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家の前まで帰ってくると、街灯が私たちの影を長く伸ばしていた。
お互いの玄関は、もう目と鼻の先。
「……ねえ、遥」
「なんだよ」
遥は家の鍵を取り出しながら、一度もこちらを見ようとしない。
「私、やっぱりスコアラー続ける。今日、全然ダメだったからこそ、もっとちゃんと先輩の……ううん、テニス部の力になりたい」
「……勝手にしろ。また泣いても知らねーぞ」
ぶっきらぼうな言い方だけど、そこに突き放すような冷たさはなかった。
「……あとね、さっき凌先輩が言ってたこと。遥と打ち合うって……遥、本当は部活入るつもりだったんでしょ?」
遥の動きが止まった。
彼はそのまま黙って自分の家のドアを開け、家の中の明かりが漏れる暗い玄関へと踏み出した。
「……さあな。あんなボロボロの兄貴に勝っても、面白くねーし」
最後にそう言い残して、ドアは静かに閉まった。
自分の部屋に戻り、私は机に向かった。
成瀬先輩から預かったノートを開く。
そこには、遥がさっき走り書きしたスライスの記号が残っていた。
乱暴な字だけど、誰よりもテニスを理解している人の字。
私はペンを握り直し、今日凌先輩がミスをした瞬間の状況を、記憶を辿りながら余白に書き込み始めた。
憧れの凌先輩を支えるために。
そして、いつかコートに立つかもしれない、隣のあいつのために。
ふと窓の外を見ると、隣の部屋から、ガットを張るような「ギギッ」という乾いた音が聞こえてきた。