テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「どうかなさいましたか?」
「貴様が気にする事ではない。
ただ、思案しておっただけの事よ」
「そうで御座いますか」
言える筈がない。
メインを拷問にかけ弟達を殺した犯人が身内であると、誰が口に出来よう。
更に付け加えるなら、情報を集めてくるよう命じたのも他ならぬハーデスである。
考えようによっては間接的に殺した事になる。
───こんな時、どんな反応をしたらいいの?
少なくとも笑ってはいけない場面であるのは理解出来た。
さて、どうしたものかと思案するハーデスに申し訳なさそうにメインが声をかけた。
「考え事の最中に申し訳ございません。
出来れば私めの話を聞いて欲しいのです」
「⋯⋯許す。申してみよ」
「はい、ありがとうございます。
命を助けて頂いた身で非常に申し難い事なのですが私めのお願いを聞いて欲しいのです」
「願いか。よい、申してみよ。
可能な限り答えてもやろう」
「ありがとうございます。
不躾なお願いであるのは承知しているのですがよろしければ私めを王都オリオンまで護衛して頂けないでしょうか?」
「護衛か」
「はい、私めは大した力を持たない一商人に過ぎませんので先程のようにモンスターに襲われれば大した抵抗も出来ずに殺されてしまうでしょう。
ですが、私めはまだ死ぬ訳にはいきません。
弟達に後の事を託されたのです。
弟達の命の分まで私めは生きねばなりません。
ですので、無礼を承知でお願い致します。
貴方様に私めの道中の護衛をして頂けないでしょうか?
可能な限り先程命を助けて頂いた分も含めて謝礼を払います。
どうか、私めのお願いを聞いて下さいませ」
跪き両手を地面につけ頭を下げ、土下座をするメインを視界に入れながらハーデスは思考を巡らした。
メインのお願いを断る理由はないだろう。
元より根本的な原因を作ったのは自分であるし、何より行き先がハーデスが目指していた場所と同じである。
その上で謝礼まで貰えるという。
王都オリオンまでの道中、メインを気にしなければいけなくなるが必要な情報を得る事も出来るだろう。
断る理由などないに等しい。
その結論に至ったハーデスは土下座をするメインの肩にそっと手を置く。
この際、非常に気を使ったのは言うまでもない。
力加減を誤ってメインの肩を砕くなんて事がハーデスの体では起こりうるのだ。
「案ずるな。貴様のその願いは余が叶えよう」
ハーデスの言葉にガバッと顔を上げるメインを見てハーデスは微かに笑った。
魔王としてではなく人間としてのその笑みは思わず見惚れてしまうものであった。
はっ、と我に返ったようにメインは頭を何度も下げ感謝の言葉を口する。
何度も言うが、事の原因は目の前のハーデスである。
その事を知らず感謝の言葉を口にするメインが何と不憫な事か。
殺されたモブとサブも草葉の陰できっと泣いているだろう。
───メインのその反応をハーデスは大方予想していたが実際目で見るとでは違う。
壊れた玩具のように頭を下げては感謝の言葉を述べるメインに肩に置いていた手を離し、ハーデスは思わずため息をついた。
「それ以上の奉謝は不要よ。
何より時間の無駄である、早々に止めよ」
どこか呆れたように口にするハーデスの言葉に、メインの動きが止まり照れくさそうに笑いながらゆっくり立ち上がった。
服についた土を簡単に落とした後、頭を掻きながらメインは『それもそうですね』と小さく呟いた。
「そういえばまだ、きちんと自己紹介してませんでした。
私めの名前はメイン・エンディーと申します。
先の話の通り、王都オリオンに居を置く商人で御座います。
失礼ですが貴方様のお名前は?
オリオンまでの道中を護衛して頂きますし、何より命の恩人ですので名を知っておきたいのです」
ふと、思い出したように自己紹介したメインの言葉にハーデスはある事で悩んでいた。
名を名乗るのは問題ない。
『ディストピア』であれば名を名乗るだけで大騒ぎになっただろう。
幸いにも、この世界でハーデスの事を知る者は僕である悪魔達だけである。
その為、名を名乗るのは何の問題もない。
だが、身分についてどうするかはまだ決めていなかった為、非常に悩んだ。
この身なりや口調から旅人、あるいは庶民(へいみん)で通すのは無理があるだろう。
だからと言って庶民が着るような質素な服を着る事も出来ない。
何故ならハーデスのこの体がそのような服を着るのは嫌だと明らかに拒絶しているからだ。
何という我儘な。
それに何より、このハーデスの口調をどうにか出来ないのだから服が多少変わろうと意味はないだろう。
ならば、何て言えば不自然じゃない。
どうしたらいい。
必死に思考を巡らし、そして───。
「余の名はハーデス・デイモンロード。
元、貴族だ」
───この時に咄嗟に決めた設定が非常にややこしい事態を生むのだが、ハーデスは知らぬ事である。
✱
「急ぐぞ」
「はい」
───騎士の身形をした彼らは騎士団長の命で『ブラックダック』と呼ばれる山賊の討伐の為に動いていた。
その際、タエキ村と呼ばれる農村に山賊が向かったという情報を手に入れた彼らは被害を少しでも減らす為に救援に向かう事にした。
その最中、彼らが向かう先で巨大な火柱が天に向かって昇るのを確かに見た。
明らかに異常な光景に救援に向かう全員に緊張が走る。
「シド隊長!」
「分かってる」
短いやり取りの後、彼らはペースを上げてタエキ村を目指した。
そして、その光景を目にした。
既に炎が消えている事は道中で確認していた。
嫌な予感が外れるようの何度も祈りながら向かった。
その祈りはどうやら届かなかったようだ。
記憶を頼りにすれば今彼らがいる場所がタエキ村になる筈。
しかし目の前に広がる光景にタエキ村は映っていなかった。
否、タエキ村だったもののみが映っていた。
そこにあったのは巨大な穴。
それもタエキ村と同規模の穴だ。
穴の深さを確かめようにも立ち上る黒い煙がそれを許さず、離れていても尚感じる熱に思わず顔を顰める。
「これは酷いな」
「信じたくない光景ですよ、シド隊長」
確かに信じたくない光景だ。
それでも道中で見た巨大な火柱が嫌というほどに現実を実感させた。
ここにはタエキ村があった筈だ、つまり。
そこまで考え、シドは嫌な現実に顔を抑えた。
「一体誰がこんな事を」
「少なくとも『ブラックダック』の奴らではないのは確かだろうな。
奴らはこんな事が出来るほど人間を辞めていない」
「ですね」
「俺の記憶でもこんな事が出来そうなのは1人しかいない。
とはいえ、あの爺がこんな事をするとは思えねぇ」
「そうですね、クソ爺ではありますがあの人は悪人ではないですから、クソ爺ですが」
「やけに爺にキツイなタニア、セクハラでもされたか?」
「胸を揉まれた上、残念そうな顔をされました。
あれほどの怒りを覚えたのは初めてです」
「あらら、そら災難だったな。
さて、話を戻すとして爺じゃねぇなら誰がしたか・・・・・・」
「もしかしたら、人じゃないかも知れませんよ」
「となると、邪神か」
「あるいは魔神族の者の可能性も」
かの邪神ならばこの程度の事は容易いだろう。
その眷属である魔神族の中にも出来る者もいるかも知れない。
だが───。
「それはやはり、有り得ないか」
「そうですね、彼らは人間との共生を目指しています。
このような事をすれば叶わぬ夢になる事を彼らが分からない筈がない」
「共生を望まぬ魔神族の仕業かも知れないが、心を読む事が出来る邪神がそんな輩を生かしておくとは思えねぇ」
「ならば、一体誰ががこのような事をした───っ!」
「気付いたかタニア」
「はい!」
言葉を交わしていて2人の間に緊張が走る。
その様子に黙って2人の話を聞いていた騎士たちもその様子に顔つきを変えた。
「出て来い、いるのは分かっている」
険しい顔つきをしたシドの言葉に合わせ隣にいるタニアも鋭い視線をある箇所に向けた。
───その言葉に対して返ってきたのはあまりに場違いな拍手の音だった。
一瞬、面食らった彼らであったが直ぐに油断なく構え何が起きても対応できる体勢に入った。
一連の動作の無駄のなさから彼らの鍛錬の成果とその実力が見えた。
「いやはや、完全に気配を消してなかったとはいえ気づく者もいるのですね。
どうやら貴方方を甘く見ていてようだ」
何処か楽しそうな声と共にそれは何も無い虚空から姿を表した。
「やぎ・・・」
「人間じゃねぇな、どう見ても」
虚空より現れたのは明らかに人外の類であった。
人間の同じ体つきこそしてはいるが、顔が完全に山羊であった。
その身を貴族の使用人が着るような黒い燕尾服で包み、シルクの手袋で覆われた手で口元を抑えながら楽しそうに笑う山羊顔の化け物。
敵意こそ見せてはいないが、その異常な存在に一瞬でも気を抜くような馬鹿はこの中にはいない。
「どうやらあまり歓迎されているようではありませんね」
「当たり前だ。今のこの状況で明らかに人間じゃない化け物が現れれば誰だって警戒する。
テメェはそれが分かった上で、出てきたんだろう」
「おや、やはりお分かりになりますか。
どうやら中々頭が切れる御方のようだ」
「褒め言葉として、受け取っとくわ。
そんな事はいい、単行直入に聞く。
タエキ村をこんな事にしたのはテメェか?」
「いいえ、私ではありません」
即答であった。
とはいえ、化け物の言葉を素直に受け止める気は彼らにはない。
「それを俺達が信じると思うか?
この状況で出てきたテメェが一番怪しいって言ってんだよ」
「事実ですよ。
私はやっていない。ただ、やった人物を知っているだけです」
「何んだと⋯⋯」
「その者の名はハーデス。
異種族を統べる我らが王。
最強にして、至高の魔王。
この村は我が主が世界にその威光を示す為に残した最初の犠牲ですよ」
「魔王、ハーデスか⋯⋯。
随分と、ふざけた事を口にするな。」
「巫山戯てはいませんよ。
私は、ただ事実を述べているのみです。
それとどうやら貴方方は状況をよく理解していないようだ」
「何言ってやが⋯⋯っ!」
「人間風情が喋るな。
貴方方はただ私に情報を寄越してくれたらいいのですよ。
その為に私がわざわざ出てきたのですから」
山羊顔の化け物の顔つきが突如として変わり、同時に身を押しつぶすかのような圧力が彼らを襲った。
その正体はただの殺気である。
だが、目の前の化け物が放つそれは見えない重しのように重く彼らにのしかかった。
「我らが王はこの世界の情報を欲している。
忠実な僕たる、我々はその命を遂行せねばならないのですよ。
だから、より有用な、他の仲間が入手していない貴重な情報を私は欲しています。」
ほかの者に先を越されたくないですしね。
心中でそう呟くと、ニッコリとその顔に笑みを浮かべた。
「有用な情報を私に提供してくれませんか?
そしたら命だけは助けてあげましょう。」
「⋯⋯断る」
「ほぅ、この状況が、私との実力差が分からないほど馬鹿ではないと思っていたのですが⋯⋯」
「理解しているよ、テメェとの実力差を。
けどな俺達は騎士だ!
国を守る為に騎士になった!
か弱い者を守る為に闘う事を選んだ!
騎士である俺達が折れたら誰が国を守る!
誰がか弱い者を救う!
例え相手が化け物であろうと俺達の心は決して折れたりはしねぇ。
俺達は騎士として闘う事を選ぶ!」
シドの言葉に山羊顔の化け物は面食らったように固まり、周りの騎士たちはその言葉に笑みを浮べ震える体で剣を抜き、そして構えた。
殺気という圧力が消えた訳ではない。
それでも、彼らの心に宿る思いがそれに抗う事を選んだ。
「だから覚悟しろよ、化け物。
俺達は国の為、か弱い者の為にテメェを討つ」
折れぬ心を持つから騎士である。
誰かを守る為に闘うからこそ人は強くなれる。
己の限界さえ超え、守るべき者の為に敵と闘うのだ。
(このような人間、私達の世界にはいなかったですね)
信念を貫くからこそその在り方は酷く美しい。
(まぁだからどうした、って話ですがね。)
そのような言葉も信念も目の前の化け物には響かない。
彼らは主たるハーデスの為だけに動く。
例えハーデスに恐怖を抱こうとも、その圧倒的な強さに惹かれて付いたいったのが彼らだ。
故に、ただ忠実にハーデスの命を遂行する為だけに目の前の化け物も動いた。
「本当に残念ですよ。
出来るならば穏便に済ましたかったのですが、仕方ありませんね」
困ったように笑った後、化け物は鋭い視線をシド達に向ける。
それに反応し彼らは動いた。
「魔王ハーデスの忠実なる僕、『煉獄七魔将』が一人アスモデウスと申します。
貴方方には特別に私自らが遊んであげましょう。」
迫るシドの剣を片手で掴み、ニッコリと山羊顔の化け物アスモデウスは笑う。
「今宵、一夜限りの悪夢をどうかご堪能あれ」
───深い絶望が彼らを襲うまで後、数秒。