気づいている。
でも信じきれない。
〇〇「さっきの続き」
北斗の喉が鳴る。
今なら言える。
でも――
怖い。
失うのが。
〇〇は少しだけ近づく。
〇〇「私、北斗に嫌って言われたくない」
静かな声。
北斗の心臓がうるさい。
外の世界は止まっているみたい。
慎太郎たちは完全に空気になっている。
北斗は、覚悟を決めるかどうかの境界線に立っていた。
ーーーー
北斗side
〇〇「私、北斗に嫌って言われたくない」
その言葉。
北斗の胸の奥が大きく揺れる。
今なら言える。
“嫌なんじゃない、好きだから嫌なんだ”って。
喉まで上がる。
でも。
怖い。
関係が壊れるのが。
今の距離がなくなるのが。
北斗は一瞬、〇〇の目を見る。
真っ直ぐで、何も知らない目。
北斗「……別に、嫌いとかじゃない」
逃げた。
あと一歩。
あと一言。
言えば変わったのに。
〇〇「じゃあなんで嫌って言ったの」
北斗は黙る。
沈黙が重い。
慎太郎が小さく「言えよ」と呟く。
風磨も樹も、黙って見ている。
北斗「……心配なだけ」
出た言葉は、それ。
弱い。
〇〇は少しだけ眉を寄せる。
〇〇「心配?」
北斗「仕事柄、色々あるだろ」
本心じゃない。
でも本心でもある。
〇〇は数秒、北斗を見つめる。
何かを探すみたいに。
その時――
ブブッ
またスマホが震える。
同じ名前。
“廉”
今度は長い。
着信。
個室に振動音が響く。
慎太郎「うわ……」
樹「タイミング悪すぎ」
風磨は北斗を見る。
試されてる。
〇〇はスマホを見る。
迷う。
北斗は視線を落とす。
(出ろよ)
(出なかったら期待するだろ)
矛盾した感情がぐちゃぐちゃになる。
〇〇「……ごめん、ちょっと出るね」
立ち上がる。
北斗の胸が締まる。
ドアの前で、〇〇は一瞬だけ振り返る。
北斗と目が合う。
そして外へ。
ドアが閉まる。
沈黙。
慎太郎「……なんで止まるんだよ」
北斗「うるさい」
樹「今だったろ」
風磨は静かに言う。
風磨「選んだぞ、さっき」
北斗は拳を握る。
分かってる。
廉の着信を切った。
あれは事実。
でも。
今、出た。
廊下の向こうで小さく話し声がする。
北斗の呼吸が浅くなる。
(取られる)
さっきより、現実味を帯びて。
数分後。
ドアが開く。
〇〇が戻ってくる。
少しだけ表情が柔らかい。
慎太郎「何だって?」
〇〇「今度のオフの確認」
さらっと言う。
北斗の視線が揺れる。
〇〇「やっぱり行くことになりそう」
その一言。
静かに、確実に刺さる。
でも。
〇〇は北斗の隣に座る。
自然に。
何事もなかったみたいに。
それが余計に残酷だった。
北斗は横を見ない。
見たら揺らぐ。
〇〇「北斗」
名前を呼ばれる。
低い声で返す。
北斗「なに」
〇〇「さっきの続き、今度ちゃんと聞くから」
小さく笑う。
“今度”
その言葉が、希望なのか、終わりの予告なのか。
北斗にはまだ分からなかった。
ーーーー
〇〇side📞
店の外、少し離れた場所。
〇〇「もしもし」
廉『やっと出たな』
〇〇「ごめん、ご飯中で」
廉『知ってる』
〇〇「え?」
廉『さっき樹から写真きたわ。四人+〇〇』
軽い声。でも探ってる。
廉『北斗の隣、座ってたな』
〇〇「たまたまだよ」
即答。悪気ゼロ。
廉は一瞬黙る。
廉『〇〇さ』
〇〇「ん?」
廉『俺、この前ちゃんとしたよな』
少しだけ胸がざわつく。
〇〇「……うん」
廉『あれ、酔ってたからとかちゃうで』
真面目な声。
廉『意思あってやった』
〇〇は静かになる。
廉『だから今も本気や』
はっきり。
廉『北斗、なんか言われた?』
〇〇「え?」
廉『あいつ、分かりやすいからな』
〇〇「心配って言ってた」
廉『……それだけやと思う?』
〇〇は少しだけ考える。でも結論は同じ。
〇〇「仲間だからでしょ」
廉は小さく息を吐く。
廉『〇〇、鈍い』
〇〇「なんでよ」
廉『俺は取られる気ないで』
静かだけど強い。
廉『オフの日、ちゃんと話そ。逃げんなよ』
〇〇「逃げないよ」
廉『ほな約束な。楽しみにしとく』
電話が切れる。
〇〇は一瞬立ち止まる。
でもまだ、北斗の気持ちには結びつかない。
一方その頃ーーーーー
ドアが閉まる。
慎太郎「今の廉だろ」
北斗「知らない」
樹「嘘つけ」
風磨は真顔。
風磨「北斗」
北斗「なに」
風磨「時間ないぞ」
慎太郎「マジで」
樹「今日“嫌だ”まで言ったのに止まったろ」
北斗は黙る。
風磨「〇〇は気づいてない」
慎太郎「でも廉は気づいてる」
樹「差、そこ」
静かな圧。
風磨がはっきり言う。
風磨「最後通告な」
北斗はゆっくり目を上げる。
風磨「次会うまでに決めろ」
慎太郎「言うか」
樹「失うか」
北斗の拳が膝の上で強く握られる。
風磨「仲間のままがいいなら止めない」
慎太郎「でもその代わり、廉に持ってかれても文句言うな」
樹「〇〇は選ばれる側じゃない。選ぶ側だ」
その言葉が刺さる。
風磨「今日、電話出たぞ」
慎太郎「一回は切った。でも二回目は出た」
北斗は静かに言う。
北斗「……分かってる」
風磨「分かってるだけじゃ意味ない」
沈黙。
外で足音が近づく。
〇〇が戻る。
何も知らない顔で。
でも。
もう、カウントダウンは始まっている。
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