テラーノベル
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静かに見守っているつもりだったのに、足元でつい砂利を踏んづけてしまった。
ガリッ…という耳をつく渇いた音が響いて、彼が顔をこちらに向けた。
「誰…だ…」
「……カイ……あの、ごめんなさい。邪魔をして……」
謝罪を口にしつつ、警戒心を露わにする彼の前へおずおずと進み出ると、
「……なんだ、あんたか…」
カイはホッとしたような表情を見せた。
「そっと見て、帰ろうとも思ってたんだけど……」
「あんたならいい…別に…」
ぶっきらぼうにも言うカイに、
なんだか嬉しみが込み上げるようで、「ありがとう…」と、小さく口にする。
「……もし、あいつだったらとも、思ったから……」
続く彼の言葉に、さっきの出来事がつぶさに甦る。
「あいつって……もしかして、シュウのこと?」
尋ねると、彼は「ああ…」と、短く頷いた。
「……そう。ねぇカイは、いつもここで歌ってるの?」
それ以上は何も語らない彼に、そう尋ねると、
「いつも、ここで歌ってる……」
ボソリと返事が戻された。
「……シュウたちから、逃げるために……?」
核心に触れることを訊いても、答えてはくれないかもしれないと思いつつも、訊かずにはいられずに問いかけると、
「……。……なんか、知ってるのか…あんた…」
再び警戒するように、カイが少し後ずさり私から距離を取ろうとした。
「……。……さっき、シュウに会って、話をされたから、それで……」
事の真意を告げると、
「あいつに?」
と、カイは驚いた顔をして、
「なんか言われたのか…あいつに…」
探るようにも訊いてきた。
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