テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
───『擬態』の最も大きなメリットが何か問われればその多くは人間になる事で、その中に紛れ込める事を挙げるだろう。
ハーデスにもそれが当てはまるが、他にも幾つかの利点が『擬態』にはあった。
魔王として隠し切れぬ威圧感、口から出る悪魔の呻き声より尚おぞましい声。
その上の二つを『擬態』によって無くす事が出来る。
『擬態』は人間になる為の魔法であり、己が|異種族《あくま》である事を隠せなければ意味はない。
その事をハーデスもよく知っており己の魔力にものを言わせ『擬態』の効力を上げる事によってその威圧感を完全に抑え、おぞましい声も思わず聞き入ってしまう美声へと変えた。
最も声こそ変わったがその口調を変える事は出来なかったようだ。
その『擬態』の効力に感謝しながら今し方、助けた男にハーデスは声をかけた。
しかし、男に反応はなく何処か魅入ったようにこちらを見つめていた。
その様子に小さくため息をついたハーデスは軍刀に付着した狼の血を払い『次元箱』に仕舞う。
先程ハーデスが使用した軍刀は白狼剣と呼ばれ、神を殺す事が出来る唯一の存在であるフェンリルの牙を使って作られた神殺しの剣である。
本来は白い刀身であったが神の血を吸いその色を黒く変色させた。
決して壊れる事のない耐久性と抜群の切れ味、そして神を最も恐れさせた不死殺しという効力を持ち、その剣で切れば決して癒えぬ傷を与え、神秘すらも否定しあらゆる物を切り裂く事が出来るとされる魔剣である。
少なくともそこらにいるような有象無象に使っていい物ではない。
「貴様、余の問いに答えられぬ申すか」
「え、あ、あぁ」
何時まで経っても反応のない男に声をかければ男は面白いように狼狽えその反応にハーデスは小さく笑った。
あっ、と。
その笑い声に我に返った男は羞恥に顔を赤く染めながら頭を下げた。
「あ、ありがとうございました。
何方かは存じ上げませんが、命の危機をお助け頂き、感謝の言葉しかありません。
お礼について───」
「動くな」
「へっ?」
頭をペコペコと下げながら呪文のように感謝の意を唱える男の言葉をハーデスは遮り、男の近くまで移動すると右手を向けた。
その一連の行動に男が間の抜けた声を漏らすがハーデスは特に気にする事もなく、一言口にはする。
「【治療】」
ハーデスの一言と共に魔法陣が現れ淡い青色の光が男を包んだかと思うと大小様々なその体に痛々しく残る傷が癒えていくのを男は驚愕に満ちた表情で見ていた。
「回復魔法が使えるのですかっ!」
興奮したように声を出す男の姿にハーデスは早々に己のミスを悟る。
(ここまで驚くって事は回復魔法の存在自体はあるが使える者が限られている事になる。
だが、幾ら傷が気になったからと言って魔法を使うのは不味かったな。
まだこの世界に魔法がある事も分かっていなかったのに使ってしまった。
まぁ、この男の反応で魔法自体がある事は分かったが今のは完全に思慮の浅い行動だった。)
ギリっと歯を噛み締め自身の失態に後悔を示すハーデス。
そんな最中にも興奮した男は次々と言葉を紡いでいった。
「いやぁ、回復魔法については知識として存じ上げていましたが実際に体験するのは初めてですよ。
ここまで凄いものとは思ってもみなかったです。
回復魔法の使い手は数が少ない上、大抵は宮廷魔道士として仕えていますからね庶民がその魔法を体験する事なんてないと思っていたのですが、いやぁ、珍しい体験をしましたよ。
ここまでの回復魔法を使えるという事は貴方様はさぞ高名な方なのでありましょう。
そんな、御方に助けて頂けるとは⋯⋯。このメイン・エンディ一感謝の言葉が尽きません。
是非とも感謝の印として───」
「奉謝も世辞の言葉もよい。
貴様は黙って余の問いに答えよ」
「いえいえ世辞でございません、私は貴方様に命を救って頂き私めの為に魔法を使って傷を治して頂いた。
これで感謝を示せねば私は人として終わってしまう!
先の言葉とは私めが真にそう思いただ述べているだけに過ぎません。
どうか私めに貴方様に───」
「メイン・エンディー、貴様は黙って余の問いにだけ答えよ」
───有無を言わさぬその言葉には言いようのない威圧感を感じ、思わず言葉を中断するもそれでも尚口を開こうとする男メインをハーデスが睨む。
鋭く射抜く赤い瞳が言外に次はないと、雄弁に語っており長々と言葉を紡いでいたメインも流石に口を閉じた。
その様子にハーデスは漸くか、心中でごちた。
「余が問う事は一つ、貴様の身に何が起きたか答えよ。
貴様が受けていた傷の中には、簡単には付かぬものもあった。
それこそ拷問でも受けぬ限りな」
「・・・っ───」
「虚偽の類は許さん
嘘偽りなく真実のみ述べよ」
ハーデスの言葉にメインの顔が強張るの確かに見た。
そうメインには幾つもの拷問の後があった。
その痛々しい姿にハーデスは思わず魔法使ってしまったのだ。
一度関われば多少なりとも情は湧く。
それが怪我人であったなら尚の事だ。
故に、ハーデスはメインに訪ねる事にした。
拷問が誰の仕業か知るために。
「私めの命を助け、その上で傷まで治して頂きました。
私めを救ってくれた他でもない貴方様になら話しても構わないでしょう。
ただ、出来るならば他言無用でお願い致します。
言った所で誰も信じてくれないでしょうが万が一にも事が大きくなる事を避けたいのです」
「うむ、承知した。誰にも口外せぬと誓おう。
続けよ」
「ありがとうございます。
この事を話すに至ってまず私めの身の上を語らねばなりません。
詰まらない話になりますが大丈夫でしょうか?」
「無用な心配だ。貴様は気にすること無くただ事実だけを述べよ」
「では。⋯⋯私めは『スヴェリア王国』の王都オリオンに居を置く商人で御座います。
父と母の後を継ぎ私めを含む3人の兄弟で店を切り盛りしておりました。
ご贔屓にして下さるお客様のお陰もあって少しずつ店は大きくなり、それに伴い幅広いお客様に満足して頂けるよう色々と手を尽くしました。
そのお陰もあって何と貴族様からの御依頼を受ける事になったのです。
ただ、お受けしたのはいいのですが恥ずかしい話材料が途中で足りなくなり作業を中断する羽目になりました。
急いで材料を入手しようとしたのですが、何分希少な物であったので手に入ることもなく、半ぼ諦めていた所に弟からある情報が入ったのです。
王都オリオンから南西に位置する商業都市ブメールに探している材料があるとの事でした。
その情報を聞いた私めは2人の弟と共にブメールに向かい、交渉の末必要な材料を入手する事が出来ました。
その帰りの道中で私達は化け物に出くわしました」
「化け物・・・・・・」
その時の事を思い出したのか体を震えさせながらメインは続けた。
「最初に異変に気付いたのは道中の護衛をして頂いていた冒険者の方でした。
私めは冒険者の指示を聞いて馬車を止め、周囲を警戒する冒険者の方に後の事をお任せしました。
私めはただの商人でしかありませんのでこういった場面では本職の方にお任せするのが一番だと、判断したためです。
そんな中、化け物は突如として現れ護衛をして頂いていた冒険者の方々をあっという間に殺害しました。
その光景は今でもはっきりと覚えております」
死んでいった冒険者を思い出したのか、メインは悲しげな顔をしていた。
それでも、話を辞める事はなくその口で続きを紡いだ。
「化け物は冒険者の方々を殺害すると恐怖に震えていた私達を見て笑み深めると私達に近づき弟のモブの首を締めながら、私めに問いかけてきました。
この世界の名は何だ、と。
そうです、化け物は人間の言葉を口にしていました。
驚きや恐怖はありましたがそれでも化物の問いに答える気はありませんでした。
冒険者の方々を躊躇いなく殺すような化け物です。
素直に答えても生かしてくれる可能性は低いと判断しました。
それに化物はどうも情報を欲しがっているように思えたのでそうした方がまだ生かしておくのではないかと考えたからです。
ですが、答える様子のない私めを見た化け物はモブの右腕をへし折りながらこう口にしていました。
『素直に吐くのが先か、死ぬのが先か試してみるにゃ』と」
(ん?)
聞き覚えのある語尾が特徴な喋り方にハーデスは嫌な予感がした。
「その言葉をきっかけに化け物は私達に拷問をかけ始めました。
私達の悲鳴を聞く度に笑みを深くする姿に隠しきれぬ嗜虐性を垣間見て私めは自身の選択の間違いに気付きました。
その拷問で2人の弟は死に絶え、欲しい情報を得たのか化け物は私めを放置してその場を去りました。
今に思えば、きっと放置して置いても私めが死ぬと分かっていたからあの場で殺さず放置していったのでしょう。
拷問の影響で痛む体を無理して動かし、私めはオリオンを目指しました。
化け物について冒険者組合に報告する為でもありましたが、弟達の亡骸を早く回収したかったからです。
その道中で貴方様に助けて頂きこうして今、生きております。」
「うむ、貴様の境遇しかと理解した。
ただ一つ問いたい事がある。その化け物はどのような姿をしていた?」
悲しそうな顔で話し終えたメインにハーデスは問いかける。
出来れば外れていて欲しいと思いながら。
「妙な出で立ちをしておりましたので、よく覚えております。
貴族の使用人が着るような服を着用した、人間と同じ体つきの猫でした。」
「猫だと・・・」
「はい、それ故に恐らく冒険者組合に報告した所で笑われるだけであろうと後から気付きましたよ」
ハハハ、と力なく笑うメインを見てハーデスは右手で目を覆い思わず天を仰いだ。
(レヴィアタンッ!!)
明らかに身内であった───。