テラーノベル
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……カイに、会いたいと思った。
けれど、会って何をどう話したらいいのかもわからず、ましてその場しのぎな言葉をかけたところで、何の解決にもならない気がした。
「カイ……」
彼の連絡先に目を落としたまま、店を出てしばらく歩いてきた人《ひと》気《け》のない路上で、途方に暮れて立ちすくんでいると、
不意に何処かから、歌声が切れ切れに聴こえてきた。
「……誰か、歌ってる」
声に誘われるように、路地の奥を抜けて行くと、目に入った高架下の暗がりに、胸に片手を当てるようにして立ち、歌っている人影があった。
見ればそれは、紛れもない、カイの姿だった──。
「カイ……」
歌っている邪魔にならないよう、そっと近づき、少し離れたところから眺めると、彼は時折り高架を走る電車の音に被せるようにして、声を発していた。
高く、澄んだ、艶のある美しい声だった。
暗闇に差し込む街灯の光が、スポットライトのように彼を照らして、まるでオーラのようにぽぅーっと白くその全身を浮かび上がらせていた……。
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