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長きに渡っていた、正義の国の三大名家の争いは、僕の雷神魔法により終幕を迎えた。
「本当にありがとう。ヤマトくん」
「いえ……そんな……」
ブルーノさんは、ロズさんと共に握手を求めた。
「ほら、ロズ! こんなに迷惑を掛けたんだから、何かお礼でもしてやったらどうだ?」
あんなにオドオドして、「戦いたくない……」なんて弱腰だったブルーノさんの欠片は残っていなかった。
「な、何か手伝えることはないか……?」
僕は少し考えたが、これしか思い浮かばなかった。
「自然の国、楽園の国、自由の国、そして守護の国に、龍族の一味という、強力な力を持った人たちが “神殺し” の為に攻めて来ます……。どうか、お力添えを頂けないでしょうか……!」
こんな戦争に巻き込むような願いはしたくなかったが、少しでも七神の人たちを守りたかった。
「いいだろう。七神のみんなは友人だ。むしろ、その情報をくれたことに感謝したいくらいだ」
ロズさんは、オドオドしながらも背を伸ばした。
「ヤマト、そうなると、兵士たちをちゃんと、“属性に合わせた戦地” へ向かわせる必要があります。人数だけ増えたって意味がないですから」
「属性に合わせた戦地……?」
すると、アゲルは指を差し出す。
「例えば、炎は水に弱い。これは当然の自然の摂理です。なら、炎魔法を扱うゴーエンの元には、水魔法を得ているルークが向かうはずです」
「そうか……なら、ルークさん、水魔法に強い属性魔法の兵士を向かわせる方がいいってことか……。で、水魔法って何の属性が強いの……?」
「ヤマトは全属性や、様々な魔法が使えますから、今まで魔法について詳しく説明して来なかったですね。一度、戦地状況と照らし合わせながら説明します」
まず、炎は水に弱い。
炎の神 ゴーエンの元には、光魔法、及び水魔法を得たルークさんが出向くはずです。
水魔法に強いのは雷魔法。
ですので、雷の神自身が向かうべきです。
水魔法に雷魔法が強いことが分かりましたので、水の神 ラーチの元には、闇魔法、及び雷魔法を得たガンマさんが出向くでしょう。
幻影魔法は強力ですが、雷だけを見れば、岩魔法が対抗属性になるはずです。
その為、岩魔法を使えるヴェンドさんを交えた、雷鳴隊の皆様が向かうのが妥当かと思います。
幻影魔法には雷も強いですからね。
岩の神 カズハさんの元には、炎魔法のカエンさんが再び行くでしょう。
岩や鋼は、熱で溶かすことが出来ます。
ですので、ルビーさんたち海洋隊の皆様が出向くのがいいかと思います。
そして、最後に、風には風魔法です。
守護神であるブルーノさんが行くべきでしょう。
こうして、アゲルは的確に指示を送った。
「お前……本当、作戦立てるのだけは上手いな……。それより、大変な時に簡単に牢から抜け出して何してたんだよ!!」
「ヤマトをずっと空から見てました。たまには誰の力も借りずに乗り越えて欲しかったからです。それよりも、まだ魔法には属性以外にも種類があるんですよ」
「種類……?」
ヤマトの風魔法、及び風神魔法の様な魔法は、『移動魔法』と呼ばれるものです。
基本的には、皆さん足に防具を付け、魔力を独自に放出させたりして移動速度を上げていますが、移動魔法専用の魔法はその上を行きます。
頭に入れてしっかり立ち回ってください。
炎魔法、及び炎神魔法は、炎を付与します。
これは『付与魔法』と呼ばれるものです。
水魔法、及び水神魔法は『攻撃魔法』です。
この世界の人たちが基本的に使える魔法手段です。
岩魔法は『防御魔法』で良かったですね。
岩神魔法は少し特殊ですが『治癒魔法』になります。
カズハさんの想いが込められているのでしょう。
雷魔法は『拘束魔法』でした。
雷のバリアを張り、触れたら痺れさせるのでしょう。
だからホクトさんも身動きが取れなかった。
雷神魔法も特殊ですが『洗脳魔法』です。
洗脳を掛ける訳ではないですが、脳に直接電波を流して意思を伝えるものになってますね。
「ちなみに、雷の神 ロズの雷神魔法はなんですか?」
そして、急に話をロズさんに向けるアゲル。
困惑気味にロズさんは答えた。
「あまり役に立たないと思っていたのだが、この話なら俺の雷神魔法は打ってつけかもしれないな……。実は、俺の雷神魔法は移動魔法。いつ何時でも、他の七神の仲間たちを守れるように、こんな仕掛けにしてあったんだ」
そう言うと、ロズさんは地に手を付けた。
「 “雷神魔法 ジバ・デ・グランダー” 」
すると、ゴゴゴゴ……と地面は揺れ始める。
「おいこれ! 書物にしか書いてなかった、ロズ様の伝説の魔法じゃないか!?」
「まさかお目に掛かれるなんて……!!」
地鳴りと共に、民衆も騒ぎ始める。
どうやら、ロズの雷神魔法は、伝説の御伽噺として誰しもが知っている程の魔法らしい。
しかし……何が起きてるんだ……?
地鳴りがただ続いてるだけな気がするんだけど……。
「ヤマト、あの雪山を見てください」
アゲルは、正義の国に面した雪山を指差す。
「あれ……?」
雪山の麓に位置していたはずの正義の国は、雪山の頂上と同じ目線に上昇していた。
「まさか……正義の国そのものを移動させてるのか!?」
「どうやらその様です……。本人は『移動魔法』だと豪語していますが、これは大地の磁波を利用した立派な『攻撃魔法』になるものです。きっと、ロズの正義心から、攻撃には使用しないと決めているのでしょう」
そして、ロズは手を離した。
「これで、全員を現地へ連れて行ける」
そして、ブルーノさんが前に出る。
「正義の国を南に向かえば、まずは自然の国に当たるはずだ。まだ襲来には時間があるのでしょう。僕が先に降りて風の神とその守護神と策を立てましょう……。こちらは任せてください。ヤマトくんは、別の戦地を……」
「分かりました……。一度、仲間の元に向かいたいので楽園の国に行きます。アゲルは別の場所に。交信を繋げておいて、危なくなったら、仙術魔法 神威ですぐに駆け付ける」
「それが最善かも知れませんね。何かあった時の為に、先に光剣をお渡ししておきます。危なくなったら逃げてください。ゴーエンなら易々とやられません」
そうして、雷の神 ロズさん自らの指揮の元、雷鳴隊、海洋隊、そして、ブルーノさん率いる風漂隊も、戦地へ赴く身支度を済ませて行った。
龍族の襲来……相手は一人……。
これだけの数がいれば大丈夫だと思いたいが……。
僕には嫌な予感がヒシヒシと脳を過ぎる。
これは、“戦争” なのだと。
「自然の国の大樹が見えてきたぞ。そろそろだ」
ブルーノさんが降下準備に入ると、自然の国の上空には、
「オアアアアアアッ!!!」
「な……なんだアレは……」
翠緑の鱗を宿し、蛇のように長くトグロを巻いて空を飛ぶ龍が、既に自然の国の上空に飛んでいた。
「ヤマト……あれは風龍です!!」
「そんな……まだ時間はあるだろ!?」
アゲルは慌てて僕の目を見遣る。
「ヤマト、皆さんを守りたいですか?」
本当は、アゲルなら、自分の命や、僕の使命を優先しろと言いたいはずなのに、僕の気持ちを汲んでいるんだ。
我儘を、言わせてもらおう。
「ああ……守りたい……!」
そして、僕に光剣を手渡す。
「自然の国は龍族の襲撃を知らず、慌てているはずです。風の神 ヒーラもバルトスさんも、決して戦闘向きな魔法ではありません……。いきなり作戦が変わってしまいますが、ヤマトが風龍、及び、風龍の加護を受けた龍族を倒し、無事に楽園の国で落ち合いましょう」
ブルーノさんの額からも汗が滲み出ている。
「武運を……」
「行くよ、ヤマトくん……!」
「はい……!!」
僕とブルーノさんは、正義の国から飛び降りた。