テラーノベル
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数日後の朝。
いつものように玄関を開けると、遥が家の前で待っていた。
でも、今日の彼はいつもと少しだけ雰囲気が違った。
「……おはよ」
「おはよ。……えっ、遥。それ……」
私は、遥が肩に担いでいる大きなエナメルバッグに釘付けになった。
昨日までは普通の通学カバンだけだったのに、そのバッグの隙間からは、見覚えのあるラケットのグリップが突き出している。
「……なんだよ。ジロジロ見んな」
「だって、それ! テニス部のバッグじゃない! 入部届、出したの!?」
私が思わず身を乗り出すと、遥は顔を背けてズンズンと歩き出した。
「うるせー。……兄貴があんな情けない負け方すんの、見てらんねーんだよ。あいつが引退する前に、一回くらい引きずり下ろしてやんねーと気が済まねーだろ」
ぶっきらぼうな言い方だけど、それは遥なりの、凌先輩への「宣戦布告」であり「エール」なんだと分かった。
私は嬉しくなって、遥の隣に並んで跳ねるように歩く。
「やったね! 遥が入るなら、私のスコア付けももっと気合入るよ。遥のデータもバッチリ取るからね!」
「……お前の下手くそなスコアなんて、あてにしてねーよ。せいぜい足を引っ張んな」
口を開けば憎まれ口ばかり。
でも、学校の正門をくぐったとき、遠くのコートから聞こえてくる打球音に、遥の目が鋭く反応したのを私は見逃さなかった。
テニスコートへ着くと、そこには練習を始めようとしていた凌先輩と成瀬先輩の姿があった。
遥はバッグを地面にドサッと置くと、真っ直ぐに二人の元へ歩いていく。
「……遅くなりました。今日から、混ぜてもらいます」
凌先輩が、驚いた後に、これまでで一番晴れやかな顔で笑った。
「……待ってたよ、遥」
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